中堅ハウスメーカーP社は高価格帯のオーダーメイド型住宅の施工に強みを持ち、高級感のあるデザイン性が高く評価され、競合他社との差別化に成功している。そのためここ数年、業界全体としては厳しい状況の中、安定的に利益を計上している。一方、P社の100%子会社であるS社は低価格帯の住宅に特化したハウスメーカーであるが、競争が激しく、ここ数年は赤字が続いている。S社は資金繰りも厳しく、親会社からの借入金と銀行からの借入金が年々増加している。期末も目前に迫った3月のP社役員会では子会社S社の自力再建策の進捗状況が報告されていた。
取締役経営企画部長「S社の状況は、ただ今説明したとおりでございます。S社の自力再建は困難と言え、親会社の更なる支援が必要です。経営企画といたしましては、当社のS社への貸付金全額につき債権放棄を行い、早急にS社の財務体質の改善を図ることが必要と考えます。」
取締役経営企画部長の説明に対して、他の役員が次のような発言をしました。次のAからCの発言のうち、誰の発言がGOOD発言でしょうか?
取締役営業部長A:「当社が貸付金全額を債権放棄した場合、巨額の貸倒損失の計上が不可避になってしまう。当社グループは今期、経常利益ベースで最高益の予想を開示しているが、それへの影響も慎重に考える必要があるのではないだろうか?」
代表取締役社長B:「確かに今期の連結業績予想として、創業以来の最高益となる経常利益の予想を開示している。2月までの11か月の分の連結月次決算を考慮すると、その実現可能性は相当高いと考えている。しかし、巨額の貸倒損失までは織り込んでいなかった。幸い、債権をいつ放棄するかのタイミングは債権者である我が社側に決定権があるのだから、あえて最高益をあきらめてまで今期に債権放棄に踏み切る必要もないだろう。」
社外監査役C:「S社への何らかの支援が不可欠であるということはよく分かりました。もっとも、債権放棄以外の支援の方法は検討されたのでしょうか? 例えば、債権の株式化(デット・エクイティ・スワップ)や吸収合併なども考えられると思います。そういった代替案と比較検討ができるような資料を提供してください。また、それ以前に、S社の事業を親会社として今後どのようにしていくのかという議論が欠けているのではないでしょうか。その方向性を定めたうえで、初めて具体的な支援策について議論できることになると考えます。取締役会は経営の方向性を意思決定する場ですから、S社の事業を連結グループの事業の中でどのような位置づけにしていくべきかといった点について議論を深める必要があります。」
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