abc製作所では毎月第二火曜日に定例の取締役会を開催している。今日はその定例取締役会の開催日である。会場となる本社会議室では、定刻の5分前までに社長以外の役員全員が席に着き、社長が入室するまでおのおのが隣の役員とひそひそ話を交わしている。その話題は一様に、昨日発覚したX事業部での架空売上問題だ。
議長である代表取締役社長が着席後すぐに開会を宣言し、取締役会が始まった。定例的な月次報告や決議事項を普段より駆け足で済ませた後、議長は総務担当の甲取締役を指名し、X事業部での架空売上問題の発覚の経緯と現時点で判明している事実を報告するよう求めた。甲取締役は“マル秘”と記された報告書が役員全員に行き渡ったのを確認してから、報告を始めた。もっとも甲取締役の報告は推測が多く、歯切れが悪かった。というのも、不正が発覚したのは昨日であり、現時点では架空売上に関する情報があまりに不足しているからだ。
甲取締役による報告が終了し、取締役会で架空売上の調査のための社内調査委員会を組成することを全員一致により決議した。その後、社外取締役や監査役から甲取締役やX事業部を管掌する乙取締役に対して容赦ない質問が相次いだものの、両名とも不正の内容や範囲をほとんど把握できていない以上、「ただいま鋭意調査中であり、改めて別の機会に報告いたします。」と回答するのがやっとだ。
A取締役:「この件は証券取引所には相談しているのでしょうか?」
甲取締役:「いえ、まだです。」
B取締役:「いますぐにX事業で架空売上が計上されていたことを投資家に開示すべきです。その結果、証券取引所への相談は投資家への開示後になってしまいますが、やむを得ません。」
C取締役:「いや、概要すら把握できていない現段階で投資家に不確かな情報を提供してしまうと、株価が不当に下落しかねません。とりわけ来月には公募増資も控えています。もし、不確かな情報が原因で株価が不当に下落してしまうと、公募増資で調達できる金額が予定額を下回ってしまいます。調達額が不十分だと事業計画の達成が困難になり、ひいては企業価値の下落を通じて株主の利益を害してしまうことになります。まずは社内調査委員会に3か月ほどかけてじっくりと調査してもらい、売上や利益の訂正内容につき監査法人によるチェックを経てから、初めて投資家に概要を開示すべきと考えます。」
A取締役:「架空取引で膨らんでいた過去の売上や利益を訂正する事後処理が終了するまで、公募増資を延期すべきではないでしょうか。」
D取締役:「架空取引で膨らんでいた売上や利益を訂正することが、事後処理のすべてではありません。分配可能額の算定や減損の判定をやり直すとどういう結論になるのか、気になるところです。」
上のA取締役からD取締役の発言のうち、どの発言がGOOD発言でしょうか?
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