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日米裁判例から読み解く買収防衛策差止めの仮処分申立ての行方

東京国際大学教授
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員
吉村 一男

既に新聞等でも報じられているとおり、シンガポールに拠点を置く投資ファンドの3Dインベストメント・パートナーズ(以下、3D)は2026年8月13日、医薬品卸売大手の東邦ホールディングス(東邦HD)による買収防衛策の発動差止めを求める仮処分を東京地方裁判所に申し立てている。3Dは2020年7月から東邦HD株を継続保有し、現在は議決権の約24%を有する筆頭株主である。東邦HDは3Dによる買い増しに備え、2025年10月に有事導入型の買収防衛策(対応方針)を導入し、2026年6月26日に開催された定時株主総会で発動の是非を株主に諮った。本議案は、議決権行使助言会社のグラス・ルイスが「ガバナンス上の重大な懸念」があり「不十分な根拠」しか示されていないとして反対を推奨していたものの、賛成率54%で可決された。


仮処分 : 正式な裁判の結論を待つ間に回復し難い損害が生じるのを防ぐため、裁判所が暫定的に命じる措置。
有事導入型 : 特定の買収者による買収提案や株式の買い集めなど、具体的な動きが生じた段階で導入する買収防衛策。こうした動きがない平時において、あらかじめ導入するものと区別される。

これに対し、3Dは今回の仮処分申立てにおいて、経営支配権取得の意図はないとして議決権比率を自主的に「27〜30%」に制限する誓約書案を提出していたにもかかわらず、東邦HDが誓約書案提出の事実を株主に開示しないまま買収防衛策を導入したことを問題視している。また3Dは、株式の買い増しに対し買収防衛策に基づく対抗措置を発動してよいかを審査する「独立委員会」の独立性にも疑問を呈している。同委員会の委員長は、東邦HDと継続的な取引関係にある製薬会社MSDの出身者であるからだ。3Dは、今回の買収防衛策の発動を「架空の有事」に基づくものと批判し、経営陣の保身(エントレンチメント)を目的としている疑いがあると主張している。


エントレンチメント : エントレンチメント(entrenchment)は、塹壕を築いて防御を固めることを意味する英語で、経営の文脈では、経営陣が買収や自らの交代を妨げ、地位や支配力を維持しようとする「保身」を指す。

日本では、買収防衛策の適法性を「必要性」と「相当性」の2つの要件に照らして審査する枠組みが定着している。この枠組みは、2005年のニッポン放送事件件に関する東京高裁の決定を経て、2007年のブルドックソース事件に関する最高裁の決定で確立された。「必要性」の審査では、買収によって企業価値や株主共同の利益が現実に害されるおそれがあるかを検討する。「相当性」の審査では、防衛策の手段や程度が、企業価値や株主共同の利益を守る必要性に照らして過剰でないかを検討する。ブルドックソース事件では、買収者にも意見を述べる機会があった株主総会の特別決議(賛成率約83%)によって買収防衛策の承認を得たことに加え、買収者に割り当てた新株予約権をブルドックソースがその価値に見合う金銭で買い取ることで、買収者の経済的利益にも配慮している点を重視した。その結果、持株比率を下げるという不利益を買収者に与えても、防衛の手段として過剰ではないと判断し、「相当性」を認めている。


ニッポン放送事件 : 2005年、ライブドアによる買収に対抗するため、ニッポン放送の取締役会が決議したフジテレビへの新株予約権発行の適法性が争われた事件。東京高裁は同年3月23日、経営支配権の維持・確保を主な目的とする発行であり、これを正当化する特段の事情も認められないとして、発行の差止めを認めた。
ブルドックソース事件 : 2007年、米投資ファンドのスティール・パートナーズによる買収に対抗し、ブルドックソースが株主総会の特別決議を経て、買収者の持株比率を低下させるために実施した新株予約権の無償割当ての適法性が争われた事件。最高裁は同年8月7日、買収が企業価値や株主共同の利益を害するとした株主の判断を尊重し、買収者への金銭的補償なども踏まえて、この防衛策を適法と認めた。
特別決議 : 定款変更などの重要事項について、普通決議よりも高い賛成割合を求める株主総会の決議。原則として、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成を要する。

株主総会決議の存在は、主に・・・

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