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【議案】役員辞任により役員に欠員が出てしまった

 

役員の辞任に備えてやっておくべきこと

かねてから体調が思わしくなかった役員がついに入院してしまい、退院の目途もたたず近いうちに辞任しそうだ―――。そのような場合に会社としては、役員の辞任に向けた事務手続きとして、例えば、役員退職慰労金の支払額の算定や支払いに備えての資金確保、会社が掛金を支払っていた会社役員賠償責任保険契約(D&O保険)の内容の確認等を進める必要があります。また、職務執行の観点から後任の役員を直ちに選任する必要があれば、候補者の選定を急ぐとともに、選任手続きや引継ぎを行わなければなりません。

一方、後任の役員を直ちに選任する必要がない場合であったとしても、会社が必ず確認すべきことがあります。それは、役員の辞任に伴い、会社法または定款で定めた役員の員数(=定員)に欠員が生じることにならないかという点についての確認です。もし役員の員数を欠くことになれば、職務執行の観点からは後任の役員がしばらく必要でなかったとしても、法律上の観点から直ちに株主総会を開催して役員を選任する必要があるからです。そして、その役員が辞任すれば役員の員数を欠くことになるという場合には、たとえ当該役員が辞任する旨を表明したとしても、当該役員は後任の役員が就任するまで従前どおり役員としての権利を有するとともに、義務も負い続けることとなります。

役員辞任のタイミングが定時株主総会の開催とうまく重なればよいのですが、冒頭の例のように病気による辞任といったケースではそういう訳にもいかないでしょう。上場会社において役員選任のためだけに臨時株主総会を開催するのは、その手間とコストを考えれば、できる限り避けたいところです。

そこで会社法は、このような場合に備えて辞任した役員の「後任候補」として“補欠の役員”を選任しておくことができる旨を定めています(会社法329条2項)。補欠役員には、取締役の“補欠”である補欠取締役と、監査役の“補欠”である補欠監査役があります。また、補欠役員は、補欠の社外取締役や社外監査役として選任することもできますし、さらには常勤監査役や代表取締役といった特定の役員の補欠役員として選任することもできます。

補欠役員の選任には通常の役員の選任と同様、株主総会の決議が必要になります。補欠監査役の選任については、株主総会の決議に先立ち、監査役会の同意も必要になります。なお、「補欠役員の選任」は会社法が認めている制度ですので、定款で補欠役員の選任について定めていない場合であっても、補欠役員を選任することが可能となっています。会社にとってみれば、あらかじめ補欠役員を確保しておくことができれば、役員の欠員という突然の事態になってからあわてて候補者探しに奔走する必要に迫られることもなくなり、安心と言えます。

一方で、補欠として選任された役員にとってみれば、いつなんどき正式な役員への就任を依頼されるのか心の準備が必要となりますので、いつまで補欠役員でいなければならないのか、気になることでしょう。そこで、補欠役員の選任の効力はいつまで続くのかについて、次に解説します。

補欠役員選任の効力はいつまで続く?

一旦は補欠役員を選任したものの、例えば報酬を節約するために(補欠役員の報酬については後述の「補欠役員に報酬を支払うことは可能?」を参照してください)補欠役員選任の効力を短縮したり、取り消したくなったりすることもあるでしょう。

<短縮>
会社法上、補欠役員の選任決議の効力は、定款に別途異なる規定を置かない限り、「選任決議後最初に開催する定時株主総会が始まる時まで」続くとされています(会社法施行規則96条3項)。したがって、補欠役員の選任決議の効力の期間は、多くの場合、選任された定時株主総会から次の定時株主総会までの1年間ということになりますが、定款に定める場合には、役員の任期の範囲内でこれを延長または短縮することができます。また、これを短縮したい場合には、定款変更をしなくても、株主総会の普通決議によって期間を短縮することが可能です(同項)。なお、定款変更が必要な場合には、株主総会の特別決議が必要です(特別決議の要件については「定時株主総会を開催する」の「定足数をゼロにできないケースとは?」を参照してください)。

<取消し>
また、補欠役員の選任を取り消すことも可能です。この場合、選任の際の手続きと同じ手続き(株主総会の普通決議。上述の「役員の辞任に備えてやっておくべきこと」を参照してください)を踏むのが原則です。ただ、そのためにわざわざ株主総会を開催するのは手間もコストもかかることから大変です。そこで、補欠役員が正式に役員として就任する前に補欠役員の選任の取消しを行う可能性がある場合は、補欠役員の選任の決議の際に、あわせて「取消しを行う場合があること」や「選任の取消し手続き」についても決議し、その中で例えば「取締役会決議によって取り消すことができる」と定めておけば、わざわざ株主総会を開催する必要はなく、取締役会の決議だけで補欠役員の選任を取り消すことができます(会社法施行規則96条2項6号)。

正式な役員に就任するための方法と任期

補欠役員が正式な役員に就任する(すなわち、補欠取締役が取締役に就任する、または補欠監査役が監査役に就任する)ためには、まず「会社側から」就任依頼を行います。この就任依頼については取締役会の決議は不要であり、「代表取締役の権限」で行うことができます。また、既に「役員候補」として株主総会の承認を得ていますので、改めて取締役会や株主総会で承認を得ることは不要です。

そして、この就任依頼を当該補欠役員が承諾することで、はじめて「就任」ということになります。補欠役員の就任承諾の時期に関する法律の定めはないので、就任承諾は補欠役員に選任されたすぐ後に、例えば、補欠取締役の場合であれば「取締役が欠けた場合は直ちに取締役に就任することを承諾する。」という条件付就任承諾書を・・・

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