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【経理・財務】棚卸を適正に行いたい

 

経営陣が「棚卸」に関心を持つべき理由

製造業や小売業にとって、在庫は次の売上を稼ぎ出す“源泉”ですが、その在庫を売り上げるまで、製造や仕入によって在庫に投じられた資金は「在庫」に形を変えたまま眠り続けることになります。すなわち、在庫を管理することは、「将来の売上」と「現在の資金」を管理することに他なりません。キャッシュフローを重視する経営スタイルの浸透のもと、製商品のライフサイクルが短くなればなるほど、在庫管理の重要性は高まります(在庫管理については「在庫の増減が目に付く」を参照)。

在庫管理()の中でも特に重要な手続きが「棚卸」です。棚卸には帳簿棚卸(帳簿上だけで数量を把握すること)と実地棚卸(実際に数量をカウントすること)の2つがあります。これらは、両方実施されてはじめて意味を持ちます。というのも、帳簿上の数量と実際の数量は異なるのが通常だからです。

棚卸の流れとしては、まず在庫の出入りを帳簿で把握し、帳簿棚卸により理論上の在庫数量を計算します。次に、実地棚卸により実際の数量をカウントします。そして、理論上の在庫数量と実地棚卸により把握した数量を比較したうえで、両者の差を棚卸減耗として把握し、帳簿上の在庫数量を確定します。

棚卸減耗 : 理論上の在庫数量と実際の数量の差異。通常は実際の数量の方が少ないため、棚卸減耗損となる。

 在庫管理は、在庫の発注(在庫の適正水準については「在庫を適正水準に保ちたい」を参照)、検収、入出庫、棚卸と多岐にわたります。

棚卸の目的は、棚卸減耗を把握して帳簿上の在庫金額を確定することだけではありません。棚卸を継続的かつ組織的に行うことで、在庫の横領や架空計上といった在庫不正への牽制効果が期待できます。なぜなら、在庫を私消するために横領したり、利益の調整を目的として在庫数量を操作したりすれば、次の棚卸の際に帳簿上の在庫と実際にカウントした数量とが不一致となり、こうした不正行為が発覚する可能性が高いからです。そのためにも、棚卸は在庫不正の牽制になるような形で実施されなければなりません(詳細は後述)。

また、棚卸から得られた情報を上手に活用することで、経営改善のための「次の一手」のヒントを得ることもできます(後述の「棚卸の結果には経営上の問題解決のヒントが詰まっている」参照)。経営陣は、棚卸結果を経営改善のための情報源として積極的に活用できるよう、棚卸手続きの継続的な改善に努める必要があります。

棚卸は社内外の人的リソースを総動員してカウント作業を行う“一大プロジェクト”であるため、計画性と情報の共有も不可欠となります。綿密に計画を練り、手続きを周知徹底し、無駄を可能な限り排除したうえで効率的に実施しなければなりません。

以下、棚卸を効果的かつ効率的に実施するため体制整備について見ていきましょう。

棚卸手続きの一般的な流れを確認

棚卸は、在庫管理部門に一任するだけでは決してうまくいきません。本社管理部門の入念な準備とコントロールのもと、「全社的」に取り組む必要があります。棚卸の準備にあたり必要な事項は次のとおりです。

1 スケジュールの確定
まずは棚卸日を確定します。棚卸は期末日に行うのが一般的ですが、棚卸の実施回数(最低でも年に1回)や回ごとの規模()は会社の状況に応じて異なります。実施回数は社内規程に定めておく必要があります。

 例えば、大規模棚卸(全社的な棚卸)を期末日に1回、小規模棚卸(工場ごと、部門ごと、またはアイテムごと)をローテーションで毎月実施します。

ローテーション : 事業場やアイテムごとに分割のうえ、タイミングをずらして棚卸を行うこと。

店舗や工場の稼働の状況によっては、時期をずらして棚卸を行うこともあります。店舗の場合、棚卸作業を営業時間終了後の深夜からスタートするケースも見られます。

2 社内への周知徹底
棚卸の実施中に在庫が動いてしまうと、棚卸数量を正確にカウントできなくなってしまいますので、棚卸の期間中は原則として荷動きを止めなければなりません。

そこで、棚卸に先立ち、棚卸実施日前の最後の入出庫および棚卸実施後に入出庫が可能になる日時、顧客からの要請に基づく緊急出荷や返品など例外的に棚卸の期間中に荷動きをしなければならなくなった場合の申請書や承認ルールを定め、社内に周知徹底する必要があります。

社内での周知徹底を図るには、棚卸担当者を集めて事前説明会を開催するのが有効です。棚卸の2~3週間前に本社管理部門が棚卸説明会を開催し、棚卸手順書を配布して、今回の棚卸で新たに追加または変更された手続きや例年ミスが多い箇所を中心に、十分な説明を行うとともに、現場の疑問にも答えておきます。これが棚卸当日の混乱を防ぎ、効率的な棚卸を実現することになります。

棚卸手順書 : 棚卸スケジュール、組織図、棚卸レイアウト図、担当表、棚卸の手順等が記載される。

3 権限の明確化
棚卸規程により棚卸に関わる指揮命令系統、情報の伝達経路、棚卸に関わる各部署の責任を明確にするとともに、棚卸規程とは別に「棚卸手順書」を作成し、棚卸プロジェクトに関する組織図を示したうえで、各部署・各人が棚卸において果たす役割を記載しておきます。

組織図では、まず全社的な棚卸責任者(社長や管理部長等)を定めます。そして、・・・

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大半の会社で棚卸手続きに改善の余地あり

棚卸手続きは、会社の置かれた状況や在庫特質、在庫システム、予算等の影響を大きく受けることから各社各様であり、どのやり方がベストなのか一概に言うことはできません。裏を返せば、「自社の棚卸手続きがベスト」と言い切れる会社もほとんどなく、棚卸手続きに何らかの課題を抱えていたり、改善の余地が残されていたりするところが大半です。

検討すべき課題や改善策として考えられるものは、以下のとおりです。

■IT導入
棚卸にITを導入することも課題の1つです。

小売業ではPOTやGOTを用いた棚卸が一般的ですが、製造業ではいまだに“紙とペン”によるアナログな棚卸を実施している会社が少なくありません。その理由として・・・

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棚卸の結果には経営上の問題解決のヒントが詰まっている

棚卸は、大勢の社員を動員し、多額のコストをかけて実施する全社的なプロジェクトです。それにもかかわらず、棚卸を「在庫金額を確定するためだけの単なる手続き」ととらえている経営陣が少なくありません。

しかし、実は棚卸の結果(実地棚卸高、棚卸にかける時間、棚卸差異など)には数々の有用な情報(後述します)が詰まっているので、経営陣はそれを積極的に活用しなくては“損”と言えます。経営陣には棚卸の結果の分析を通じて、経営上の問題点を見つけ、その解決策を検討し、実行に移していくことが望まれます。言い換えれば、経営陣は、棚卸を「在庫金額を確定するためだけの単なる手続き」ではなく、「在庫の把握を通じて行う経営改善活動の一環」に位置付け、棚卸結果の活用策に知恵を絞るべきです。以下、小売業と製造業における棚卸結果の活用策を、具体的に見てみましょう。・・・

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