説明できますか?「退任」「辞任」「解任」の違い
役員には任期があることや、その責任の重さから、一般社員に比べ、職を辞すことになる可能性は高いと言えます。役員が職を辞す場合、「退任」「辞任」「解任」のいずれかの言い方がなされることが多いと思います。これらは、いずれも役員としての任務が終了する場面において使われる用語であるため、混同されているケースも少なくありませんが、実際にはその意味するところはそれぞれ異なります。
上場会社の役員が職を辞すこととなった場合、その事実は開示されるのが通常ですし(詳細は後述)、取引先への案内状も必要でしょう。こうした対外的な説明をする際に言い回しを間違えることがないよう、本題に入る前に、まず「退任」「辞任」「解任」それぞれの意味を整理しておきます。
まず「退任」とは、役員がその資格を喪失するという事象を総称する語です。「辞任」や「解任」は、退任の「事由」という位置付けになります。
そして「辞任」とは、役員が、その任期中に役員の一方的な意思表示により会社との委任契約を解除することを言います(民法651条)。「役員の意思により」という点がポイントです(辞任手続の詳細については、ケーススタディ「役員から任期途中での辞任の申し出があった」の「任期の途中で辞任することは可能?」を参照)。
これに対し「解任」とは、「役員の意思に反して」、その任期中に役員の地位を株主総会が喪失せしめることを言います(会社法339条)。
したがって、「役員の意思に反して」役員がその職を辞すことになったにもかかわらず、株主総会や開示資料において「役員が辞任した」といった言い回しをしていれば、それは間違いということになります。
また、退任事由には、辞任・解任以外のものもあります。すなわち、退任したい役員、退任させたい役員がいる場合に、辞任・解任以外に採り得る方法があるということです。
辞任・解任以外の主な役員退任事由としては、以下のようなものがあります。
1 任期満了
役員は任期満了に伴い退任します。したがって、役員が辞任したいケース、あるいは経営方針の対立などにより会社側が当該役員を退任させたいケースでは、任期を更新しなければ(すなわち株主総会で再選の議案を提案しなければ)任期満了により自動的に退任となります。後者の「経営方針の対立などにより会社側が当該役員を退任させたいケース」では、実質的には解任であったとしても、形式的には任期満了である以上、対外的には「任期満了による退任」と説明すれば足りることになり、通常は経営方針の対立などのネガティブ情報まで積極的にアナウンスされることはありません。
なお、上場準備中の会社によく見られるように会社法上の非公開会社(株式に譲渡制限が付けられている会社)が公開会社(株式に譲渡制限が付けられていない会社)となる旨の定款変更を行った場合、または会社が指名委員会等設置会社(経営の監督機能と業務執行機能を分離するため、過半数を社外取締役が占める指名委員会、監査委員会、報酬委員会の3つの委員会を設置するとともに、業務執行を担当する役員として執行役が置かれ、取締役会は、経営事項の決定と執行役職務執行の監督と行うこととなる会社)となる旨の定款変更を行った場合には、役員の任期は、当該定款変更が効力を生じた時点で満了します。
また、やはり上場準備中の会社に見られるように、定款により監査の範囲を「会計に関するもの」に限定(業務監査を監査対象外とするということ。非公開会社で、監査役会・会計監査人を設置していない会社にのみ認められている)されている監査役については、当該限定に関する定款の定めを廃止する定款変更を行った場合にも、任期が満了します。通常の任期満了に加えて、このような事由によっても任期が満了することから、会社としては役員任期を継続的に管理していく必要があります。
もっとも、任期満了による退任により役員に欠員が生じる場合には、当該役員は、後任の役員が就任するまで、なお役員としての権利義務を有することとなります(会社法346条 ケーススタディ「役員から任期途中での辞任の申し出があった」の「辞任したくてもできない権利義務取締役」を参照)。ただし、2以下の事由による退任の場合には、このような制度はありません。したがって、欠員の有無にかかわらず、当該役員は退任事由発生と同時に退任することとなります。
2 死亡、破産、(知的障害や精神上の障害を理由とする)後見(成年被後見)開始の審判
これらの事由が生じた場合、会社と役員との委任契約が終了するため(民法653条)、当該役員は当然に退任します。
なお、役員の破産は当該役員の退任事由となりますが、会社の破産は、破産時の役員の退任事由とはならないと解釈されています。
3 資格喪失
会社法または定款が定める役員の資格を喪失した場合、当該役員は当然に退任します。
会社法は、役員の資格として、以下に該当しないことを求めています。
(i) 法人
(ii) 成年被後見人・被保佐人等
(iii) 会社法・一般法人法(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律)、金融商品取引法、民事再生法、会社更生法、破産法その他の法令に違反し、刑に処せられた者のうち所定の要件に該当する者。
また、定款に定められる役員の資格としては、公開会社ではない株式会社では「取締役は株主に限る」とするケースも見受けられます(上場会社は公開会社であるため、会社法331条2項によりそのような限定をすることは認められていません)。
4 会社の解散(取締役の場合)
会社が解散した場合(合併又は破産手続開始の決定により解散した場合を除きます。)、会社は清算手続に入ることになります。清算株式会社(清算中の株式会社)は取締役という機関を有しないため、会社が清算手続きに入れば、取締役は当然に退任すると解されています。
役員を解任するために必要な手続き
役員は、「いつでも」、また「理由の有無を問わず」、株主総会の決議によって解任することができます。したがって、ある役員の不正行為が発覚した場合など、特定の役員を解任したい事情がある場合には、他の役員は、株主総会を招集して当該役員の解任決議を求める必要があります。ただし、解任について「正当な理由」がない場合には、・・・
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- 解任に「特別決議」が求められる場合も
- 欠員が生じる場合にも解任できる?
- 解任議案が否決されたら?
- 役員を解任する「正当な理由」とは?
- 「経営判断の失敗」は正当な理由に当たるか?
- 「解任によって生じた損害」の金額は?
- 上場会社での役員退任、タイムリーな開示が必要
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