フィデューシャリーアドバイザーズ代表
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員 吉村一男
米国で活発化している「買収アクティビズム」(2025年10月14日のニュース「買収アクティビズムの台頭」参照)が日本でも現実のものとなっている。東京コスモス電機を巡る一連の“騒動”はそれを物語っている。
買収アクティビズム : アクティビスト・ヘッジファンドが投資する会社の株主総会で自らの推薦する取締役を選任するなどした後、PEファンドへの株式売却を通じて会社を非公開化する一連の活動をいう。
シンガポールのスイスアジア・フィナンシャル・サービシズが運営する投資ファンドのグローバルESGストラテジー(GES)と中国系の成成株式会社は、2025年6月の東京コスモス電機の株主総会で、計8人の取締役選任を株主提案した。提案の理由は、現取締役会は①成長性・収益性の悪化を改善する具体的な施策を示すことができていないこと、②株価を意識した経営を行っておらず、特に余剰資金を成長投資や株主還元に有効利用できていないこと、③後継者育成ができていないこと、というもの。しかし、東京コスモス電機の取締役会は5月21日、これに反対することを表明。その理由として、株主の提案は①的を得ていないこと、②事業に対する理解に欠けていること、③取締役候補者が取締役としての適格性を欠いていること、を挙げた。また、東京コスモス電機の取締役会は6月3日、横浜地方裁判所に検査役の選任申立てを行い、6月9日には弁護士が検査役に選任されている。さらに、東京コスモス電機の取締役会は友好的買収者を探し、6月10日には米電子部品大手ボーンズによる友好的TOBに賛同、GES・成成に対抗する姿勢を鮮明にした。しかし、株主提案による計8人の取締役選任議案は株主総会で51.97〜52.62%の賛成を集め可決された。一方、東京コスモス電機の取締役会が提案した取締役候補5人の選任議案は否決され、取締役が総退陣に追い込まれる事態となった。
検査役 : 裁判所が選任する第三者で、株主総会の招集手続きや決議の方法などが適正かどうかを調査し、その結果を報告する役割を担う者。紛争の未然防止や証拠保全のために選任される。
東京コスモス電機の新取締役会は7月18日、ボーンズによるTOBに賛同することを撤回、8月8日には、これまでの旧取締役会と株主とのやり取りに問題がなかったかを調査するため、特別調査委員会を設置している。そして11月10日には、新中期経営計画、執行役員人事、ボーンズとのTOB契約の解除を公表。旧取締役会が2024年4月に公表した中期経営計画は、計画最終年度の2026年度の売上高は2023年度比で横ばい、同じく売上高営業利益率は12%から10%に下がるというネガティブなものだったが、新取締役会は新中期経営計画で「目先の利益追求から未来への成長投資を加速する」との方針を打ち出し、東南アジアに数億円かけて新工場を建設するなど成長投資に23億円以上を投じることを見込み、2031年3月期の営業利益は2026年3月期の見通しの約3倍にあたる15億円を目指すとしている。
売上高営業利益率 : 企業が売上に対してどれだけ効率よく利益を出しているかを示す。「営業利益 ÷ 売上高」によって計算され、売上高営業利益率が低い場合には、売上に対してコストがかかりすぎており、利益が出ていない可能性がある。「ROS(Return on Sales)」とも呼ばれる。
米国では、アクティビストが推薦する取締役が選任されるパターンとして、・・・
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