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【株主総会の運営】株主が株主提案権を行使してきた

 

株主提案権には2種類ある

株主総会の議題や議案()は会社側(経営陣側)が提案するのが通常です。しかし、それでは、必ずしも株主の希望通りの議題・議案が提案されるとは限りません。

 議題と議案の違いは後述します。詳細を知りたい場合は、「株主総会での動議提出に備えたい」の「適法な実質的動議と不適法な実質的動議」を参照してください。

そこで会社法では、一定の株主に「株主提案権」という権利を認めています。株主提案権とは、株主総会招集請求権などと並ぶ「少数株主権」の1つであり、文字通り少数株主の権利を保護するために認められているものです。ここで誤解しないようにしたいのは、「少数株主」と言っても、言葉のイメージとは異なり、単独で会社の経営権を握るまでには至らないもののある程度の議決権割合を有する大株主を指しており、1個や2個程度の議決権しか持たない株主などは該当しないということです。したがって、株主提案権などの少数株主権が行使されるケースとしては、一定以上の議決権を有する大株主が経営陣と対立した場合などが想定されます。

少数株主権 : 少数株主に認められた権利。ただし、一口に少数株主権といっても、その種類は様々で、その行使に必要な議決権割合も異なる。例えば、議決権割合「10%以上」を保有することにより認められる「解散請求権」、「3%以上」を6か月前から引き続き保有することで認められる「役員の解任請求権」や「株主総会招集請求権」、「1%以上」を6か月前から引き続き保有することで認められる「株主総会の議題提案権」などがある。

株主提案権を行使できる株主は以下のとおりです(上場会社を前提とします。以下同じ)。
・総株主の議決権の「100分の1以上」の議決権または「300個以上」の議決権を、6か月前から保有し続けている株主

冒頭でも触れましたが、株主提案権には株主総会の「議題」に関するものと「議案」に関するものがあります。いずれも「株主が取締役に対して」提案を行うものであるという点では変わりありませんが、両者には以下のような違いがあります。

「議題」に関する株主提案権
一定の事項を「株主総会の目的」(=議題)とすることを請求する権利(会社法303条)

「議案」に関する株主提案権
議題の中身の概要」(=議案の要領)を株主総会招集通知に記載するよう請求する権利(会社法305条)(

議題 : 議題の内容をより具体的に表したものを「議案」と言う。「議題」は「取締役1名選任の件」であり、「議案」は「取締役1名選任の件」という議題について記載された「××××を取締役に選任する」といったものを指す。

 株主総会の当日に、会場で議題に関して議案を提出すること(動議。会社法304条)も一種の株主提案権です。動議については後述の「株主提案への対応方法」でも触れていますが、詳細は「株主総会での動議提出に備えたい」に譲ることとし、本稿では株主総会前における株主提案権をメインに取り扱います。
よく見られる株主提案のパターン

具体的にどのような株主提案があるのか、見ていきましょう。

もっとも多いと思われるのが、「定款変更」を求める株主提案です。これは、取締役会設置会社(すべての上場会社が該当)の株主総会では、「法律又は定款に規定された事項」でなければそもそも決議ができないからです(会社法295条2項)。さすがに「法律」を変えることはできませんので、株主総会決議事項でない事項を株主総会で決議したいと望む株主は、それが可能になるように「定款」を変更するよう株主提案を行う必要があるわけです。よく見られる例としては、役員報酬の個別開示を義務付ける旨の定款変更を求める株主提案があります。

定款変更を求めるもの以外では、「取締役の選任・解任」や「剰余金の配当」に関する株主提案も比較的多く見られます。

では、株主提案権が行使される「局面」としては、どのようなケースが考えられるでしょうか。よくあるのが、以下のようなケースです(委任状争奪戦については「定時株主総会を開催する」の「“委任状争奪合戦”を仕掛けられた場合の会社の対応は?」を参照してください)。

株主提案権が行使される「局面」 その「局面」における主な株主提案
会社の経営権をめぐって委任状争奪戦になったとき 株主陣営の意向に沿った取締役の選任議案
アクティビストと称される「物言う株主」が、株主によるコーポレート・ガバナンスを実現するため 役員報酬の個別開示義務付けを定める定款変更議案
不祥事発覚や業績悪化により、株主が現経営陣への不満を抱いた場合 取締役の解任議案

場合によっては、保有株式を“ホワイトナイト” などに高値で買い取ってもらうために、・・・

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ホワイトナイト : 敵対的買収を仕掛けられた際に、当該買収者に対抗して、友好的な買収を提案してくれる会社等のこと。白馬の騎士(ホワイトナイト)に例えてこう呼ばれる。通常は、敵対的買収者よりも高い価格で株式を買い取るか、第三者割当増資を引き受けることになる。

株主提案への対応方法

では、株主提案に対し、会社はどのように対応すればよいのでしょうか?

まずは、株主提案をしてきた株主が実際に「株主提案権」を行使できる株主であるのかどうか、すなわち、「総株主の議決権の100分の1以上の議決権または300個以上の議決権を6か月前から保有し続けている株主」であるかどうかを確認する必要があります。そもそも株主提案権を行使できない株主による株主提案は成立しえないからです。

ただ、上場会社の場合、株券が電子化されていることから、株式の売買は「ほふり」(証券保管振替機構)および証券会社における振替口座を通じて記録されるだけであり、売買の都度株主名簿が書き換えられるわけではありません。また、株主名簿は年に2回(中間期末と年度決算期末)しか作成されないのが通常であるため、会社は株主名簿を用いて、株主提案権を行使してきた株主が株主提案権を行使できる株主かどうかを確認することもできません。そこで、株主提案権を行使したい株主は証券会社を通じて「ほふり」に申請をしなければならず、これにより「ほふり」から会社に対して振替口座に基づく個別通知が行われ、それをもって会社は「株主提案権を行使できる株主」であるか否かを確認することができます。

また、株主提案権は、株主総会の日の8週間前までに行使しなければならないとされています(会社法303条2項。定款でこれを下回る期間を定めることは可能)ので、会社は「ほふり」からの個別通知を確認後、当該提案が「株主総会の日の8週間前まで」に行われているかどうかを確認し、確認の結果次第で以下の対応をとります。

(株主総会の日の8週間前の日より後の提案である場合)
株主総会の日の8週間前の日より後に株主提案が行われていた場合には、今回の株主総会では株主提案ができない(=株主提案権を行使できない)旨を株主に伝えます。また、当該株主がそのまま議決権を保有し続けた場合には、次回の株主総会では株主提案権の要件を満たすことから、次回の株主総会において株主提案を行うことを目的とした提案なのかどうかを当該株主に確認する必要があります。

(株主総会の日の8週間前の日より前の提案である場合)
株主総会の日の8週間前までの株主提案であれば、次に、別の観点から当該株主提案が適法になされたものであるかどうかをチェックします。このチェックは総務部等の株主総会事務局が行いますが、法的判断が必要となる事項だけに、顧問弁護士への確認が欠かせません。上述したものも含め整理すると、以下のような場合は「不適法な株主提案」に該当することから、会社は提案を拒否することができます。・・・

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