マイナス金利で退職給付債務の現在価値と将来価値に“逆転現象”

4月上旬からは監査法人の往査も始まるなど平成28年3月期決算作業が本格化しているが、今決算期における話題の1つとなっているのが、「マイナス金利」が退職給付債務に与える影響だ。

退職給付債務 : 退職一時金や、退職年金といった退職給付は、企業からすれば従業員に対する「負債」であり、従業員の勤務期間が長くなればなるほどその額は大きくなっていく。将来見込まれる退職給付の支払総額のうち、当会計期間までに発生していると認められるものを「退職給付債務」という。

具体的に見てみよう。退職給付債務を計算するには、原則として「割引計算」が必要になる。預金利率が1%の場合、現在の100円の1年後の経済的価値は(利息がつくため)101円になるが、割引計算とは、こうした現象を踏まえ、「将来に受け取れる価値を現在受け取るとしたらどの程度の価値を持つか」を計算するもの。例えば1年後に101円の退職金を支払う場合、当期末に計上する退職給付債務は「101円」ではなく、利息(割引率)1%を考慮した100円となる。

1年後の101円の現在価値はいくらか?
101÷(1+0.01)(利率1%で割引)=100円
預金利率1%の下では、「将来の101円」の現在価値は、割引計算の結果、100円となる。

退職給付債務の計算に用いられる割引率は、安全性の高い債券の利回り(国債、政府機関債または優良社債の利回りのいずれか)とされている。これは、その利回りこそが「純粋な時間的価値」を反映したものと考えられているためだ。国債の利回りを割引率として用いている会社を前提とすると、国債の利回り(割引率)の変動と退職給付債務の関係は以下のとおりとなる。

国債の利回りの低下(割引率の低下)→退職給付債務の増加(負債の増加)
国債の利回りの増加(割引率の増加)→退職給付債務の減少(負債の減少)

最近の国債の利回りは、財務省のウェブサイトで公表されている。下表はその抜粋だが、10年以下の国債の金利がマイナスとなっていることが確認できる。

国債金利情報 (平成28年3月) (単位 : %)
基準日 5年 6年 7年 8年 9年 10年 15年 20年
H28.3.17 -0.184 -0.184 -0.178 -0.144 -0.102 -0.054 0.157 0.429
H28.3.18 -0.22 -0.222 -0.22 -0.186 -0.144 -0.101 0.095 0.347
H28.3.22 -0.22 -0.221 -0.219 -0.189 -0.146 -0.1 0.086 0.342
H28.3.23 -0.236 -0.24 -0.235 -0.2 -0.158 -0.111 0.085 0.347
H28.3.24 -0.225 -0.236 -0.231 -0.194 -0.147 -0.094 0.124 0.397

上述のとおり、国債の利回りが低下すれば退職給付債務は増加することになる。国債の利回りがマイナス(マイナス1%と仮定)となった場合、退職給付債務の現在価値がどうなるのか見てみよう。・・・

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