決断は早い方が有利に
―――エグゼクティブの転職の年齢層はいかがでしょうか?
森本 最近上がっていますね。50代の人でも普通に決まっています。特に大手企業ではその傾向が強いです。上場企業では、役員に昇進しない限り、55歳で役職定年となるところが少なくありませんが、現実問題として、50歳位になると、自分が役員になるかのかどうか、だいたい見えてきます。こういう人が、55歳手前で転職を決断されるケースが多いですね。よくあるのは、それまで大手企業の部長職だった人が、52~53歳で、もう少し規模の小さい中堅上場企業や新興上場企業に役員クラスで移るケースです。
―――その場合、年収はどうなるのでしょうか?
森本 これはケースバイケースですが、下がるケースも少なくないですね。ただ、そのまま残っていたとしても、55歳になって部長職を外れれば年収が半分になってしまうケースもありますし、場合によっては来月早期退職の対象になるかも知れません。転職したことで一瞬年収が下がったとしても、また上がる可能性も十分にありますし、トータルでは会社を変わった方がメリットがあります。
また、「55歳を過ぎたらワークライフバランスを重視したい」という人なら話は別ですが、仕事が好きで、忙しくしているのが生きがいみたいな人だと、第一線から外れた状態で会社に残るのは苦痛だと思います。実際、55歳を過ぎた後も仕事に打ち込める環境を求めて、大手企業から転職する人は多いですね。まだまだ第一線で頑張りたいという人は、もし今の会社で役員になる目がないと判断したのであれば、決断は早い方がいいです。新しい会社に移ればキャッチアップの時間も必要ですし、採用する側としても、候補者が「あと何年できるのか」という点は当然気にしますので。その点、50代前半であれば、60歳が定年だとしてもまだ十分に時間はあります。
会社にはどうしても“組織の論理”というものがありますので、優秀な人が必ず出世できるというわけではありません。そういう人には、自分が能力を発揮できる別の場所があるということに気付いていただきたいですね。そういう方が場所を変えて活躍できるようになることは、日本経済にとっても必要なことだと思います。
――そういう方が社外役員として活躍する道はないのでしょうか?
森本 もちろんあります。弊社では、役員改選を4~5か月後に控えた上場会社から「社外役員を探して欲しい」というご依頼を受けることが多いのですが、実際、上場企業の部長や役員経験者を候補者としてご紹介させていただくケースはしばしばあります。それ以外ですと、弁護士や公認会計士もニーズがありますね。弊社には、独立している弁護士や会計士が「個人事業主」として登録されています。今後、弁護士や会計士など士業の方が社外役員に就任するケースはますます増えていくと思います。あとは女性ですね。株主総会、特に女性をターゲットにしている事業会社の株主総会では「なぜ女性役員がいないのか」という質問が出ることがよくありますので、まずは社外役員から女性を入れてみようという上場会社は非常に多いです。
一方で、我々のような人材紹介会社が社外役員をご紹介できること自体ご存じない会社では、知人などを社外役員に招聘するケースがよくありますが、知人だと、仮に社外役員を交代させたいとなってもなかなか言いづらいですし、知人側も逆に気を遣ってしまい役員会で反対意見を出しにくいという問題もあります。その点、我々を通じて紹介した社外役員であれば、よりビジネスライクなお付き合いができるので、お互いある一定の緊張感を持った関係が構築できると思います。既に大企業から新興上場企業までご活用いただいていますが、今後はもっとその機会が増えていくはずです。
―――最後に、これまで多くの人を上場会社の役員として送り出してきた森本さんから見て、社外役員を含め上場会社の役員として上手くやっていくために必要なことがあればお聞かせください。
森本 まずバランス感覚ですね。もちろん何か自分の得意分野、強みを持っていることは重要ですが、役員である以上、会社を俯瞰的に見る目が必要になります。そのためには、ある程度は自分の専門領域以外にも知見を広げておくことが必要です。特に部長から役員になる場合や、大局的な視点から意見を求められる社外役員に就任する場合などは、経理・財務やHR、コンプライアンスなど経営全般の知識は一通り持っておくことが必要だと思います。
あとは固定概念にとらわれないマインドセットです。先ほどお話ししたように、社外から役員を採用しようという企業は、自社の中からは出てこない発想を求めています。転職したらそこのスタイルに合わせることも必要ですが、それと自分の意見を抑えることとはまったく別の話です。自ら“新しい風”を吹き込む気概を持って、どんどんチャレンジして欲しいと思います。
―――大変参考になるお話をありがとうございました。
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