会社法では役員の「報酬」と「賞与」に違いなし
会社の業績は従業員の日々の努力が積み重なった結果ですが、その努力を上手に引き出したり会社の進むべき方向性を適切に見極めたりするのは取締役の経営手腕と言えます。そこで、従業員の頑張りに昇給や賞与で報いるのと同様、取締役の経営手腕に対して金銭的に報いることが、業績向上のために必要になります。
取締役や監査役等の役員に金銭的に報いる手立てとして、一般的に「役員報酬」と「役員賞与」の2つがあります。役員報酬は生活給的な要素があるため従業員の給与と同様に支給額は固定され、かつ、毎月1回決められた日に支給されるのが通常です。一方、役員賞与はいわゆるボーナスのことであり、支給額は業績に応じて大きく変動します。支給タイミングは年に1回~2回であり、業績が悪ければ支給されない年もあります。
このように「役員報酬」と「役員賞与」は、会社の運営上、“支給のタイミング”“支給の意図”“支給額の変動の有無”といった観点から明確に区別されるものと言えます。では、“支給手続き” や“会計面”においても「役員報酬」と「役員賞与」は別物として取り扱われているのでしょうか。
かつて(会社法導入前)、役員賞与は“支給手続き” や“会計面”において定時株主総会における配当と同じ取扱いが行われていました。具体的には、役員賞与は利益処分案の一項目として承認を得て支給され、“会計面”でも税引後利益を計算した後の配当と同様に、費用項目ではなく利益処分項目として会計処理(「未処分利益」のマイナス)されていました。つまり、その当時は、役員賞与の支給額を損益計算書に計上しないのが実務慣行になっていました。
しかし、会社法の導入により、役員賞与は役員報酬と同様に職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益として整理されました。これに伴い、“会計面”における役員賞与の取扱いも変わり、役員賞与の額は発生した会計期間の費用として処理され(発生主義)、損益計算書の「販売費及び一般管理費」に計上されることになりました。ここで注意したいのは、「役員賞与の支給議案を株主総会に提出する」こと自体が禁止されたわけではないという点です。現在でも役員賞与議案を定時株主総会に提出する会社は数多くあります。そのような会社であっても、上述した“会計面”の変更を受け、役員賞与議案の可決を待たずに役員賞与を発生主義に基づき費用項目に計上する必要が生じたことになります。以上より、現在では、「役員報酬」と「役員賞与」は、どちらも“会計面”の取扱いでの差異がなくなったと言えます(*)。
役員賞与の具体的配分額は誰がどうやって決める?
上述のとおり、「役員賞与」と「役員報酬」は、会社法においてはどちらも「役員の職務執行の対価」であるため取扱いが区別されていません。どちらも定款に金額の記載がなければ(上場会社であれば定款に金額まで記載されていないケースが通常です)、株主総会で承認された取締役全員(監査役の場合、監査役全員)の報酬総額(枠)の中から支払われることになります。
では、役員報酬の総額(枠)はどのようにして算定されるのでしょうか。役員と会社の関係は委任関係にあるため、その職務の対価はアルバイトの賃金のように時間単価に勤務時間を乗じて計算するといったたぐいのものではありません。実際のところ、同規模の会社、あるいは同業種の役員報酬を参考にして役員の人数や懐具合といった各社の事情を反映させるという方法で総額を算出している会社が多いと言えます。
この総額の中から役員賞与が支払われている限り、各取締役への具体的な支給金額は取締役会(さらにそこから代表取締役)に一任されるのが通常です。また、各監査役への具体的な支給額は、監査役報酬の総額の範囲内で監査役の協議(監査役全員の意見の一致が求められます)により決めることが会社法上求められています。
取締役は、取締役の報酬総額(枠)や監査役の報酬総額(枠)と実際発生額を比較して、枠に余裕が少ないのであれば、枠を広げることを検討する必要があります。とりわけ、役員報酬や役員賞与を増額したいにもかかわらず現行の役員報酬の枠では賄いきれない場合や社外役員の増加を見込んで役員報酬の枠を拡大しておきたい場合には、株主総会に取締役の報酬総額や監査役の報酬総額の改定議案の提出は必須となります。
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