3月決算の会社の定時株主総会が6月に開催される理由
株式会社である以上、最低でも年に1回は必ず開催する必要があるのが、定時株主総会です。定時株主総会とは、その事業年度の事業報告や、事業年度ごとに作成される計算書類(貸借対照表や損益計算書など)の報告(*)を行う株主総会をいいます。
* 計算書類に対する会計監査人の監査結果が「無限定適正意見」でない場合などは「承認」となります。
定時株主総会では、こうした計算書類等の報告のほか、任期の切れる役員の改選、新役員の選任、定款変更など、計算書類等とは関係のない議題について承認を行うこともしばしばあります。実はこれらは必ずしも定時株主総会で承認しなければならない議案ではないのですが、臨時株主総会を開催するとなると、その分の手間とコストがかかるため、緊急性が高くない限り、定時株主総会のタイミングで承認を行うのが通常です。
会社法では、株式会社は定時株主総会を毎事業年度の終了後「一定の時期」に招集(*)しなければならないとされています(会社法296条1項)。もっとも、意外なことに、この「一定の時期」に関する具体的な定めはありません。現在、ほとんどすべての上場会社は「事業年度終了後3か月以内」に定時株主総会を開催していますが、実は、定時株主総会は“会社の実情に応じて”招集すれば足り、必ずしも「事業年度終了後3か月以内」に開催しなければならないわけではありません。
* ちなみに、「召集」は国会や軍隊で使われる用語です。議事録などで誤植となってしまわないよう注意が必要です。
では、なぜ「事業年度終了後3か月以内」に定時株主総会を実施している会社がほとんどなのでしょうか。これには「株主総会基準日」が関係しています。基準日とは、「その日において株主名簿に名前が載っていれば、株主総会で議決権を行使したり配当を受けたりといった株主の権利を享受できる」という日のことです(ちなみに、議決権行使に係る基準日と配当に係る基準日はどちらも「決算日」としているのが通常です)。
上述のとおり、定時株主総会とは、事業年度ごとに作成される計算書類等を株主に報告する場であるため、株式会社では、定款に「株主総会前に終了した事業年度の末日」を株主総会の議決権行使の基準日とする旨規定しているのが通常です(*)。例えば3月決算の会社であれば、「当社の定時株主総会の議決権の基準日は、毎年3月31日とする」といった定めを設けています。そして、基準日において株主である者(「基準日株主」と呼びます)による権利行使は「基準日から3か月以内」に限られていますので(会社法124条2項)、結局、毎事業年度末から3か月以内に株主総会を開催するのが一般的となっているわけです。
* 仮に基準日を定款で定めていなければ、株式会社は定時株主総会のたびに基準日(および権利の内容(=株主総会の議決権))を「公告」する必要が生じます。そのため、基準日をあらかじめ定款に定めておくことで、定時株主総会のたびに基準日の公告をする手間を省くのが一般的です。
では、定時株主総会の前に取締役がしておかなければならない準備としてはどのようなものがあるのでしょうか。以下で解説します。
定時株主総会に向け取締役と監査役がすべきこと
各事業年度終了後、会社は事業報告および計算書類を作成し、計算書類について会計監査人の監査を受けることになります。ここから先は役員の出番です。
監査役設置会社を前提にすると、会計監査人の監査が終わったら、監査役は「会計監査人の監査の方法および結果が適正であったかどうか」について判断し、監査役自身の監査結果とともに、監査報告をとりまとめます。その後、取締役は、事業報告と、会計監査人および監査役の監査を受けた計算書類を取締役会で承認しなければなりません。
この取締役会は、会社法上の決算書類である計算書類を承認することから「決算取締役会」と呼ばれますが、決算書類のみならず、定時株主総会の招集についても併せて決議してしまう会社も多いです(もっとも、会社法は、定時株主総会の招集を決算取締役会のタイミングで決議するよう求めているわけではありませんので、決算取締役会を開催した後で、定時株主総会の招集に関して取締役会を開催のうえ決議しても、何ら問題はありません)。
株主総会の招集に際して、取締役会で決議しなければならないことは以下のとおりです(会社法298条1項、会社法施行規則63条)。
・ 日時および場所
・ 議題
・ 議決権行使書(株主総会に出席しない株主が議決権を行使する場合に使用する書面。郵送によりやり取りされる)または電磁的方法(インターネット)により議決権を行使できることとする場合にはその旨
・ 株主総会参考書類(議案とその提案理由など、議決権の行使の際に参考となる事項を記載した書類)に記載すべき事項
・ 議決権行使書または電磁的方法(インターネット)による議決権の行使期限(行使期限を定めない場合には、株主総会日の直前の営業時間の終了時となります)
このうち「議決権行使書により議決権を行使できる旨」は、株主数が1,000人以上の会社においては必ず決議しなければならないので注意が必要です。ただし、取締役会で「“以後の株主総会を含め”議決権行使書により議決権を行使できる」旨を一度決議しておけば、翌年以降の(定時株主総会の招集を決議する)取締役会での決議は不要です。
また、株主総会に出席しない株主の議決権行使の方法としては、議決権行使書以外に、委任状を利用して議決権を代理行使する方法があります。なお、会社が、金融商品取引法に基づき「全株主」に対して委任状を勧誘する方式(詳しくは「議決権行使書と委任状の違いは?」を参照してください)を選択した場合(こちらの方が少数派です)には、議決権行使書方式に関する取締役会決議は不要となります。
- 株主総会スケジュールを左右する「招集通知の発送日」
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定時株主総会の招集に関する取締役会決議が終わったら、次は・・・
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3月決算の上場会社の場合、定時株主総会を「6月最終営業日の前営業日」(当該日が月曜日である場合には、その前週の金曜日)に開催するところが少なくありません。このように上場会社の定時株主総会の開催日は特定の日に集中する傾向があり、この日は「集中日」とも言われています。集中日に定時株主総会を開催する会社(東証上場の3月決算会社を前提)は、1995年3月期では、なんと96.2%にのぼっていました。その後、集中日への集中率は年々低下していきましたが、現在でも3割程度の上場会社が集中日に定時株主総会を開催しています。
では、なぜ多くの会社が定時株主総会を集中日に開催したがるのでしょうか。
かつては、・・・
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集中日でない日に株主総会を開催する上場会社の中には、個人株主の保有率向上の施策の一環として、株主総会の休日開催に踏み切る会社も増えています。しかし、実際に株主総会に出席して議決権を行使することを望む株主ばかりではなく、株主総会への出席を面倒がる株主も少なくありません。
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株主総会の決議(特に断らない限り、「普通決議」を指すこととします。「普通決議」「特別決議」「特殊決議」については後述の「定足数をゼロにできないケースとは?」を参照してください)は、定款に別段の定めがない限り(「定足数要件を“排除”する方法」で詳しく述べます)、「議決権を行使することができる株主」(*)の「議決権の過半数を有する株主」が株主総会に出席し、「出席した当該株主の議決権の過半数」をもって行うのが原則です(会社法309条1項)。
* 「議決権を行使することができる株主」とは、通常は普通株式の株主を指しています。自己株式、配当優先無議決権株式(配当の支払いを他の株主より優先的に受けられる代わりに、議決権がない株式)の株主は除かれます。
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「定足数要件を“排除”する方法」で述べたとおり、会社法は、株主総会会場に足を運べない株主のために、次の3つの議決権行使方法を認めています。・・・
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- 大株主が欠席する場合には包括委任状の取得を
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通常、株主総会に足を運べない株主が議決権を行使したい場合には、議決権行使書を提出すれば足りますので、委任状を用いる必要性はそれほど高くありません。その一方で、会社側が委任状を取得しておくべきケースはいくつかあります。
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- “委任状争奪合戦”を仕掛けられた場合の会社の対応は?
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ある株主が他の株主に対して「議決権を代理で行使させて欲しい」と勧誘する行為を「委任状勧誘」と呼びます。委任状勧誘は、(1)会社提案の議案を否決するため、または(2)株主自らが提案(株主提案)する議案を可決するために行います。
一方、このような株主の動きに対抗し、会社も、会社提案の議案を可決し、または株主提案の議案を否決するために、委任状勧誘を行うことになります。その結果、いわゆる“委任状争奪合戦(プロクシー・ファイト=proxy fight)”へと発展することが多くなっています。特定の大株主にターゲットを絞って包括委任状を取得することも「委任状勧誘」ですが、通常は一般株主を巻き込んだ大規模なものを指します。委任状勧誘が行われるケースとしては、・・・
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- 株主総会議事録に記載漏れがあった場合のリスク
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株主総会を開催した場合には、それが定時株主総会であれ、臨時株主総会であれ、その議事について必ず議事録を作成しなければなりません(会社法318条1項)。仮に議事録を作成しなかった場合、・・・
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作成した議事録は、委任状および議決権行使書とともに本店に10年間、支店(*)に5年間備え置かなければなりません(会社法318条1~3項)。なお、株主総会議事録は「書面」ではなく「・・・
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- 署名・押印のない株主総会議事録は無効か?
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旧商法では、株主総会議事録には、議長および出席取締役全員の署名が必要とされていました(旧商法244条)。これに対し会社法では、上述のとおり株主総会に出席した役員の氏名、議長の氏名、議事録を作成した取締役の氏名の記載は必要とされている(会社法施行規則72条)ものの、署名(自筆でサインをすること)や記名押印(名前が記載された箇所の横に印鑑を押すこと)までは求められていません。したがって、署名や記名押印のない株主総会議事録であっても、法的には「有効」ということになります。
もっとも、実務上は、・・・
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- 途中退席した株主も「出席株主数」にカウントすべき?
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上場会社の株主総会では、総会の冒頭において、当日の出席株主数、当該株主の有する議決権数が報告され、当該総会の議題の定足数(定足数については、『株主総会決議の成立のカギを握る「定足数要件」』を参照してください)を満たしている旨が宣言されるケースが多くなっています。
もっとも、このような出席株主数等の報告は必ずしも法令により求められるものではありません。これに対し、株主総会議事録には、出席株主数、当該株主の有する議決権数等を記載することになるのは上述のとおりです。
ここで注意したいのは、・・・
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- 議決権行使結果は「どこまで」を「いつまで」に開示する?
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上場会社の場合、株主総会が終わったらその結果(議決権行使結果)を開示しなければなりません。株主総会の内容は、投資家にとっては重要な投資判断の材料になり得るからです。
具体的には、・・・
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