予算達成状況の報告頻度と報告方法は?
上場会社の大部分を占める取締役会設置会社では、代表取締役および業務執行取締役(業務執行を行う取締役。社外取締役は業務執行を行わない取締役であるため、業務執行取締役にはなり得ません)として選定された取締役は、「3ヶ月に1回」以上、自己の職務の執行状況を取締役会に報告しなければならないこととされています(会社法363条2項)。
取締役会への報告は、取締役および監査役の全員に対して報告事項を通知した場合には省略できるのが原則ですが、3ヶ月に1回の定例報告は省略することはできず、実際に取締役会を開催(*)して報告する必要があります(したがって、報告事項の通知により取締役会への報告を省略できるのは、3ヶ月に1回の定例報告“以外”の取締役会に限定した話ということになります)。
このように3ヶ月に1回の定例報告が省略できないのは、取締役会は「業務執行の決定」と「取締役の職務執行の監督」を行う機関であり、これらの役割を適切かつ実効的に果たすためには、代表取締役および業務執行取締役から定期的に職務の執行状況を報告させることが不可欠だからです。
なかでも、会社の経営目標を具体的に数値化した「予算」の達成状況は、会社の現状や経営課題の分析、そして今後の経営方針の策定に直接関わる企業経営上の重要事項であり、定例報告において報告すべき事項の中心をなすものと言えます。したがって、法定の「3ヶ月に1回」という頻度にこだわらず、きめ細かく予算の達成状況を取締役会で共有するべきです。上場会社に最もよく見られる月に1回程度の頻度で定例の取締役会を開催している会社であれば、定例の取締役会の都度、予算の達成状況を報告するのがよいでしょう。
予算は、予算を用いたPDCAサイクル(Plan(計画)-Do(実行)-Check(評価)-Act(改善)の循環)において、Plan(計画)に相当するものであり、予算統制(予算制度と月次決算を活用した管理会計)の手段です。定例の取締役会における予算の達成状況の報告は、Check(評価)に相当します。Check(評価)が遅れれば遅れるほど、Act(改善)のための活動も遅れていくことになります。経営環境の変化に迅速に対応するためには、予算の達成状況を報告する定例の取締役会は月次決算の締め(通常は月末)後できる限り早いタイミングで開催することが望ましいと言えます。そのためには、月次決算の早期化が必要となることは言うまでもありません。
予算の達成状況の報告方法については、法律上何ら制約は設けられていません。通常は、業務執行取締役が、自ら担当する部門の予算および実績をとりまとめて報告するとともに、両者の乖離が大きい場合や特殊な数値が表れている場合には、その原因(一時的・突発的な外部要因によるものか、事業自体に内在する要因によるものかなど)の分析結果と改善策を示したうえで、これらについて取締役会で議論します。報告者以外の役員は、報告者が示した予算と実績の差異分析や改善策が不十分であれば、その旨を指摘したり改善策を提案したりすることになります。
なお、上場会社では、社外取締役や社外監査役が選任されているのが通常ですので、業務執行に携わっていないこれらの社外役員が取締役会で実質的な議論を行うことができるよう、経理部や監査役スタッフ(監査役の業務を補助するスタッフ)等の事務サイドが取締役会開催前にあらかじめ社外役員に説明を行い、予算達成状況や各数字の意味するところを理解させておくことも必要です。
予算未達で、業績予想の修正が必要になる場合も
予算が未達になると、社内の雰囲気はどうしても暗くなります。社員は賞与の減額や昇給の断念等をイメージすることでしょう。また、役員にあっては経営責任という言葉が頭をよぎるかも知れません。後述するように、役員報酬等の減額や解任の危機を招く恐れもあります。
それはさておき、予算が未達となった場合には、役員としてやるべきことが色々と出てきます。まずは予算の改訂です。販売動向などの変化を踏まえて見直した最新の予算が当初予算と乖離していることが明らかになれば、取締役会で予算の改訂を行う必要があります。実務上は四半期ごと、あるいは半期で予算を改訂し、取締役会で承認するケースが多いかと思います。
上場会社であれば、それに合わせて、公表済の業績予想との乖離状況を検討する必要があります。証券取引所は、上場会社に対して、既に公表済の業績予想値と月次決算や販売動向等を踏まえて新たに算出された予想値に差異があり、投資家の投資判断に与える影響が重要と認められる場合には、新たに算出された予想値を「適時開示」することを義務付けているからです。ここでいう「重要な影響」の判断基準は、公表済の業績予想値との乖離が、売上高であれば10%、営業利益・経常利益・当期純利益であれば30%となっています(詳細は「業績予想を修正したい」の「「業績予想の修正」の判断基準と開示すべき事項」を参照してください)。
また、例えば自然災害等の影響により業績予想を立てられない場合や、業績の変動が大きくあらかじめ業績を合理的に予測することが困難な場合などにより「次期の業績予想」の開示を行っていない場合であっても、社内に「次期の業績予想」に相当する情報を有しており、その内容が前期の実績値と乖離(上記と同じく、売上高であれば10%、営業利益・経常利益・当期純利益であれば30%)している場合には、その内容を直ちに証券取引所で開示することが求められています(詳細は「業績予想を修正したい」の「業績予想を公表していない場合でも「業績予想の修正の開示」が必要になるケース」を参照してください)。
なお、業績予想を修正する際には、インサイダー取引における重要な事実に該当するかどうかの検討も必要となってきます。この点については、「業績予想を修正したい」の「業績予想の修正が「インサイダー情報」にあたるケース」を参照してください)。
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