東京国際大学教授
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員
吉村 一男
2026年9月9日付で寄稿した「日米裁判例から読み解く買収防衛策差止めの仮処分申立ての行方」では、シンガポールに拠点を置く投資ファンド3Dインベストメント・パートナーズ(3D)が東邦ホールディングス(東邦HD)による買収防衛策の発動差止めを求めて申し立てた仮処分について、日米の判例法理に照らしてその行方を占ったところだが、2026年9月18日、東京地方裁判所はこの申立てを認め、東邦HDが本年6月26日の定時株主総会決議に基づいて行おうとしていた新株予約権無償割当てを差し止める旨の決定を下した。株主総会での可決から約3か月、両者の攻防は司法の場で一つの節目を迎えたことになる。
仮処分 : 正式な裁判の結論を待つ間に回復し難い損害が生じるのを防ぐため、裁判所が暫定的に命じる措置。
新株予約権無償割当て : 株式を取得できる権利を株主に無償で割り当てること。買収防衛策として用いる場合、買収者など特定の株主が権利を行使できない条件を設け、他の株主に株式を交付することで、その特定株主の持株比率を低下させる。
3Dは審尋の場で、保有株式数が1756万700株、議決権比率が27.02%であることを明らかにした。これは、東邦HDが「実質的な拒否権」に相当すると主張してきた27.17%を下回る。この保有状況は、前回紹介した「経営支配権取得の意図はない」とする3D側の主張に沿うものといえる。東邦HDは同日、「主張が認められなかったことは誠に遺憾」とのコメントを発表し、決定の見直しを求める保全異議を申し立てる方針を示した。したがって、本決定で紛争が最終的に決着したわけではなく、司法の場での攻防は続く見通しとなっている。
審尋 : 裁判所が判断に必要な事情を把握するため、当事者などから主張や説明を聴く手続。「しんじん」と読む。
実質的な拒否権 : ここでは、株主総会の特別決議を単独で阻止できる事実上の影響力を指す。特別決議には原則として出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要なため、出席株主の議決権の3分の1を超える議決権を持つ株主が反対すれば、可決を阻止できる。全株主が出席するとは限らないため、会社全体では議決権の3分の1以下しか保有していなくても、出席株主の議決権の3分の1を超えれば、単独で可決を阻止できる。
保全異議 : 仮差押えや仮処分の命令を受けた側が、その命令を出した裁判所に不服を申し立て、見直しを求める手続。本件では、東邦HDが差止め決定の見直しを東京地裁に求めることをいう。
本決定は、・・・
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