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海外子会社の管理が難しい理由
製造コストの引き下げや輸送コストの削減を目的として、製造拠点を海外に設ける企業は少なくありません。また、メーカーでなくても、長引く不況や少子高齢化により国内マーケットが縮小傾向にある中、多くの企業が販路を海外へ求めています。製造面に限らず販売面まで含めてグローバルに展開する動きは加速する傾向にあります。そのような動向に伴い、海外子会社の重要性はますます高まっています。その一方で、海外子会社の不正や不祥事も増加しているため、親会社である日本企業にとって、海外子会社のコントロールの強化は急務となっています。
ただ、海外子会社とのコミュニケーションは、言葉の壁があることから、国内子会社のようにスムーズにはいきません。また、距離の問題から、ミーティングを頻繁に行うことは難しく、日常的なコミュニケーションはどうしても電話やメールが中心にならざるを得ません。訪問するとしても、時差を踏まえた事前の日程調整や航空機、ホテルの予約など、手間やコストがかかります。さらに、海外子会社の所在地国によって法令や規制、文化や商慣習が異なるという問題もあります。
こうした中、海外子会社へのコントロールを強化するためにはどうしたらよいのか、以下で詳しく解説していきます。
海外子会社のコントロールを強める4つの視点
海外子会社のコントロールを強めるためには、次の4つの視点から取り組むことが大切です(下図参照)。
(1)海外子会社における自律的なガバナンスの強化
(2)日本の親会社の「管理部門」「内部監査部門」による海外子会社のモリタリング
(3)日本の親会社の「監査役」による海外子会社の監査
(4)会計監査人(現地および親会社の監査法人等)による海外子会社の監査
日本の親会社側から一方的に管理するだけでは限界があります。そこで、まずは海外子会社自身にガバナンスの強化に取り組んでもらうことが不可欠となります。そして、それがきちんと実行されているかどうかを、親会社、親会社の監査役、会計監査人の3方向から、異なる視点でチェックすることにより、海外子会社へのコントロールを効果的かつ効率的に行えるようになります。
以下、各視点に基づく海外子会社のコントロール手法について詳しく解説します。
- 海外子会社におけるガバナンスの強化
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海外子会社におけるガバナンスの強化としては、社内諸規則・規程の整備、内部統制システムの構築、リスク管理体制の整備、財務報告体制の整備、資産保全体制の整備などを行います。一つずつ見て行きましょう。
(1)社内諸規則・規程の整備
社内諸規則・規程(以下、規程)は、定款、取締役会規則、職務権限規程、稟議規程、就業規程、給与規程・退職金規程・年金規程、経理規程、勘定科目処理要領、金銭・資金取扱規程、市場リスク管理規程、外国為替取引管理規程、販売管理規程、製品在庫管理規程、生産管理規程、原価計算規程など多岐に渡ります。
海外子会社においてこれらの規程を整備する際には、 親会社の規程を参考にするのがよいでしょう。ただし、子会社は親会社と比べると人的リソースが不足しがちであることから、親会社の規程をそのまま子会社に展開してしまうと、規模の割には重い規程となりかねません。さらに、現地の法令や海外子会社独自の事情への対応も必要となるため、親会社の規程をそのまま直訳することはできない条項もあります。そこで、親会社の規程を現地の実情に合わせるためのカスタマイズが不可欠となります。
カスタマイズを進めると、その反面として独自性が強まり、親会社のコントロールが難しくなってくるのも事実です。そこで、カスタマイズする場合であっても、親会社のコントロールが効くように規則・規程の内容を親会社の経営理念や行動基準を踏まえた内容にして、これを海外子会社に浸透、周知徹底を図るのがよいでしょう。
(2)内部統制システムの構築
我が国の財務報告に係る内部統制報告制度では、海外子会社であっても、重要性が高ければ(*)、その海外子会社の内部統制について経営者が評価しなければなりません。評価は、全社的な内部統制の評価で済む場合もありますが 、場合によっては業務プロセスの評価まで必要になることもあります。全社的な内部統制の整備であれば、統制環境に対して全社的な観点から内部統制を整備することになります。一方、業務プロセスに係る内部統制の整備では、売上取引や仕入取引といった主要な業務プロセスについて内部統制を整備することになります。そのうえで、整備された内部統制が適切に運用されているかどうかを評価しなければなりません。このように、財務報告に係る内部統制報告制度に基づき経営者の評価対象に加えられた海外子会社では、評価対象外となった海外子会社よりも一層内部統制を整備・運用することが必要になります。
財務報告に係る内部統制報告制度 : 上場会社の経営者が、自社の財務報告に係る内部統制を評価した報告書を財務(支)局に提出し、それについて監査法人等が監査をするという制度。平成20年4月1日以後開始する事業年度から適用されている。
全社的な内部統制の評価 : 財務報告全体に重要な影響を及ぼす内部統制のこと。「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」では、参考として42項目のチェックポイントが示されている。
業務プロセス : 販売や購買等の業務に関する仕事の流れのこと。
統制環境 : 内部統制を取り巻く環境のこと。例えば次のようなものがある。経営者の誠実性および倫理観、経営方針および経営戦略、組織構造および慣行等が該当する。
* 例えば、「当該海外子会社の売上高」の「連結売上高」に占める割合が高い場合が考えられます。
海外子会社の内部統制を整備するうえで重要になるのは、・・・
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- 親会社によるモニタリング
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親会社によるモニタリングには、親会社の海外事業部などの海外子会社を管理する部門によるモニタリングと、親会社の内部監査部門による内部監査によるモニタリングの2つがあります。
海外子会社を管理する部門によるモニタリングでは、その部門が海外子会社に対して定期的に業績の報告を求めるとともに、業績が悪い場合には、その原因を詳細に分析したうえで、必要な対応策(営業強化、人事異動、冗費の削減等)を遂行します。また、海外子会社が行う投資や融資の重要な案件については、実行前に、案件の重要性に応じて、親会社の取締役会や管理部門長等が承認を行ったり、海外子会社から報告を受けたりすることで、親会社の経営方針に沿った事業運営がされているのかなどを継続的にモニタリングします。海外子会社管理を所管する取締役は、モニタリングの結果を定期的に取締役会に報告することになります。
一方、親会社の内部監査部門によるモニタリングでは、・・・
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- 親会社の監査役による監査
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親会社の監査役には子会社の業務および財産の状況を調査する権限があります(会社法381条)。そこで、監査役は、内部監査部門や会計監査人と協力して、子会社の監査を行います。具体的には、内部監査部門や会計監査人の指摘事項の状況を確認するとともに、海外子会社の社長や各所管役員等へのインタビューや工場・販売会社等への視察を行うことによって、海外子会社のガバナンスに問題がないかを監査します。例えばリスク管理体制の不備など、ガバナンス上の問題を把握した場合には、海外子会社の経営者に必要な体制の整備を求めます。
海外子会社が多数ある場合には、・・・
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- 会計監査人の積極的活用で海外子会社監査を効率的に
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最後に会計監査人(監査法人等)による監査の活用を解説します。海外子会社の所在地国の法制度によっては、その海外子会社の財務報告について(現地の)会計事務所による監査が必要とされる場合があります。そのような法制度がない国でも、海外子会社の財務報告の信頼性を確保するためには、現地の会計事務所を監査人として選任し、任意に監査を受けることは有効な方法です。
現地の会計事務所は、会計専門家の立場から、海外子会社の財務諸表が所在地国の会計基準に準拠して適正と言えるかどうかの監査意見を表明します。また、監査の過程で、会計処理の誤りの指摘に限らず、例えば、承認もれや文書の不備など改善することが望ましい内部統制の不備が検出され、報告を受ける場合もあります。場合によっては、会計監査の過程で現地従業員の使い込みが発覚することもあるでしょう。これらの指摘や改善提案を受け入れ、より適切なガバナンス体制の構築に継続的に取り組むことで、海外子会社の管理体制の強化に役立ちます。
現地の会計事務所による会計監査に加えて、・・・
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