「借金は怖い」が企業価値を下げる――借入余力の放置が招く低ROE

「借金は怖い」
日本企業の経営者と対話していると、こうした声を耳にすることは少なくない。借入金には返済義務があり、業績が悪化すれば返済負担が経営を圧迫する。そこで生まれるのが、自己資本比率は高いほど良いという考え方だ。こうした意識の背景には、バブル崩壊やリーマン・ショック時の過剰債務による倒産危機という「負の記憶」がある。今もなおその呪縛から抜け出せていない日本企業には、「無借金経営は善」という価値観が根強く残っている。

もちろん財務の健全性は重要だが、自己資本比率の高さだけを追求する経営は別の問題を生む。新規投資の抑制による成長機会の喪失である。逆に言えば、借入余力を残したままにすることが、企業価値の押し下げ要因になっている。

企業価値を考える上で重要な指標の一つがROE(自己資本利益率)である。ROEは次の算式により算出される。

ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本

この算式が示すように、利益水準が変わらないまま自己資本だけが増えれば、ROEは低下する。

さらにROEは、売上高利益率、総資産回転率、財務レバレッジの3要素に分解できる。いわゆるデュポン分解である。

ROE = 売上高利益率(当期純利益 ÷ 売上高)× 総資産回転率(売上高 ÷ 総資産)× 財務レバレッジ(総資産 ÷ 自己資本)

このうち財務レバレッジは、「他人資本(借入金)を活用する度合い」を示す。借入を活用すれば、自己資本だけでは実現できない投資が可能となり、事業拡大を通じてROEを押し上げる効果が期待できる。

一方、収益性の高い投資機会があるにもかかわらず、借入を避けて投資を抑えれば、利益成長が鈍化し、中長期的なROEの低下につながる可能性がある。

もちろん、借入を無制限に増やせばよいという話ではない。問題は、十分な投資機会があるにもかかわらず、自己資金の範囲内に経営を閉じ込め、成長機会を取り逃しているケースである。

その典型例として、借入能力を十分に活用していないことが資本効率の低下につながっているのではないかとしてアクティビストファンドから問題提起を受けたのが、・・・

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