“不適切”な固定資産取得が役員の責任問題に発展も
「固定資産」とは、土地・建物や長期貸付金のように、正常営業循環活動(その会社の本業のプロセス)の外にあるか、または「1年内に換金されない資産」を言います。
何が固定資産かどうかは会社によって異なります。土地を例にすると、不動産会社にとっての土地は「販売」するためのものであり、正常営業循環活動(不動産会社の場合、土地を仕入れて、転売したり、建物を建てたうえで売却し、その売却代金により次の土地を仕入れたりといった循環する活動)の中にあるため固定資産には該当しません(流動資産の在庫になります)。一方、製造業にとっての土地は、工場の敷地などに利用され、正常営業循環活動(製造業にとっては、材料を仕入れて、加工し、製品を販売した代金で、次の材料を仕入れるといった循環する活動)の外にあり、また長期保有されるのが通常であるため、固定資産に該当します。換言すると、製造業にとって固定資産とは、営業循環を外部から支えるために必要な資産と言うこともできます。
そして、固定資産は「有形固定資産」「無形固定資産」「投資その他の資産」の3つに分類されます。「有形固定資産」には本社や工場、店舗等の建物や土地、製造設備、備品、車両など、「無形固定資産」には、ソフトウェアや特許権、商標権、実用新案権、営業権(いわゆる“のれん”)など、「投資その他の資産」には(決算日から1年以上所有することを予定している)有価証券や出資金、長期前払費用(例えば2年分を先払いする賃貸借契約を結んだ場合などにおいて、決算日から1年以上先に発生する費用)、長期貸付金(貸付金のうち、返済期限が決算日から1年以上先に到来するもの)などが該当します。
有価証券や出資金まで固定資産に該当する(*)と言うと意外に思えるかも知れません。有価証券については、決算日から1年以上所有することを予定していれば、1年内に換金されない資産に該当することになります。出資金も通常は1年以上の継続的な出資を前提としたものなので、1年内に換金されない資産に該当することになります。
固定資産の取得は多額の自己資金や借入金等による資金調達(借入れによる資金調達については「借入れにより資金調達したい」を参照してください)を必要とし、会社のキャッシュ・フローに少なからず影響を与えます。また、固定資産は長期間保有するのが通常であるため、ひとたび取得すれば、後述するように、減価償却や、場合によっては減損会計、資産除去債務を通じて長期的に会社の決算に影響を与えます。さらに、維持費・修繕費(これらの費用は固定資産の劣化に伴い年々増加していく傾向があります)、固定資産税等の税金もかかってきます。逆に言うと、経営上“不適切”な固定資産の取得を行えば、会社に多額の損害を与えるとともに、その影響が長期間に及ぶことになり、場合によっては、その取得にgoサインを出した役員は責任を問われかねません。バブル経済期の経営者による高額な美術品の購入等はその最たる例です。
したがって、固定資産の取得にあたって、担当役員は、取得の合理性や価格の適正性を慎重に判断する必要があります。そのためには、会社法上の要請の遵守(*1)、資本コスト(*2)、設備投資の経済性計算(*3)、リースの利用との比較(*4)、税務上のメリットの検討(*5)が不可欠となります。また、取得後もメンテナンスや大規模修繕が不可欠になるだけでなく、「減損会計」や「資産除去債務」といった会計処理(*6)、業績予想の修正や減損・被災等の情報開示(ディスクロージャー。*7)といった様々なタスクが付随して発生します。以下、それぞれについて具体的に見ていきましょう。なお、店舗に関連する固定資産に関しては「店舗を新規出店したい」も参照してください。
*2 後述の「購入原資は自己資本か、それとも借入金か?」を参照してください。
*3 後述の「固定資産投資の効果を計る3つの計算方法」を参照してください。
*4 後述の「購入かリースかは一概に判断できず」を参照してください。
*5 後述の「補助金や減税などの優遇制度の見落としに要注意」を参照してください。
*6 後述の「業績への影響が大きい減損処理」を参照してください。
*7 後述の「固定資産取得で「業績予想の修正」の要否を検討」を参照してください。
取締役会決議が必要な“重要性”の判断基準は?
高額な固定資産の購入(会社法でいう「重要な財産の譲受け」)は、たとえそれが代表取締役であったとしても、取締役の一存だけで決定できません。つまり、代表取締役や担当取締役といった個人の判断だけでは購入できず、必ず「取締役会の決議」が必要になります(会社法362条4項1号 *)。
逆に言うと、取締役会の決議を経る必要があるかどうかは、取得しようとしている資産が「重要な財産」に該当するかどうかに左右されることになります。
何をもって「重要な財産」と判断するかについて、会社法には明確な基準は定められていませんが、参考になる判例はあります。
この判例では、会社が保有する株式の譲渡が「重要な財産」の処分に該当するかが争われましたが、裁判所は「重要性」の判断について、「当該財産の価額、その会社の総資産に占める割合、当該財産の保有目的、処分行為の態様及び会社における従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断すべきものと解するのが相当である」と判示しています(平成6年1月20日 最高裁判決、民集48巻1号1頁)。
この判例は、「重要な財産」の“処分”に関するもので、“譲受け”に関するものではありませんが、会社法では、重要な財産を譲り受ける場合だけではなく、その処分(売却など)を決定する際にも取締役会決議を求めています(会社法362条4項1号)。また、「重要な財産」の処分と譲受けは同一の条文に規定されているため、「重要な財産」の譲受けに該当するかどうかについても、この判例を参考にして、「取得する財産の価額」「取得する財産の総資産に占める割合」「財産の取得目的」「従来の取扱い」等の事情を総合的に考慮して判断することができると考えられます。
なお、「重要な財産の譲受け」は必ずしも“有償”であるとは限りません。低廉の譲受けや無償での譲受けであっても、例えば、借入金や税金の未払額もあわせて引き受けるような負担が付いたものであれば、その負担を考慮した上で「重要性」が判断されます。
実務上は取締役会規則等に定めた「金額基準」で判断
もっとも、会社が資産を譲り受ける都度、その資産が「重要な財産」に該当するか否かを判断して取締役会決議の要否を判断していたのでは、機動的な事業運営に支障をきたす可能性があります。そこで、取締役会規則等の社内規程や決裁権限規程に、資産の種類ごとに「取締役会決議が必要となる固定資産の処分・譲受けの金額基準」等を設けておくのが通常です。
もちろん、社内規程で定めた基準に従っていれば問題ないというわけではありません。そもそも、・・・
続きをご覧になるには会員登録(※有料)が必要です。会員登録はこちら
- 通常の取締役会を開催せずに高額な固定資産を取得する方法
- 固定資産取得の承認時に判断すべき要素は金額だけではない
- 中期事業計画と予算を踏まえた取得を
- 固定資産投資の効果を計る3つの計算方法
- 購入原資は自己資本か、それとも借入金か?
- 購入かリースかは一概に判断できず
- 補助金や減税などの優遇制度の見落としに要注意
- 取得後もフォローアップが重要
- 業績への影響が大きい減損処理
- 固定資産取得で「業績予想の修正」の要否を検討
チェックリスト | チェックリストはこちら(会員限定) |
---|
このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。
また、本ケーススタディを閲覧して感じたことや気付いた点(学んだ点、疑問点、自社の課題など)を、備忘録として登録しておくことができます。登録を行う場合には、下の左側の「所感登録画面へ」ボタンを押し、登録画面に進んでください。過去に登録した内容を修正する場合も、同じ操作を行ってください。