利益の30%に相当するキャッシュを売上の増加によって稼ぎ出す難しさ
税金は、企業のキャッシュフローに直接影響します。もちろん違法に税負担を減少させることは許されませんが、自社の税負担に関心を持ち、合法とされる範囲内で税負担を抑えることは、経営陣の責務の1つと言えるでしょう。
実際、全世界を市場とする多国籍企業は、各国の税制・税率の違いに着目した税務マネジメント(節税策)を検討・実施しており、その結果、多国籍企業に課される法人税の実効税率はかなり低くなっているケースが少なくありません。例えば軽課税国に本社を移すという動きも一部に見受けられますが、これも合法的な節税策ということになります。
日本の法人実効税率は30%程度となっていますが、欧米の多国籍企業の中には、“タックス・ロイヤー”と呼ばれる税務に精通した弁護士を社員として雇い、高度な税務マネジメントを実施することにより、法人実効税率が10%以下となっている例も見受けられます。多国籍企業の利益は莫大なだけに、その節税額も巨額に上ることになります。
法人実効税率 : 法人税、住民税、事業税といった会社の利益に課税される税の総合的な負担率のこと。
一方、日本企業は、税負担の軽減を図る税務マネジメントにあまり積極的でないことが多いようです。これは、国税当局から追徴課税を受けたり、“所得隠し”などと報道されたりすることを恐れるからでしょう。しかし、利益のおよそ30%に相当するキャッシュを売上の増加によって稼ぎ出し、手元に残すためにはどれほどの営業努力が必要になるのかということを考えてみれば、節税の重要性がよく分かるはずです。また、実効税率(約30%)どおりに税金を負担して利益の70%を株主の持分として残す経営者と、税務マネジメントにより利益の80%を株主の持分として残す経営者では、投資家は後者を評価します。投資家が重視するROEの分子は「税引後」利益であり、実効税率を抑えることができれば、その分ROEも向上することになります。
追徴課税 : 申告漏れや脱税などの理由により、会社が本来納めるべき税金の全部または一部を納めていなかったことが税務調査などにより発覚した場合に、追加で課税を受けること
ROE : 株主資本利益率(Return On Equity)=当期純利益/自己資本
確かに、多国籍企業の“低すぎる実効税率”が各国で問題視されてきたのも事実であり、こうした動きを封じるため、各国が協調して多国籍企業による租税回避を防止するための国際ルールを作る「BEPS(税源浸食と利益移転=Base Erosion and Profit Shifting)プロジェクト」が経済協力開発機構(OECD)により進められ、2015年10月5日には同機構から最終報告書が出されています(この報告書を踏まえ、各国が数年かけて税制改正を実施)。日本や米国など実効税率の高い国ほどBEPSプロジェクトへの期待は大きく、実際、BEPSプロジェクトの責任者は日本の財務省から出ていたほどです。
多国籍企業に向けられた批判を考えると、日本企業の納税意識の高さは称賛されるべきものです。とはいえ、株主持分の最大化が経営者の責務であり、その株主持分に転化する利益はあくまで「税引後利益」であることや、特に多国籍企業の税務マネジメントを見慣れている海外の投資家は日本企業の実効税率の高さに不満を示す可能性があることを踏まえれば、日本企業の経営陣は、「税務マネジメント」を重要な経営課題の1つとして位置づける必要があります。
- 節税のつもりが、税務当局から「租税回避」と認定される恐れも
- 租税回避と認定されないためにやるべきこと
- 事前照会のリスク
- 追徴課税を受けてしまったら
- 追徴課税を受けた場合の適時開示は金額次第
- 追徴課税を受けた場合の財務諸表への影響
- 臨時報告書の提出の検討も不可欠
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