「別途積立金」に向けられる市場の厳しい視線

上場企業の純資産の内訳をみると、「別途積立金」という科目を目にすることが少なくない。しかし、その意味や役割について考える機会はあまりないのではないだろうか。

別途積立金を積み立てる()目的は、「内部留保」あるいは「社内留保」のためと説明されるのが一般的だ。しかし、「内部留保」とは何かと問われると、その意味や内容を明確に説明することは必ずしも容易ではない。実際、会計上の利益剰余金、現預金の蓄積、あるいは企業が保有する純資産といった異なる概念が、同じ「内部留保」という言葉で語られることも多い。

別途積立金を「新しく積み立てる」ことも「取り崩す」ことも、会社法上は「剰余金の処分(会社法第452条)」に該当するため、原則として株主総会の決議が必要となる。別途積立金の「積立」および「取崩し(処分)」を行う権限(機関決定)は、原則として株主総会にある。もっとも、下記の一定の要件をすべて満たしている会社であれば、定款に定めることによって、剰余金の処分権限を取締役会に委任する(取締役会決議だけで決められるようにする)ことができる(会社法第459条1項)。
・ 会計監査人設置会社であること
・ 取締役の任期が1年を超えないこと(監査等委員会設置会社では、監査等委員である取締役を除く)
・ 監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、または指名委員会等設置会社であること


利益剰余金 : 企業活動で得た利益のうち、株主に還元(配当)せずに社内に留保してきた金額。

一見すると地味な会計科目に過ぎない別途積立金が、いまアクティビストの標的になっている。そこで本稿では、別途積立金の法的性質と、その積立て・取崩しの意味を確認したうえで、「内部留保」との関係について整理してみたい。それにより、市場が別途積立金に厳しい視線を向ける理由が見えてくる。

まず、「内部留保」とは文字通り「外部に流出させずに社内で留保する」ということだが、ここでいう「外部」とは、株主のみを指す。したがって、内部留保を仕入代金、生産設備の購入、従業員への給与の支払いなど、株主以外に対する支出に充てることは何ら問題がない。

また、内部留保のために別途積立金を積み立てたからといって、預金などの裏付資産が自動的に確保されるわけでもない。つまり、別途積立金の積み立てには預金を保全する効果はない。別途積立金に限らず、積立金が多額に積み上がっていると財務基盤が盤石であるかのような印象を与えがちだが、どれほど多額の積立金が計上されていたとしても、支払資金が不足すれば企業は倒産に至る。

別途積立金は繰越利益剰余金から振り替えられて増加するが、その振替はあくまで利益の「帳簿上の置き場所」を変えたもの(利益剰余金の内部区分の変更)に過ぎない。別途積立金として計上しても、繰越利益剰余金のまま留保しても、自己資本の総額に変化はない。また、別途積立金のままでも分配可能額に算入される()。

会社法上、分配可能額の計算にあたり、別途積立金は分配可能な額とされる。例えば、その他資本剰余金がなく、その他利益剰余金の内訳が別途積立金100、繰越利益剰余金100という状況(それ以外の分配可能額に影響を与える金額はないと仮定)であれば、200を分配することができる。


その他資本剰余金 : 会社にとっての“余剰金”である剰余金は、(1)増資などの資本取引により得た金額のうち資本金に組み入れていない金額である「資本剰余金」と、(2)企業活動で得た利益のうち、株主に還元(配当、自己株式の取得)せずに社内に留保してきた金額である「利益剰余金」に分けられるが、これらの剰余金をすべて配当してしまうと、債権者保護の観点から問題があるため、会社法では、これらの剰余金のうちの一部を、それぞれ「資本準備金」「利益準備金」として積み立てることを求めている(両準備金を合わせて「法定準備金」という)。資本剰余金から資本準備金を差し引いた金額が「その他資本剰余金」、利益剰余金から利益準備金を差し引いた金額が「その他利益剰余金」であり、これらの合計額は配当が認められる「分配可能額」とされる(厳密には、さらに自己株式等の調整計算も必要になる)。

しかも、別途積立金は「設備更新積立金」や「災害対策積立金」といった目的のある積立金とは異なり、特に目的のない積立金である。法令上積み立てを求められているわけでもない。特定の使途を明示せずに積み立てているため、便宜上「別途」と称しているに過ぎない。

では、別途積立金の積み立ての目的である「内部留保」にはどのような意味があるのだろうか。実は、・・・

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