ご質問(本稿に関係ないことでも結構です)、取り上げて欲しいテーマは
事務局まで
「業績予想の修正」の判断基準と開示すべき事項
株価の変動要因はいろいろありますが、中でも会社の業績等の将来を予測する情報は、株価を動かすもっとも重要な要因といっても過言ではありません。そこで、上場会社は、証券取引所の要請に基づき、投資家の判断に資するために売上高、営業利益、経常利益、当期純利益といった業績予想を開示することが期待されています。
しかし、業績予想はあくまで予測に過ぎないので、販売や製造が当初の見込みどおりに推移しないという事態や、時間の経過とともに予測できなかった要因が発生することは容易に起こり得ます。そこで、証券取引所は上場会社に対して、売上高、営業利益、経常利益、当期純利益の予想を公表した後で業績予想を修正した結果、いずれか1つでも当初の業績予想の数値との間に重要な差異が生じた場合、業績予想の修正を公表することを求めています(東京証券取引所の有価証券上場規程第405条1項)。ここでいう重要な差異とは、投資家の「投資判断に及ぼす影響が重要」なレベルの差異のことであり、具体的には下表のような比率の増減を指します(有価証券上場規程施行規則407条)。
表「業績予想の修正の公表が必要となる基準」
前回予想値と、今回予想値または当期実績値とを比較して、増減が右の基準を超える場合(注) |
売上高 |
10%以上 |
営業利益 |
30%以上 |
経常利益 |
30%以上 |
当期純利益 |
30%以上 |
(注)前回予想値がない場合は、「前回予想値」は「前期実績値」に読み替えます。
なお、最近徐々に増加しつつあるIFRSの任意適用会社の場合は、売上高、営業利益、税引前利益、当期利益または親会社の所有者に帰属する当期利益(当期利益のうち非支配持分を除いた分)に重要な差異が生じた場合に開示が求められます。国内会計基準を適用している会社との違いは、IFRSでは経常利益という指標が無いという点とIFRSでは親会社の所有者に帰属する当期利益が記載される点(*)にあります。なお、IFRSでの利益系の指標については、上表と同じ30%基準を採用することになります。
IFRS : IASB(国際会計基準審議会)が策定する国際財務報告基準のことで、“International Financial Reporting Standards”の略
* もっとも、日本の会計基準においても、企業結合会計基準の改正を受け、平成27年4月1日以後開始する事業年度より、これまで「当期純利益」「少数株主利益」「少数株主損益調整前当期純利益」とされていた項目が、それぞれ「
親会社株主に帰属する当期純利益」「非支配株主に帰属する当期純利益」「当期純利益」という科目名で表示(または付記)されることになりました。
上表の基準はすべて「増減額」ではなく、「増減率」となっていることから、「増減額」が同じでも、規模の小さな会社ほど「増減率」へのインパクトが大きくなり、業績予想の修正が求められる可能性が高くなる点には留意が必要です。例えば営業利益の予想が10億円のA社と1億円のB社があるとします。両社とも、営業利益が5千万円減少することになった場合、A社では減少率が5%であるため、業績予想の修正に関する公表は不要ですが、B社では50%の減少となることから業績予想の修正を公表しなければなりません。業績低迷時には、売上高や各段階利益の金額が小さくなる傾向にあるので、表中の増減基準である10%または30%基準に該当しやすくなる点には留意が必要です。
上表の基準へのあてはめを具体例で見てみましょう。外部環境の変化、実績の状況に応じて適時に予算を見直す必要がありますが、この予算の改訂は将来予測情報の変更そのものです。業績予想公表後に予算の見直しをした結果、業績予想値に上表の基準に該当するような重要な変動があれば、業績予想の修正についての適時開示が必要になります。売上高の予想を100億円と開示していた会社が、販売実績の大幅な低迷により期の途中で売上見込みが88億円となる業績予想の修正を社内で行った場合、売上高の前回予想値と今回予想値を比較すると12%の下方への乖離があることになります。これは、上表の売上高増減率の10%基準を超えることから、業績予想の修正についての適時開示が必要になります。
上の表の基準に当てはまる場合、具体的には次の事項の開示が必要になります。
(1)修正理由
(2)前回予想値
(3)新たに算出した予想値
(4)前回予想値と新たに算出した予想値との増減額および増減率
(5)前期実績値
なお、四半期決算短信においても通期の業績予想の開示が求められており、直近に公表されている業績予想からの修正の有無についても記載が求められています。
- 「次期の業績予想」の形式ではない場合の判断基準は?
-
会社の将来を予測する情報として、売上や利益といった「次期の業績予想」の形式ではなく、受注高、EBITDA(*)、1株当たり利益など、売上高や利益に関連する「財務指標」により予想値を開示しているケースも見られます。そのような形式で将来予測情報を開示した場合は、投資家の「投資判断に重要な影響を与える可能性」の判断基準について「「業績予想の修正」の判断基準と開示すべき事項」にて記載した表「業績予想の修正が必要となる基準」(以下、上表)のような一律の基準がないことから、あらかじめ上場会社において、開示される将来予測情報の性質に応じて自主的な判断基準を定めておく必要があります。
* Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortizationの略。「エビーダ」「イービッダー」「イービットディーエー」などと呼ばれ、支払利息、税金、有形固定資産の減価償却費、無形固定資産の償却費を差し引く前の利益のこと。
自主的な判断基準としては、次のようなものが考えられます。
・上表(業績予想の修正の公表が必要となる基準)の基準を援用する方法(例えば、受注高であれば売上の前段階なので増減10%を基準とすることが考えられます)
・予想値の変動による売上高や利益への影響度合いを考慮する方法(将来予測情報として採用した財務指標が1%変動した時に、売上高や利益はどの程度変動するか)
そして、将来予測情報について、期中において新たな予想値を算出した場合において、自主的な判断基準を超えるレベルの増減があれば、その修正についての適時開示が必要になります。
- 業績予想を公表していない場合でも「業績予想の修正の開示」が必要になるケース
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証券取引所の規則では、一定の場合には業績予想を公表しないことも認められています。この場合、そもそも修正すべき業績予想がないことから、たとえ業績に変動を与える事情が生じたとしても、業績予想の修正という話は出てこないように見えますが、そうではありません。
業績予想を公表していない場合であっても、・・・
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- 業績予想の修正が生じる原因と改善方法
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投資家は過去の業績予想の修正頻度や修正方向(上方修正か下方修正か)を織り込んだ形で業績の着地見込みを予想します。この点、業績予想の修正が少ない会社は、投資家にとって株価の方向性を見極めやすいことから、投資家は安心して投資判断を下すことができます。一方、業績の上方修正が多い傾向にある会社であれば、投資家は「実績の着地は会社が公表した予想よりもっと高くなるのではないか」と勘繰りすることになります。逆に、業績の下方修正が多い傾向にある会社であれば、投資家は「実績の着地は会社が公表した予想よりもっと低くなるのではないか」と疑心暗鬼になります。
確かに、業績予想はあくまでも予測に過ぎないことから、その修正は当然あり得る事態です。とはいえ、上方修正であれ下方修正であれ、修正が頻発してしまうと、経営の“ぶれ”を招くだけでなく、経営者としての見込の甘さを露呈することにもなりかねません。特に下方修正が続くと、投資家の期待を大きく損ねることになってしまうため、可能な限り修正しなくてもよいレベルの、精緻な予想を心がけたいものです。
そのためには、業績予想の修正が生じる要因を分析することが欠かせません。要因としては外部要因(例えば、輸出入産業における外国為替レート、輸出入相手国の法制度の変更といった社外的要因)と内部要因(例えば、新商品の開発の遅れ、新規店舗の出店や人材成長の遅れ、過度に悲観的あるいは楽観的な予算の策定といった社内的要因)が考えられます。
その改善方法としては、・・・
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- 業績予想の修正が「インサイダー情報」にあたるケース
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業績予想を修正した場合、会社として細心の注意を払う必要があるのが、インサイダー取引の防止です。
インサイダー取引とは「インサイダー情報(法令上は「重要事実」と言われます)」を利用して行われる不公正な取引ですが、この「インサイダー情報=重要事実」には、配当予想の修正や自己株式の取得、資本金の減少などとならび、「業績予想の修正」も含まれます。
ただし、業績予想の修正がすべて「重要事実」に該当するわけではありません。業績予想の修正をした場合であっても、修正の程度が軽微であれば投資家の投資判断に影響を与えないことから、金融商品取引法では、“一定の基準”を超える業績予想の修正のみを「重要事実」としています。
具体的には、当該会社または当該会社の属する企業集団の売上高、経常利益もしくは純利益について、公表された直近の予想値と当該会社が新たに算出した予想値との間に、下記のいずれかに該当する差異が生じている場合が「重要事実」に該当します。・・・
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- 業績予想の修正を「インサイダー情報」でなくすためには?
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「重要事実」は、それが公表される前でなければ「インサイダー情報」とはなり得ません。逆に言うと、「重要事実」に該当する業績予想の修正を行ったとしても、それが「公表」された場合には、もはやインサイダー情報として管理する必要はなくなるということです。
そこで、何をもって「公表」と言えるのかが問題になりますが、金融商品取引法上は、以下の要件のいずれか1つを満たせば「公表」されたことになります(金融商品取引法166条4項、金融商品取引法施行令30条)。・・・
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- インサイダー取引予防のためにすべきこと
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インサイダー取引を防止するため、法令等においても規制が設けられています。
金融商品取引法では、業績予想の修正等の重要事実を利用してインサイダー取引が行われること等を防止するため、上場会社の役員等に対し、自社株の取引を行った場合には、一定の条件を満たす場合を除き、財務局に報告する義務を課しています(金融商品取引法163条1項、有価証券の取引等の規制に関する内閣府令30条1項)。具体的には、上場会社の役員が自社株の取引を行った場合、以下に定める場合等を除き、当該取引の翌月15日までに、「取引者の氏名・住所、取引日、取引した株式数・取引価格等」を記載した報告書(有価証券の取引等の規制に関する内閣府令29条1項および別紙様式第3号)を提出することとなります。・・・
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