ご質問(本稿に関係ないことでも結構です)、取り上げて欲しいテーマは
事務局まで
一等立地への出店を「広告宣伝費」と位置付ける会社も
現在のイオングループの基礎を作った岡田卓也名誉会長は「狸や狐の出る場所に出店せよ」と指示を飛ばしたと伝えられています。イオンは、その言葉のとおり郊外型のショッピングセンターを中心に据えた出店戦略を実現し、今や大成功を収める会社となっています。
一方、採算を度外視して、あえて一等立地に出店することにより、ニュースなどで取り上げられることで知名度をあげている会社もあります。このような会社は、一等立地にある店舗を維持するためのコストを自社ブランドの「広告宣伝費用」ととらえ、そのコストはこの広告宣伝の恩恵を受ける他店舗の収益で回収し、会社全体として採算を確保するブランド戦略を採用していると言えます。
このように、新規の出店戦略は、各会社の目指す方向性に大きく左右されます。特に小売業、飲食業、アミューズメント業などにおいては、この新規出店案件が経営戦略策定の重要なファクターであるため、取締役にとって重要な意思決定事項となっています。
以下、取締役が新規出店に関する意思決定をする際のポイントについて検討していきましょう。
田舎に出店した方がターゲット客数は多い場合も
新規出店に関する意思決定は、出店候補地の選定がもっとも重要なポイントとなります。候補地に関する第一の条件は、「多くのお客が入ってくれる場所」であることは言うまでもありません。単純に考えると、東京などの大都市は人口が多いため、その中心に出店すれば多くのお客様が来店する可能性が高いはずです。しかし、大都市は競合店が数多く存在し、店舗間の競争が熾烈です。人口1,000万人の都市に競合店が1,000店舗ある場合、1店舗あたり1万人をお客様として確保できれば“平均点”ということになります。一方、人口2万人の田舎であっても、競合店がゼロであれば、ここに出店することにより2万人のお客様をターゲットにすることができます。これは極端な例ですが、「人が多い場所に出店すること」イコール「多くのお客様が入ってくれる場所に出店すること」を意味するわけではないことには注意が必要です。
また、出店に際しては商圏内のターゲット顧客層の昼間・夜間人口分析、予定地の交通量調査・近隣店舗の来店客数分析も不可欠です。過去に新規出店の経験があり、商圏分析のノウハウや人材が十分確保されている場合には、調査を自ら行えることでしょう。一方で、自社にノウハウや人材がない場合には、外部の調査機関やコンサルティング会社のような、市場調査等を専門に取り扱う業者を利用し、調査結果を入手した上で新規出店の可否の判断に役立てることが多いと考えられます。
これらのことを念頭に置いて、次に出店計画策定時のポイントについて解説していきます。
- 出店計画策定時のチェックポイント
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新規出店を行う場合は、まず出店計画を立案します。出店計画では、次のような事項を検討することになります。
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- 投資コストを把握し採算性を計算
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(出店規模と初期投資額)
冒頭で述べたようなブランディングを目的とした赤字覚悟の出店でない限り、投資したコストを回収できないようでは出店する意味がありません。そこで、出店計画の策定に際しては、その店舗における中期的な損益推移計画を予測して、投資コストはどの程度の期間で回収できるのか(後述の回収期間法)を明確にしておくことが必要です。投資コストは出店規模に比例します。また、損益推移計画も出店規模次第と言えます。そのため、具体的な出店候補地から建屋や駐車場をどの程度の広さにするのかを割り出し、出店規模を確定した後、投資コストを積み上げていきます。また、その店舗でどのくらいの売上高を見込むのか、そのための経費はどれくらい必要となるのかを検討して、損益推移計画を策定します。
初期投資額には開業資金だけでなく、・・・
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- 出店形態次第で異なる資金負担や会計処理
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「出店計画策定時のチェックポイント」で述べたとおり、出店形態には土地・建物ともに自社物件を用いる形態に加えて、主として敷金・保証金方式、建設協力金方式、定期借地権方式の3つがあります。その3つはすべて賃貸借契約の一つであり、ランニングで賃料が発生する点では同じですが、当初の資金負担や、賃貸契約終了時の費用負担、さらには会計処理に違いがあります。
1 敷金・保証金方式
敷金・保証金方式とは、通常のオフィスの賃貸借に近いもので、契約時に借り手が貸し手に対して敷金や保証金といった長期の預け金を差し入れる方式です。借り手としては建物の建設費用を負担することなく出店できることが最大のメリットとなります。一方で、建物の建築仕様が出店を希望するテナントの要望通りになっているとは限らないという問題があります。また、内装工事を行い自社仕様にした場合には、退去する際に原状回復を求められることが通常です。さらに、ショッピングセンター等にテナントとして出店する場合には、賃貸借期間が比較的長期になることから、賃借料の滞納や原状回復義務の懈怠の担保として敷金・保証金が多額に上ることもあります。敷金・保証金の相場は、・・・
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- 新規出店の機関決定に先立ち出店基準のクリアを確認
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新規出店には、社内で設けた出店基準を満たしていることが必要となります。出店基準は、売上目標値を達成できるかどうかが重要なポイントになります。売上目標値は、例えば次のような要件を満たす金額にすることが考えられます。
・損益分岐点を超える売上高をあげること
・目標客単価を達成すること
・投資の回収期間を3年以内にすること
店舗開発の担当者は、出店先の候補ごとに出店形態に応じて負担することになるコストやその他の運営コストを変動費と固定費に分解し、売上目標値を算定します。そして、・・・
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- 新規出店が「資産除去債務」を生むことも
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2010年4月1日以後開始事業年度から原則適用された「資産除去債務の会計基準」により、法令や契約に基づいて原状回復の義務が課せられている場合には、資産除去債務の計上を検討する必要があります。この資産除去債務とは、「契約などに基づいて店舗の閉鎖時に支払うことになる合理的な見積額」を、資産の賃貸借契約の“契約時”に「負債」として認識するとともに、当該見積額を「有形固定資産」として計上し、減価償却を通じて各期に費用配分していくというものです。減価償却を通じて費用配分を行うのは、資産除去債務も理論的には各期の収益の獲得に貢献しているにもかかわらず、店舗の閉鎖時に一括して多額の原状回復費用を計上すると、店舗の売上高と売上を獲得するための費用との対応関係、すなわち収益と費用の対応がゆがんでしまうからです。こうしたゆがみを起こさないように、毎期少しずつ閉店時にかかる原状回復費用を分配していこうというわけです。
テナント契約や定期借地契約をする場合は、・・・
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- 新規出店の成否と業績予想修正の関係
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上場会社は、決算短信において次期の業績予想を発表するのが原則です(例外については「業績予想を修正したい」の「「次期の業績予想」の形式ではない場合の判断基準は?」を参照してください)。そこで、次期に新規出店が計画されている場合は、それに応じた売上増を見込むことになります。
しかし、何らかの理由により計画で見込んだ期に新規出店ができない場合は、当初見込んでいた売上が期待できなくなることから、当期の業績見込みの金額が期初に公表した当初の業績予想値を大きく下回るケースがあります。その乖離が投資家の投資判断に重要な影響を与える可能性がある場合には(「投資家の投資判断に重要な影響を与える可能性」については、「業績予想を修正したい」の「「業績予想の修正」の判断基準と開示すべき事項」を参照してください)、新たに算出された予想値の適時開示が必要となり、業績予想の下方修正を発表することが求められます。
逆に、新規出店が大成功し、当初の業績予想よりも大幅な収益のアップが見込まれる場合には、・・・
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- 新規出店がインサイダー取引の重要事実に該当する場合も
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出店計画の進捗が遅れたことにより、業績予想の修正が必要となり、その修正幅が一定の基準を超える場合、業績予想の修正という事実はインサイダー取引における重要事実に該当することになります(詳細は「業績予想を修正したい」の「業績予想の修正が「インサイダー情報」にあたるケース」を参照してください)。一定の要件を満たす“公表”が行われるまでは情報管理を徹底する必要があります。
また、新規出店の機関決定が「新製品又は新技術の企業化を、会社の業務執行を決定する機関が決定した」場合にあたるのであれば、・・・
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- 新規出店に必要な許認可を忘れずに
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新規出店の際には、行政関連の様々な届出や許認可が必要になります。例えば、大規模小売業者であれば「大規模小売店舗立地法」に基づき、次の項目を所在地の属する都道府県に届け出ることになっています(大規模小売店舗立地法第5条)。これには次のような項目の届出が必要になります。
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