フィデューシャリーアドバイザーズ代表
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員
吉村一男
東京地裁が牧野フライス製作所のニデックに対する対抗措置を肯定して以降、「時間稼ぎ」を目的とした対抗措置が散見される(2025年6月9日のニュース「同意なき買収に対する“時間稼ぎ”」参照)。例えばデジタルホールディングス(東証プライム)は、シンガポールの投資家であるSilver Cape Investments Limited(以下、シルバーケイプ)よりTOBの予告提案を受け、まさに「時間稼ぎ」のための対抗措置を導入している(2025年10月28日付の同社のリリースはこちら、捕捉資料はこちら)。
Silver Cape Investments Limited : 「シルバーケイプ・インベストメンツ・リミテッド」はシンガポールを拠点とするファミリーオフィス(富裕層による資産管理会社)であり、投資家でもある。長期的な視点での投資アプローチを特徴とする。日本企業のヤマトインターナショナルやデジタルホールディングスなどへの投資が確認されている。
デジタルホールディングスが対抗措置を導入したのは、シルバーケイプによる提案に含まれる条件が、一般株主にとって不利に働くおそれがあると判断したためだ。シルバーケイプの提案では、TOBで取得予定の3,535,700株(議決権比率18.93%)と、既に保有している 2,690,800株(議決権比率14.41%)を合わせた33.34%の議決権を握る計算になっており、全ての株式を取得するわけではない。デジタルホールディングスは、この条件のまま進むと、TOBに応じない株主が少数派として取り残され、意思決定や経営方針への影響力がさらに小さくなるおそれがあるとの懸念を示している。また、流通株式の比率が下がることで、株式を自由に売買しにくくなるなど、株主にとって不利な状況が生じかねないと指摘。その結果、「今のうちにTOBに応じた方が良いのでは」と感じる株主が増え、事実上の圧力(強圧性)が働く可能性があるとしている。そこでデジタルホールディングスの取締役会は、一般株主が冷静かつ公正に判断するための情報と時間を確保する必要があるとして、対抗措置の導入を決議したというわけだ。
強圧性 : 企業価値の減少が予想されるTOB(公開買付け)において、一般株主が経済的に損をする可能性があるにもかかわらず、TOBに応募するインセンティブが生じる状況を指す。TOBを巡る課題の一つとなっており、金融庁・金融審議会の「公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ」では、強圧性のおそれを解消・低減させる措置として、全部買付義務の閾値(現行は3分の2)を引き下げる措置などが議論されたが、反対意見もあり、提言までには至っていない。
ただし日本では、・・・
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