買収プレミアムの誤用

フィデューシャリーアドバイザーズ代表
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員 吉村一男

上場会社を公開買付け(TOB)によって買収(M&A)する場合、買収者は、当該上場会社(対象会社)の株主に保有している株式を売却してもらうため、対象会社の市場株価よりも高い価格を提案する。この「市場株価」と「買収価格」の差は「買収プレミアム」と呼ばれる。買収プレミアムは、M&Aの目的や性質によって変動があるが、近年の統計的な中央値は、概ね以下のとおりとなっている。

・ 直近1か月の市場株価に対する買収プレミアムの中央値:約35%〜45%
・ 事業提携・連結子会社化の場合:20%〜30%
・ 非公開化(MBO・完全子会社化)の場合:40%〜60%

買収者がTOBを開始する際に法令に基づいて提出・開示する「公開買付届出書」や、対象となる上場会社が公表するプレスリリースを見ると、「本TOBに付されたプレミアムの水準は、直近5年間にTOB期間が終了し、かつTOBが成立した非公開化を前提とする日本国内の事例における買収プレミアムの中央値との比較において、いずれも参照期間の同種事案における各プレミアム率を上回る数字である」「本TOBに付されたプレミアムは、これらの同種事案と比べて特に低い水準ではない」などの記載がある。この「買収プレミアム」に関する記載は、東証や財務局との事前相談でも確認される。ただ、他の事案と比べて買収プレミアムが高いことをもって、本当に買収価格が株主にとって「公正」であるといえるのだろうか。・・・

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