「不十分な監査」で監査役が責任を問われるケースも
会社に不祥事が発覚した場合、まずは取締役の責任が問題になるのが一般的です。これは、株主から直接的に経営を委託されているのは取締役である以上、会社のリスク管理も取締役が担うこととされているからです。
その取締役の職務執行を監査する役割を担っているのが「監査役」です。かつては、監査役の責任が大きな問題になるケースはほとんどありませんでした。しかし、後述するように、近年、監査役自身の職務執行が不十分であったとして、監査役が責任を問われるケースが見受けられるようになっています。
では、監査役が然るべき職務を行わなかったことが原因で不祥事を未然に防ぐことができなかったり、不祥事の発覚が遅れてしまったりした場合、監査役はどのような責任を負うことになるのでしょうか。また、監査役が行うべき職務とはどのようなものでしょうか。以下で解説します。
監査役も損害賠償責任を負う恐れ
まず、監査役が負う責任を明らかにするために、会社法上の監査役の職務と責任について整理しておきましょう。
(1)監査役の職務
会社法上、監査役の職務は「取締役の職務執行を監査すること」とされています(381条1項)。ここでいう監査とは、「行為者とは別の者」が法令や会計基準に照らしてその行為の適否を判断することを指します。
ちなみに、会社関係の「監査」には主に「監査役監査」「内部監査」「会計監査」の3つがありますが、それぞれの違いは、依頼人と監査対象(あるいは、その組み合わせ)の違いにより説明できます。具体的には下表のとおりです。
監査役監査 | 内部監査 | 会計監査 | |
依頼人 | 株主 | 取締役 | 株主 |
監査対象 | 取締役 | 従業員 | 財務諸表 |
上の表のとおり、「監査役監査」と「内部監査」は、監査役監査が「株主の依頼により、取締役を監査すること」であるのに対し、内部監査は「取締役(経営陣)の依頼により、従業員を監査すること」であり、依頼主も監査対象も異なります。会計監査は監査役監査同様、「株主」が依頼人となっていますが、これは、会計監査は専門的知識が必要であるという理由で監査役監査から分化したものだからです。会計監査を正確に定義すれば、「株主の依頼により、(取締役の業務執行の結果を表した)財務諸表を監査すること」ということになります。この点は、監査役及び会計監査人の選定が株主総会決議事項であることにも表れています(一方、内部監査人は社内で決定されます)。
この三者はそれぞれ独立した存在ではありますが、同じ会社を監査している以上、充実した監査を実現するためにはお互いの連携が不可欠です。例えば、定期的に会合の機会を持ち、それぞれが発見したリスクや懸念事項を共有しておくのも効果的です。
上述のとおり、監査役の役割は「取締役の職務執行を監査すること」ですが、具体的には、「業務」と「会計」それぞれについて「適法か」「妥当か」を判断することになります。したがって、監査役は業務と会計どちらにも精通している必要がありますし、また、適法性の判断のため法律知識の素養も求められます。さらに、取締役の行為が妥当であるか(経営判断の原則に則った判断が行われているか)を判断しなければなりませんので、その判断材料の十分性を見極める能力も求められます。また、高度な判断が必要になる場面もあるため、会計監査人や弁護士などの専門家を活用する能力も求められます。
そして、監査役が実際に取締役の職務執行を監査するための手段として、会社法は監査役に各種の権限を付与しています。まず、監査役は取締役会に出席し、必要に応じ意見を陳述することを義務付けています(383条1項)。また、監査役は、「取締役が不正の行為をしたり、する“おそれ”がある場合」「法令や定款に違反する事実もしくは著しく不当な事実がある場合」には、その旨を遅滞なく取締役会に報告する義務を負っています(382条)。さらに会社法は、取締役が法令や定款違反の行為をしたことにより会社に著しい損害が生じるおそれがある場合には、取締役に対して当該行為の差止めを請求することを認めています(385条)。この差止請求権は、会社の所有者である株主がこれを行使する場合には「回復することができない損害」が生じることを要件としているのに対し(360条3項)、監査役が行使する場合には「著しい損害が生ずるおそれ」と要件が緩和されており、より機動的にリスクに対応できるようになっています。
このように、監査役には、会社が損害を被るリスクを発見し、防止する手立てを講じることができるよう、株主等の他のステークホルダーとは異なる「強力な権限」が認められています。逆に言えば、会社法は監査役を単なる“お飾り”とは考えていないということです。したがって、監査役が、自身が実施すべき業務を十分に行わず、その結果会社が損害を被ることを防げなかった場合には、監査役も責任を問われ得ることになります。詳細は次で解説します。
(2)監査役の責任
会社法上、監査役も「役員」の一員であり、取締役と同様に任務懈怠(けたい)責任を負います(423条1項)。監査役が責任を問われるケースは大きく分けて下記の3パターンです。・・・
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任務懈怠(けたい)責任 : 取締役、会計参与、監査役、執行役、会計監査人(役員等)がその業務を誠実に行わなかったり、個人の利益のために会社に損害を与えたりした場合に会社に対して負う責任。会社に損害が生じた場合には、役員等は会社に対して損害を賠償する義務を負う。また、株主も当該損害賠償義務を、株主代表訴訟により、会社に代わって追及することができる。
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