手形・小切手は便利な反面、特有の危険も
手形・小切手は信用取引(商品の受け渡しと代金決済を同時に行う現金取引と異なり、商品の受け渡し時点で代金決済を行わず、将来の一定の期日に支払うことを約束して商品を受け渡す取引方法)による支払時に用いられる支払方法の1つです。
小切手は、支払期日を指定できる手形と異なり、「一覧払い」という点が特徴的です。一覧払いとは、小切手の所持人はいつでも銀行に小切手を呈示することができ(*1)、呈示を受けた銀行は直ちに振出人の口座から支払いを行うというものです。これにより、小切手の所持人は現金化したいタイミングで現金化することができることになります。仮に振出日欄に将来の日付が入っていても(これを先日付小切手(*2)と言います)、銀行は小切手の呈示があった時点で振出人の口座から支払いをします。したがって、振り出した側は、振出日欄の日付を問わず、小切手の振り出しとともに当座預金を減らす会計処理をします(*3)。また、小切手の受取人は銀行に小切手を呈示するまでは現金同等物として会計処理します。
*2 小切手の振出日の欄に将来の日付を記載して振り出された小切手のこと。振り出し時には資金手当てができていないものの、後日資金手当の見込みが付いているような場合等に、受取人に振出日まで提示しないことを要請し、承諾を受けて振り出します。もっとも振出日を待たずに銀行に呈示されるリスクがあり、資金ショートを起こしかねないので原則として振り出しを禁止すべきです。
*3 これにより小切手の過振り(当座預金の残高以上に振り出すこと)を防ぐ効果もあります。
呈示 : 小切手に記載されている支払銀行の支店にて支払いを求めること。もっとも、通常は、自社の取引銀行に預け、取り立てを依頼する。
振出日 : 手形を発行した日
一方、手形は支払期日を指定するのが通常(*)であり、支払期日が到来するまでは振出人は支払猶予を得ることになります。そこで振出人としては小切手のように振り出しただけでは当座預金を減らすことはせず、支払日までは「金銭債務」(支払手形)として取り扱います。一方、手形の受取人は支払期日が到来するまでは受取手形として会計処理します。
手形・小切手は、現金と比べると持ち運びが容易であるという性質があります。仕入先に多額の現金を持ち運ぶことは、とてもかさばるため現実的ではなく、盗難にあう危険も増します。また、手形については支払期日前であっても割引や裏書(*)により現金化することが可能となり、資金繰りの観点からは現金払いに近い効果もあります。さらに、振出人側から見ると支払猶予機能がある点が大きなメリットです。
割引 : 金融機関等に手形を売却すること。支払期日前に支払いを受けるため、支払期日までの利息や手数料を控除されることになり、手取額は減る。利息相当額は「手形売却損」として会計処理する。
裏書 : 手形を譲渡すること。譲渡人(裏書人)・譲受人(被裏書人)の名前(名称)や住所が手形面の裏に記載されていることから、“裏”書と言われる。例えば、A社に商品を販売してA社から手形を受け取ったB社が、今度はC社から商品を仕入れた場合、C社への支払いにA社から受け取った手形を充てるような場合に用いられる。裏書された手形は回し手形とも言われる。
一方で、手形・小切手にはデメリットもあります。まず、有効な手形・小切手を振り出すためには法定の要式を充たさなければならないことから、一定の知識を有する者に取り扱わせる必要があります。また、後述するように管理も煩雑となります。さらに、金額を自由に記載できることから着服など“不正”に用いられてしまうと、会社に多額の損失をもたらしてしまいます。加えて、“誤謬”にも注意しなければなりません。手形・小切手に記載されていない事情は一切考慮されないことから、金額を誤って記載した手形・小切手を交付してしまうと、正しくない金額の手形・小切手が一人歩きしてしまうことになります。振り出しに先立ち、金額欄に間違いがないか入念にチェックする必要があります。
手形には下記の印紙税が必要となる点もデメリットの1つです(小切手は印紙税が不要です)。
<手形と印紙税>
記載された金額 | 税額 | |
10万円未満のもの | 非課税 | |
10万円以上 | 100万円以下 | 200円 |
100万円を超え | 200万円以下 | 400円 |
200万円を超え | 300万円以下 | 600円 |
300万円を超え | 500万円以下 | 1,000円 |
300万円を超え | 500万円以下 | 1,000円 |
500万円を超え | 1,000万円以下 | 2,000円 |
1,000万円を超え | 2,000万円以下 | 4,000円 |
2,000万円を超え | 3,000万円以下 | 6,000円 |
3,000万円を超え | 5,000万円以下 | 10,000円 |
5,000万円を超え | 1億円以下 | 20,000円 |
1億円を超え | 2億円以下 | 40,000円 |
2億円を超え | 3億円以下 | 60,000円 |
3億円を超え | 5億円以下 | 100,000円 |
5億円を超え | 10億円以下 | 150,000円 |
10億円を超える | 200,000円 |
印紙は振出人が貼付しなければなりません。このような印紙税の負担を軽減するために、手形を分割して発行することもあります。たとえば、5,500万円の支払をする際に、5,500万円の手形を1枚発行すれば20,000円の収入印紙が必要になりますが、5,000万円の手形と500万円の手形の2枚を発行すれば11,000円の収入印紙で済みます。
貼付した印紙の再利用を防ぐため、印章や署名により手形と印紙をまたぐように消印をしておかなければなりません。単に斜線を引いたり「印」の一文字を署名したりするだけでは、「印章や署名による消印」には該当しません。
一枚一枚に印紙を貼付し消印をするのは、手形の数が多いと大変な作業になります。そこで、印紙税を前納して、税務署長の承認を受けて印紙税納付計器を社内に設置し、この計器によって課税文書に納付印(スタンプ)を押す方法などが認められています。
また、決済の手段として、約束手形ではなく為替手形を用いる場合もあります。その場合、受取人が収入印紙の負担を負うことになります。
手形帳・小切手帳の管理は現金と同等
不正に持ち出されないよう厳格に管理されるべきものの代表例は「現金」ですが、手形・小切手も厳格な管理が必要という点では現金と同様です。手形・小切手は換金化が容易であることから、現金と同様不正に使用される危険性が高いからです。とりわけ、未使用の手形・小切手(*)は現金同様に厳格に管理すべきです。
例えば、手形帳や小切手帳が誰でも持ち出せるような場所に無造作に置いてあれば、不正に使用されるリスクが高まりますので、金庫にしまうとともに、金庫の鍵を厳重に管理(財務課長が常に携帯する等)しなければなりません。また、金庫にしまいこんだとしても、手形・小切手帳の管理を1人の担当者に任せていたのでは、その担当者が横領してしまうリスクは残されています。そこで、役員としては、こういった不正を防止するための内部統制を整備・運用していく必要があります。詳しくは次で解説します。
- 手形帳に関する内部統制の12のポイント
- 小切手帳に関する内部統制の14のポイント
- 一番望ましい支払手段は?
- 有害的記載事項や融通手形に注意
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