上場廃止でも監査を受け続けるケースも
上場会社であれば、必ず監査法人の会計監査(*)を受けることになります。監査法人の数は200を超えており(こちらを参照)、規模の大小や国際的なネットワークの有無等様々です。そのため、会社をとりまく経営環境や事業領域、営業領域の変化に応じて、より大規模で、かつ、国際的なネットワークを活用できる監査法人に変更することを検討する会社もあります。また、監査報酬の交渉がどうしても折り合わない場合や、監査法人が公認会計士法に基づき金融庁より処分を受けた場合など、会社側に事業領域等の変化が特段なくても監査法人を変更する場合もあることでしょう。さらに、監査法人による再三の指摘事項に対して会社側が改善の取り組みを行わないことから、監査法人側が粉飾リスクの高さに躊躇して契約更新をしない場合もあることでしょう。このように、監査法人の変更理由は様々と言えます。
監査法人 : 公認会計士法に基づき、5名以上の公認会計士により共同で設立された法人
監査法人の変更の解説に入る前に、会計監査とは何かについて押さえておきましょう。上場会社が受ける会計監査には、会社法により作成が求められる(連結)計算書類およびその附属明細書に対する「会社法上の会計監査」と、金融商品取引法により作成が求められる有価証券報告書・四半期報告書の財務諸表(および連結財務諸表)に対する「金融商品取引法上の会計監査」があります(ちなみに、証券取引所により提出が求められる「決算短信」は会計監査の対象ではありません)。それぞれどのような場合にこれらの会計監査を受けることになるかを、以下整理しておきます。
【会社法上の会計監査】
会社法上の会計監査は、「大会社」すなわち資本金5億円以上または負債200億円以上の会社に対して義務付けられているものです。
上場会社の中には会社法上の「大会社」に該当しないところもあります(すなわち、資本金が5億円未満で、負債も200億円未満)。このような会社が「会社法上の会計監査」を受けるかどうかは、少なくとも“会社法上は”任意ということになります。ただし、上場会社の場合は、証券取引所の規則により、会計監査人を選任することが義務付けられています(東証の有価証券上場規程437条1項3号)。そのため、上場会社であるうちは、金融商品取引法上の会計監査とともに、会社法上の会計監査も受けなければなりません。もちろん、上場会社でなくても、会計監査人を任意に選任することは認められています。上場準備会社や上場会社の子会社が、ガバナンスを高めるためにあえて会計監査人を選任するようなケースがよく見受けられます。
【金融商品取引法上の会計監査】
新規に上場する場合や1億円以上の増資を公募する場合には、財務(支)局に「有価証券届出書」を届け出ることが必要となります。そして、「有価証券届出書」には直前期とその前の期の2期分の(連結)財務諸表を掲げるとともに、その(連結)財務諸表は監査法人による会計監査を受ける必要があります。「有価証券届出書」を提出した会社は、提出した期以降、継続的に「有価証券報告書」の提出が必要になりますが、有価証券報告書でも(連結)財務諸表を掲げる必要があり、それについて監査法人の会計監査を受け、監査証明を添付することが求められます。
上場会社であるにもかかわらず監査法人による会計監査を受けていない状況になれば、有価証券報告書に監査証明書を添付することができないため、有価証券報告書を提出することができません。その結果、法定提出期間の経過後、証券取引所の定める一定期間内に有価証券報告書を提出できない場合、「有価証券報告書の提出遅延」という形で、上場廃止基準に抵触することになってしまいます(東京証券取引所 有価証券上場規程601条10号)。実際、宝飾品の販売を手がけているクロニクルは、2013年9月期第2四半期報告書の提出遅延により、平成25年7月に上場廃止となっています。
このように、上場会社であり続ける限りは、会社法上の会計監査と金融商品取引法上の会計監査の両方を受けることが義務付けられています(なお、証券取引所の規則により、金融商品取引法上の監査と会社法上の監査は同一の監査法人が担うことが求められています)。このような会計監査は当然ながらコストがかかるものですし、受ける側の手間も大変です。時には、「監査を受けること自体やめたい」と思うこともあるかも知れません。場合によっては、近年増加傾向にあるMBO等による「上場廃止」が経営陣の頭をよぎることもあるでしょう。
MBO : マネジメント・バイアウト:経営陣による買収
では、上場を廃止すれば監査法人による会計監査を受けなくて済むようになるのでしょうか。
【会社法上の会計監査】
会社法上の会計監査は、上述のとおり「大会社」(資本金5億円以上または負債200億円以上の会社)に義務付けられているものです。仮に上場廃止となっても、引き続き資本金が5億円以上または負債が200億円以上であれば、会計監査人の監査を受け続ける必要があります。会社法上の要件を満たすにもかかわらず会計監査人を選任しなかった場合は、取締役等に対して100万円以下の過料が科されるといった罰則があります。また、同時に会社としての社会的な信頼を失うことでしょう。
【金融商品取引法上の会計監査】
有価証券報告書の(連結)財務諸表に係る会計監査については、「株主の数」次第ということになります。具体的には、直近5事業年度のいずれかの末日における株主数が「1,000人以上」である場合、上場廃止後も会計監査を受ける必要があります。逆に言うと、直近5事業年度のいずれにおいても株主数が1,000人未満となった事業年度からは、(たとえその後、再び株主が1,000人以上になったとしても)金商法上の会計監査は不要となります。
このように、上場廃止になったからといって、必ずしも監査法人による会計監査を受けなくて良いことになるわけではありません。上場会社や上場会社クラスの規模を有する会社にとって、監査法人との関係は切っても切れないものと言えます。
もっとも、会計監査を受け続けるにしても、冒頭でも述べたように、会社をとりまく経営環境や事業領域、営業領域の変化に応じて、監査法人の変更を検討しなければならない場面も出てくるでしょう。
では、監査法人を変更する場合、どのような点に留意し、またどのような手続を経る必要があるのでしょうか。以下で解説します。
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