「安定株主」への評価が変化
かつての日本企業の株主構成を見ると、その中心には常に「安定株主」がいました。
“日本的経営”が国内外から高く評価されていた1980年代、安定株主の存在は「短期的な株価上昇を求める浮動株主の圧力にさらされることなく、長期的な視点に立った経営を可能とする」として、日本企業の強みの1つとされていました。しかし、バブル崩壊後の1990年代以降、日本的経営に対する見方は変わりました。欧米企業に比べ日本企業の自己資本利益率(ROE)が低い状態が長期化する中で、いまや安定株主中心の株主構成は、ROE向上をはじめとする“株主重視の経営”の妨げになると考えられています。このため、「株主構成」は投資家の関心事であるとともに、上場会社にとっても非常に重要なテーマとなっています。
浮動株主 : 浮動株(市場に出回っている株式)の株主
自己資本利益率(ROE) : Return On Equity=純利益 ÷ 自己資本
株主は主に、(1)創業者や従業員持株会などの会社関係者、(2)取引先等、政策保有(持合いを含む)による株主、(3)機関投資家、(4)個人投資家の4つに分けられます。
通常、(1)会社関係者と(2)政策保有による株主は
・株価上昇や配当収入“以外”の要因が主たる保有動機になっていること
・敵対的買収などが生じた際に、会社(経営者)を支持するケースが多いこと
――から、安定株主とされます。
逆に(3)機関投資家と(4)個人投資家は
・株価上昇や配当収入を主たる保有動機とする「純投資」を志向していること
・敵対的買収などが生じた際には、買収者を支持する可能性が否定し難いこと
――から、浮動株主とされます。
本稿では、(1)と(2)をまとめた「安定株主」、「機関投資家」、「個人投資家」の3種類の株主の“最適な構成”とはどのようなものか、また、それを実現するためにはどうすればいいのかについて説明します。
時価総額に応じた傾向が明確な株主構成
1993年と2013年の株主構成を比較したのが図表1です。開示されているデータから安定株主・浮動株主の区別が完全にできるわけではありませんが、都銀・地銀等・生損保と事業法人等は主に「安定株主」、投信・年金と外国法人等は主に「浮動株主」と考えられます。
前者は1993年には合計で59.5%に達していましたが、2013年には30.0%とほぼ半減しています。自己資本比率規制等の影響で、都銀・地銀等・生損保の持株比率が大きく低下したのが特徴です。一方、後者は1993年前の12.0%に対し2013年は37.7%と3倍になっており、特に外国法人等は4倍と大きく増加しています。その間、個人・その他は20%前後で安定的に推移しています。日本企業の株主構成は、「安定株主中心」から「浮動株主(特に機関投資家)中心」にシフトしたと言えるでしょう。
自己資本比率規制 : 有価証券のように資産価値が変動する「リスク資産(分母)」に対する「自己資本(分子)」の割合を一定以上に維持することを銀行等に求める規制。
図表2は、会社の規模(時価総額)別に、「外国法人等」と「個人・その他」の株主の比率を示したものです。前者からは機関投資家の動向、後者からは個人投資家の動向を読み取ることができます。この図表が示すとおり、時価総額が大きいほど「外国法人等」が多く(≒機関投資家が多く)なり、「個人・その他」が少なく(≒個人投資家が少なく)なる傾向があります。
図表2【時価総額別の持株比率】
※2013年度末時点、東証一部上場企業(金融除く) 出典:QUICK
このような傾向が出るのには「資金量」が大きく関係しています。グローバルな大手機関投資家は日本株式だけで1兆円を超える資金を運用しており、通常の機関投資家でも数百億円から数千億円といった規模になります。巨額の資金で規模の小さい会社の株式を売買しようとすると、自分の買い(売り)注文で株価が上がって(下がって)しまうことが多いため、機関投資家は規模の小さい会社への投資を敬遠しがちです。機関投資家の投資対象が規模の大きい会社に偏る分、その裏返しとして、規模の小さい会社では個人投資家の比率が高くなる傾向があります。
また、規模の小さい会社では創業者等が大株主になるケースが多いことも、「個人その他」の比率が高まる理由の1つになっていると考えられます。
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