ここ数年、欧州は世界でも最も厳格なサステナビリティ規制を次々と導入してきた。その代表例が「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)」と「企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)」である。前者は環境や人権などに関する情報を詳細に開示する義務を課すルールであり、後者はサプライチェーン全体にわたり人権侵害や環境破壊がないか調査・監視する義務を定めたもの(2024年9月13日のニュース「欧州のサステナビリティ開示規制に向け日本企業の役員がとるべき対応は?」参照)。要するに、欧州でビジネスをする企業は「環境・人権に関する取り組み状況を公開し、取引先まで含めて問題がないかを証明せよ」と迫られてきたわけだ。
この仕組みは理念的には一定の説得力を持つが、実際に対応する企業にとってはあまりに負担が大きかった。こうした中、欧州委員会自身も「やりすぎた」と認める形で、2025年2月に発表された「オムニバス法案」において規制の簡素化を打ち出している。まずCSRDについては、従業員数や売上規模で適用対象を大幅に絞り込む。具体的には、①EU域内企業であれば「従業員数1,000人以上」、②EU域外企業であれば「EU域内売上高4億5,000万ユーロ超」という適用要件を追加する。その結果、約8割の企業が規制対象外となる見込みだ。CSDDDについても、調査範囲を「直接の取引先」に限定し、間接的な取引先まで追うことは原則として不要とした。さらに、現行ルール上は「毎年」実施することが求められるモニタリングを「5年に一度」とするなど、負担軽減の方向性が示されている。
欧州委員会 : 加盟国の首脳らをメンバーとし、全体的な政治指針と優先課題を決定するEUの政治的最高意思決定機関
オムニバス法案 : 映画や音楽で使われる「オムニバス(複数の短編をまとめた作品集)」と同じ語源であり、ここでは、サステナビリティ関連の複数の異なる規制(CSRD・CSDDD など)の簡素化や調整をパッケージとしてまとめて提案した法案であるため「オムニバス法案」と呼ばれている。
日本企業にとってこれらの変更のインパクトは大きい。これまでは「欧州に子会社がある」「欧州向けに製品を販売している」というだけで、グループ全体の詳細なデータを報告しなければならなかった。たとえ・・・
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