2026年3月27日、キリンホールディングス株式会社(以下、キリンHD)は2025年12月期の有価証券報告書を提出し、日本初のSSBJ基準適用会社となった(キリンHDのリリースはこちら)。同時に英語版も公表されており、グローバル投資家への情報提供を重視する同社のスタンスがうかがえる。以下、キリンHDの開示内容を分析し、今後SSBJ基準の適用を受ける可能性がある上場会社が留意すべきポイントを整理する。
SSBJ基準 : SSBJ(Sustainability Standards Board of Japan=サステナビリティ基準委員会)が策定するサステナビリティ開示基準。SSBJ基準は、企業に共通して求められる基本的な開示事項を定める「一般基準」と、気候関連など個別テーマごとの具体的な開示事項を定める「テーマ別基準」に分かれている。一般基準では、企業のサステナビリティ情報を「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標・目標」の4要素で開示する構造を採用しており、このうち「戦略」は企業の中長期的な方針や取組の方向性を示すもの、「指標・目標」はその進捗や成果を測る具体的な数値や達成水準を示すものである。
ポイント①:ページ数の爆発的増加(53ページ増)
SSBJ基準適用前の前年度の有価証券報告書では、【サステナビリティに関する考え方及び取組】のセクションは約13ページだったが、SSBJ基準適用後は約66ページと、単純比較で53ページの増加となった。これは、サステナビリティ開示が財務諸表並みの情報量を求められることを示している。
SSBJ基準は、過大なコストや労力をかけずに利用可能な情報を用いて開示するという設計思想だったはずだが、今のところSSBJ基準が適用されるかどうか未定の時価総額5千億円未満のプライム市場上場会社など、サステナビリティ開示の体制が十分でない中小規模の上場会社が本当に対応できるのか、金融庁における適用対象を巡る議論に一石を投じる可能性があろう(SSBJ基準の適用対象については2026年3月18日のニュース「平均時価総額の開示はすべてのプライム上場企業が対象」参照)。
ポイント②:テーマの絞り込み
キリンHDは、同社が設定する「グループ・マテリアリティ・マトリックス(GMM)」と呼ばれる31個の経営課題を起点に、シングルマテリアリティ(企業価値への影響)の観点から、以下の7つの重要テーマを選定した。
シングルマテリアリティ(企業価値への影響) : 「社会・環境が企業財務に与える影響」のみを評価してサステナビリティ上の重要課題を特定する考え方。「企業が社会・環境に与える影響」と「社会・環境が企業財務に与える影響」の2軸の評価によりサステナビリティ上の重要課題を特定する考え方はダブルマテリアリティと呼ばれる。
(1) アルコールの負の影響
(2) 健康長寿社会
(3) アンメットメディカルニーズ
(4) 人的資本
(5) 人権
(6) 消費者課題
(7) 環境(気候変動・自然資本)
アンメットメディカルニーズ : 既存の医薬品や治療法だけでは十分に応えられていない医療ニーズを指す。キリンはこれを健康領域の重要課題と位置づけ、「医薬品にとどまらない医療ニーズへの新たな取組」の対象としている。「アンメット」とは「満たされていない」を意味する。
SSBJ基準では、重要テーマごとに「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標及び目標」の記載が求められるため、テーマの選定がサステナビリティ開示の分量(ページ数)を大きく左右することになる。
注目されるのが、キリンHDが明示した重要性の判断基準だ。具体的には、・・・
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