D社(東証第一部上場の製造業)では、収益の認識基準として出荷基準(*)を採用しており、得意先に直送する製品を工場から出荷するタイミングで売上を計上している。債権管理の担当者は得意先からの入金額と売掛金の入金予定額に差異*があれば、営業担当者に対して差異の理由につき文書による回答を求め、「所定の金額を超える多額の差異」や「今後の入金の見通しが立たない得意先の状況」を取締役会に報告するという内部統制を整備・運用している。
* 売掛金の入金予定日に実際に入金された額が入金予定額と異なること。入金差異や違算とも呼ばれる。
先々月より取引がスタートしたX社の入金差異が一定水準を超えていたため、取締役会で報告され、まず営業担当取締役が入金差異の理由を次のように説明した。
営業担当取締役:「X社と交わした取引基本契約書によると、X社の支払い条件は“月末締め翌月末払いの使用高払い”となっています。また、X社と交わした覚書によると、X社は当社製品の使用の都度、使用量をメールで連絡するようになっており、営業担当者は使用量を台帳で管理しています。先月末にX社より入金された額は、先々月にX社が使用した量に対応した額であることを、営業担当者が確認済みです。」
営業担当取締役の説明に対して、他の取締役が次のような発言をしました。次のAからCの発言のうち、誰の発言がGOOD発言でしょうか?
取締役A:「X社への売上を出荷基準に基づき計上した点が誤りであったと考えます。X社と合意した支払い条件が使用高払いになっている以上、使用した量に対応する分だけ売上を計上すべきたったのではないでしょうか。そうすれば入金差異にならなかったはずです。」
取締役B:「経理規程に『売上計上基準は出荷基準である』と定められている以上、X社との取引でも出荷基準を適用すべきです。ただし、期末の棚卸に際しては、X社に残っている在庫をカウントし忘れないようにしなければなりません。」
取締役C:「収益の認識基準と支払い条件とは分けて考えた方が良いのではないでしょうか。X社と支払い条件を合意した際に、『X社は“使用した分だけ”購入する』という点も合意しているのであれば、従来の出荷基準を適用できないケースが新たに生じたと考えられます。そこで、まずは取引基本契約書を読み直して、『どの時点で当社が販売したと言えるのか』を探るべきです。」
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