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【経営上のリスク】取引先が倒産してしまった

 

一口に「倒産」といっても内容は様々

世界的な金融不安や景気悪化は依然として続いており、会社の経営環境は厳しいことに変わりありません。また、為替の変動による影響も会社経営にボディーブローのような打撃を与えています。厳しい経営環境に何とか適応しようと、コスト削減や資産売却を進める企業の中には、万策尽きて倒産に至るところも少なくありません。

倒産(一般用語であり、法律用語ではありません)とは、債務を弁済することができなくなった状態や、債務者の対外的信用が破綻して、経済活動を続行することが困難になった状態のことです。具体的には、以下の項目に該当した場合を「倒産」または「事実上の倒産」と言います。

(1)2回目の不渡りを出し銀行取引停止処分を受けた
不渡りとは、手形や小切手の振出人の預金残高不足により、支払期日に支払銀行において支払いが拒絶され、手形や小切手の保有者がお金を受け取れない状態のことです。6か月以内に2回以上手形・小切手の不渡りを出した振出人は「銀行取引停止処分」になります。

(2)私的整理を行った
私的整理(内整理、任意整理とも言います)とは、債権者と債務者の“自主的話し合い”で負債や財産を整理する手続です。私的整理は、法的整理と異なり、裁判所の関与・監督はなく、手続が法律で定められている訳でもありません。しかし、私的自治、契約自由の原則により、債権者と債務者が債権債務関係の解決を図る一つの手段として機能しています。

自主的話し合いとは言え、私的整理も倒産処理手続の1つですから、後述する法的整理と同じように債権者平等の原則のもと、債務者と債権者の間の協議により、次のような手続が進められます。

・債権者集会を経て債権の確定
・清算あるいは再建に関する私的整理案の作成
・私的整理契約の締結
・その実行としての配当

(3)裁判所に会社更生法の適用を申請した
会社更生手続とは、経済的破綻に瀕した株式会社が、再建の可能性が残されている場合に、裁判所の手に委ねて、事業を継続しつつ再建を図る更生手続の1つです。ここで経済的破綻に瀕した状態とは、「破産手続開始の原因となる事実が生じるおそれがある場合」や「弁済期にある債務を弁済すると、その事業の継続に著しい支障をきたすおそれがある場合」を言います。前者は支払不能状態になるおそれがある場合を言い、後者はその前段階を言いますので、破産のときよりも早い段階で申立てをすることが可能になっています。

会社更生手続の申立ての際には、同時に保全処分の申立てがなされます。そして保全命令により保全管理人が選任されます。保全管理人は会社更生手続開始決定があるまでの間、取締役に代わり、会社の事業運営および財産の管理処分を行います。

裁判所は申立てを受けて更生条件の調査を行います。そして、条件を満たしていれば、会社更生開始決定を行い、更生管財人()を選任のうえ、更生管財人に一定の期間内に更生計画案を立案することを命じます。更生の申立てから更生手続開始の決定まで通常であれば2~3か月はかかります。

 第三者である弁護士や事業家などが選任されます。

会社更生法の目的は“企業の再建”ですが、ここで言う“企業の再建”とは、「経営者のための企業再建」ではありません。会社更生法は、あくまで、「国民経済のための企業再建」を目的としています。そのため、会社の経営権は更生管財人の手に移行し経営陣の刷新が図られるとともに、資本金を全額減資()したのち第三者割当増資が行われることで株主も一新されることになります。その代わりに一般債権者、担保権者はもちろん従業員、株主、国税等租税債権者など、会社に対するすべての利害関係人がこの手続に参加し、利害調整を図ることとされています。

 従来の株主の全員がその地位を失うことを意味します。

これら多数の関係人の利害を調整するため、裁判所の指揮のもと、関係人集会が開かれます。関係人集会では、更生計画案が審議・決議されます。更生計画案の決議が可決するための要件は次のとおりです(「議決権」は金額に比例します)。

更生計画の可決要件 更生債権の債権者の議決権の総額の2分の1以上の同意
更生担保権の期限猶予を定める更生計画案 更生担保権の議決権の総額の3分の2以上の同意
更生担保権の免除 更生担保権の議決権の4分の3以上の同意

更生債権 : 更生手続開始前に発生した更生会社に対する債権であって、更生担保権または共益債権(更生管財人の報酬のように、すべての利害関係人の共同の利益のために必要となる請求権のこと。更生債権や更生担保権と比べると優先的な取り扱いを受ける)に該当しないもの
更生担保権 : 更生手続が開始した時点で、更生会社の財産について有する担保権

関係人集会において更生計画案が可決され、裁判所がこれを認可すると、以後、更生管財人の手により更生計画が実行されます。そして、更生計画の実行が終了すると裁判所は終結決定を行い、更生手続は終了します。

このように、会社更生法の手続は、次に述べる民事再生法の手続に比べると、複雑かつ厳格なものとなっています。また、会社更生手続は多数の利害関係者を有する株式会社を想定した手続なので、大企業向けの制度といえます。

(4)裁判所に民事再生法の手続開始を申請した
民事再生手続とは、会社更生法と同様、経営破綻に至ったものの再建の可能性がまだ残されている場合に、裁判所の手に委ね、事業を継続しつつ再建をはかる更生手続の1つです。

民事再生法は、和議法に代わる新たな再建型の倒産法制として、平成12年4月に施行されました。主として中小企業の再建を容易にする目的で導入されましたが、中小企業だけでなく大企業にも幅広く利用されています。また、株式会社はもちろんのこと、その他の法人、団体、個人でも利用できる間口の広い手続です。

民事再生手続は、債務者に債務超過や支払不能のおそれがあったり、債務弁済資金を調達しようとすれば事業の継続に著しい支障が生じたりする場合に、債務者や債権者が裁判所に申請書を提出(申立て)することにより始まります。裁判所は申立てがあると、通常、債務弁済禁止の保全処分()を行い、弁護士等を監督委員に選任し、監督委員の意見を聞いて、民事再生手続開始の決定を行います。

 手続開始決定があるまで財産の散逸を防ぐためになされる各種保全措置で、手形等の弁済禁止の仮処分や競売手続の中止命令のほか、すべての財産に対する執行を包括的に禁止する命令も可能です。

民事再生法では、経営破綻に至った債務者を“再生債務者”と言います。再生債務者は民事再生手続開始以後、監督委員の監督のもと、財産関係の報告書を作成し、届出債権の認否を行い、債権者に対する弁済条件である再生計画案を作成し、債権者に対する説明会を開催する等、積極的に行動しなければなりません。再生債務者の手により作成された再生計画案は、債権者集会において審議されます。債権者集会において再生計画案が可決されるためには、出席した再生債権者の過半数、かつ、議決権総額の2分の1以上の議決権を有する債権者の賛成が必要です。この点、上述の会社更生法に比べると、再生計画の可決要件がかなり緩和されていると言えます。この結果、民事再生は経営陣が引き続き経営を続けることが認められるケースが多くなっており、その点が最大の特徴となっています。

民事再生手続の開始決定の要件は、会社更生法よりも大幅に緩和されており、通常は申立てから1~2か月で手続の開始決定がなされます。また、債権者集会の開催は任意であり、書面決議も認められている点が使いやすい制度と評価されています。

(5)裁判所に破産手続開始の申立てを行った
破産手続とは、債務者が支払不能や債務超過に陥り、再建ができなくなったときに、裁判所が選任する破産管財人により、債務者の財産を強制的に換金し、それを債権者に対して配当として平等に分配する清算型の倒産手続です。

平等 : 債権者平等の原則に基づき、債権額に比例して配当されることになる。
清算型 : 「清算型」とは会社の事業活動をストップし、すべての会社財産を現金に換え債権者に配当を行う倒産手続を言う。これに対して、事業活動の存続を前提として、会社財産すべてを現金に換えることはせず、債権者に債権の支払猶予や減免をしてもらい、事業の継続を図る方法を「再建型」と言う。

債務者本人や債権者などの「申立て権者」が、裁判所に破産手続開始の申立てを行い、裁判所が当該債務者に「破産手続開始の原因」があると認める場合には、破産手続開始の決定が行われます。破産手続開始の原因とは、支払不能の事実、すなわち、債務者が支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものについて弁済することができない状態を言います。具体的には、支払不能であることを店頭で掲示したり文書で発送したりする債務者の明示的行為のほか、資金不足による手形の不渡り、閉店、夜逃げ等も該当します。破産手続の申立ては、債務者自身が申し立てる場合がほとんどですが、債務者が倒産状態に至っているにもかかわらず、法的整理や私的整理の手続が何らとられていないときに、債権者から申立てが行われることもあります。

(6)裁判所に特別清算手続開始の申立てを行った
特別清算手続とは、解散後清算中の会社について、清算の遂行に著しい支障をきたすような事情が認められた場合、あるいは、債務超過の疑いがある場合に、裁判所が、申立てまたは職権によって会社に対して命じる手続です。株式会社にのみ適用されます。

清算中の株式会社に清算の遂行に著しい支障をきたすべき事情()もしくは債務超過の疑いがある場合に、迅速かつ公正な清算をするために、債権者、清算人(通常は会社の取締役か依頼を受けた弁護士)、清算中の会社の監査役または株主が、裁判所に特別清算開始の申立てを行います。そして、裁判所は、上記の事情や債務超過の事実があると判断すれば、特別清算の開始命令を出します。

 例えば、会社内部に著しい不正があると見られるとき、清算人が誠意を欠き信頼できないとき、会社債権者が多数でその利害調整が複雑なため通常の清算手続では長い年月を要することが予想されるときなどが考えられます。

なお、清算とは、会社の解散に伴いそれまでの法律的、経済的関係を整理する手続を言います。倒産に至らなくとも、営業不振、目的の終了、後継者不在などの理由から、会社を解散する場合も数多くありますが、いずれにしろ株式会社を消滅させるためには、必ず会社法による法定清算を行う必要があります。

倒産の態様で異なる売掛金回収策

得意先が、じわじわと倒産への道を歩んでいる場合は、ある程度の時間的余裕があることから、債権回収の策をいろいろと講じることが可能になります。どのような策があるのかについては、「取引先が経営危機にあることがわかった」を参照してください。

では、得意先が“突然”倒産してしまった場合、取締役としてはどのような対応をとるべきでしょうか。

得意先が倒産してしまった場合、さらなる損害を防ぐために、早急に契約を解除して、その取引先との今後の関係を絶つことが必要となります。それに備えて、取引基本契約書等にペナルティなしに契約を解除できる条項を入れておくべきです。

また、以前の関係の精算、つまり、その時点で持っている売掛金を回収することも考えなければいけません。ただ、経営危機にある得意先がすんなりとその支払に応じるとは考えにくいと言えます。もし、他の取引先に優先して支払ってもらうことができたとしても、その得意先が法的な倒産手続に入った場合には、後に否認権(「取引先が経営危機にあることがわかった」の「詐害行為取消権よりはるかに強力な否認権」を参照してください)を行使され、その回収が否定されてしまう可能性もあります。そうなれば、結局のところ債権の回収ができなかったという結果になるのみならず、予期せず法的手続に巻き込まれ、むしろ余計な手間がかかってしまうことにもなりかねません。さらに、無理な債権回収を図れば、場合によっては、民事責任や刑事責任も負いかねません(「取引先が経営危機にあることがわかった」の「刑事・民事上の責任が生じかねない回収行為とは?」をご参照ください)。

このように経営危機の状況にある得意先からの債権回収が難しいことは間違いありませんが、もし得意先に対してこちらが何らかの債務を負っているのであれば、売掛金とその債務とを“相殺”することによって、実質的に売掛金の回収を図る一方、債務の支払を免れることができます。これは「相殺の担保的機能」ともいわれ、債権回収の有効な策として位置付けられています。もっとも、その効力が否定される場合もあるので注意が必要です(後述の「こんな相殺は否認される」を参照してください)。

では、どのような場合に相殺による債権回収ができるのでしょうか。次に解説します。

一方的意思表示で相殺するために必要なこと

相殺は「相手方との合意」があれば当然に可能ですので、例えば「相手方の信用状態に不安が生じた場合には、お互いの債権と債務を相殺できる」旨を契約で定めておけば(すなわち、相手方と合意しておけば)、この定めによって債権回収を図ることができます。もっとも、いざ相手方の信用状態に不安が生じてから契約を見直すのでは遅過ぎます。信用状態が悪化する前に、契約書に当該規定を盛り込んでおく必要があります。

また、相殺は、こちらからの「一方的な意思表示」によっても可能です。ただし、民法は、こうした「一方的な意思表示」による相殺を行うための要件として、
(1)当事者双方が相対立する債権をそれぞれ持っていること
(2)その債権が同種のもの(典型的には、金銭債権(売掛債権と貸付債権など)同士であれば相殺可能です)であること
(3)双方の債権が弁済期にあること
(4)双方の債権が性質上相殺を許さないもの(例えば、「楽器を演奏する」というようないわゆる「為す債務」を双方が負っていたとしても、それは相殺できません)ではないこと
の4つの要件を求めています(民法505条1項)。このうち、(2)と(4)の2つの要件は実務上特に問題となりませんので、残りの2つの要件について、以下で詳しく見ていきましょう。

まず、(1)の「当事者双方が相対立する債権をそれぞれ持っていること」とは、・・・

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相殺のための内容証明郵便の例

上述のとおり、相殺は一方的な意思表示で行うことができます(すなわち、相手の承諾は不要です)。また、意思表示は口頭で行うことも可能ですが、後々トラブルになる可能性を考慮すると、相殺の通知書を内容証明郵便で送付するのが安全です。以下に、相殺の意思表示をするために送付する内容証明郵便の例を示しますので、参考にして下さい。・・・

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こんな相殺は否認される

以上のとおり、相殺は有効な債権回収策ですが、得意先がその後に法的倒産手続に入った場合には、その効力が否定される可能性もあります。例えば、破産手続を前提にすると、破産手続開始後に新たに債務を負担して既存の債権と相殺したり、債務者と通謀したりする行為はもとより、破産手続開始前に債務を負担している場合でも、それが支払停止の後であるようなときには、一定の例外()を除き、その支払停止等の事実を知っている者による相殺は否定されています。端的にいうと、・・・

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得意先が倒産した場合に開示すべき事項

得意先が倒産した場合、取締役としては債権の回収がどうなるかに目が行きがちですが、上場会社であれば、証券取引所の適時開示制度に基づき、投資家などのステークホルダーに対して得意先の倒産に関する情報を遅滞なく開示することが求められている点も忘れてはいけません。

得意先が倒産した場合に上場会社に適時開示が求められる事項には、主として次のような項目があります。・・・

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会計上は3つの区分で債権を分類して評価を変える

資金的にゆとりのある債務者への債権額100万円と、夜逃げ寸前の債務者への債権額100万円は、同じ100万円の債権であっても価値が異なります。仮に両方の債権とも譲渡が可能であるとすると、資金的にゆとりのある債務者への債権100万円は100万円に近い価格で譲渡できるのに対して、夜逃げ寸前の債務者への債権100万円は大きくディスカウントされることでしょう。

このように債務者の資金繰りの状況次第で、債権の回収可能性は大きく変わると言えます。そこで、会計上、債権の評価に際して、回収可能性に応じた評価を行う必要があります。債権の評価は、貸倒見積高を合理に見積り、それを貸倒引当金として設定することにより行われます。

この点、会計上の貸倒引当金について規定している「金融商品会計基準」では、・・・

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税務上は“決定的な事象”の有無が判断の分かれ目に

得意先が倒産すれば売掛金や貸付金等の金銭債権が回収不能となる可能性はきわめて高くなるため、法人税における所得の計算上も、回収不能と見込まれる部分は自動的に「貸倒損失」として損金に算入できるものと考えがちです。しかし、貸倒損失の損金算入を企業の裁量だけで認めてしまうと、企業にとって判断が異なることから課税の不公平が生じたり、各企業が貸倒損失を自由に損金に計上することで国の法人税収が減ったりすることになります。そこで、法人税における所得の計算上、貸倒損失の損金算入は非常に限定的にしか認められない点に注意が必要です。すなわち、法人税法では、ある“決定的な事象”が発生しなければ、貸倒損失の損金算入は認めてくれないということです。

法人税上の貸倒損失の損金算入の基準は、・・・

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