PPP社は北欧などからの輸入雑貨を扱う貿易商社(決算日は9月末)である。輸入雑貨の売れ行きは好調で、今期は大幅な増収増益で着地する予定であったが、決算日の直前である9月下旬になってアクシデントに見舞われてしまった。日本列島を大型台風が襲い、その影響で湾岸倉庫に保管していた輸入商品の一部が浸水してしまったのだ。幸い、損害保険をかけていたので、損失額はある程度填補される見込みだが、浸水してしまった商品に販売可能性はなく、廃棄処分するしかない。監査法人からは「販売可能性がない商品については、その帳簿価額に見積もり廃棄費用を加算した額を災害損失として特別損失に計上すべき」との指摘を受けている。ただし、実際の廃棄処理を9月末までに行うことは難しく、10月中旬にずれ込んでしまう予定である。経理部長が顧問税理士に確認したところ、税務上の損金算入時期は「実際に廃棄した時」であるため、今決算で計上する災害損失は法人税の所得計算上、自己否認するようにとの助言を受けた。
自己否認 : 自ら損金不算入とすること。
10月上旬の取締役会で、経理担当役員は経理部長とともに、役員全員に対し災害損失についての説明を行うことになった。
経理担当部長「・・・・というわけで、当期の決算において総額で5億2千万円の災害損失を特別損失の部に計上する予定でおります。なお、有税処理となりますので税金計算上は自己否認し、来期、廃棄が完了した時点で認容して所得から減算する予定でおります。」
認容 : 一旦は自ら損金不算入とした費用を、翌期以降に損金に含めること。
社長「うーむ、君の言うことはよく分からない。経理担当役員、もっと簡単に説明してくれ。」
経理担当役員「はい、社長。要するに税金を算出するための課税所得の計算上、今回特別損失に計上予定の災害損失は損金として認められないため、今期の法人税申告書では、別表四において災害損失をゼロにするよう調整するということです。そして、来期において廃棄が完了したら、別表四で損金に計上することになります。」
社長「そういう技術的な話ではなく、決算への影響をもっと端的に知りたいんだよ。株主から利益還元へのプレッシャーも受けているし、今期の増収増益を踏まえ増配したいので、決算への影響は最小限にとどめたい。今期の増収増益に大いに貢献してくれた営業担当役員はどう思うかね?」社長がまだ発言していないあなたを指名し、発言を促しました。次のAからCの発言のうち、どの発言がGOOD発言でしょうか?
発言A:「廃棄をしていないのに廃棄損を計上するのは、会計的に問題があるのではないでしょうか?実際に廃棄するのが来期になるなら、今期に計上する廃棄費用は見積額に過ぎないでしょうし、そのような曖昧な金額を費用に計上すれば、投資家の判断を誤らせることになりかねません。実際に廃棄した時には金額も確定するはずですから、その時点で廃棄損として計上すべきです。」
発言B:「損失見込み額が算定できる以上、当期の決算において災害損失を計上することは必要かと思います。利益への影響を懸念されている方もいらっしゃるようですが、災害損失を計上しても、税効果会計により税引後利益へのインパクトは緩和されるのではないでしょうか。」
発言C:「当期に生じた損害を当期に認識するというのは当たり前の話です。しかし、払わなくてもよい税金を払ってまで会計処理をする必要はありません。有税ということは、税金を払う必要があるということなので、節税という観点からは反対です。」
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