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【不祥事】従業員が会社の金を着服していた

 

マスコミ報道等で会社のブランドイメージにも傷が

近年、個人的なもの、組織的なものを問わず、会社の不祥事の事例には枚挙に暇がありませんが、その中でも、過去から現在までコンスタントに発生し続けている“古くて新しい問題”が、従業員による会社の金の着服です。なかにはマスコミ等で報道され、大きな社会問題となってしまったケースもあります。

その目的・動機は、個人の利益のため、粉飾決算に関係するもの、過去の不正の辻褄合わせなど様々ですが、いずれにせよ、これが公になることで会社のブランドイメージに大きな傷がつくことになります。

では、上場会社の役員として、従業員による会社の金の着服が起こってしまった場合にどのように対処すべきでしょうか? 以下で解説します。

組織的な行為か否かで対処方法が変わる

従業員による会社の金の着服が、社内調査、内部告発、外部通報などにより把握された場合、役員としては即座に正確な情報を把握し、会社としての対応方針を決定しなければなりません。

対応方針を決める上で非常に重要となるのが、その着服は「個人的な利益」を図るために行われたものなのか、あるいは「組織的な行為」だったかという点です。それによって、今後の社内調査のやり方や再発防止策が変わってくるからです。

一般的に、従業員による会社資金の着服の動機は、ギャンブルの資金、ローンの返済、株式投資失敗の穴埋め等当該個人の利益目的であることが多いといえます。しかし、一見個人の犯罪のように見えても、実際は上司の命令に基づく特定の部署全体による組織的な行為だったり、全社的な会社決算の粉飾に関係して架空の売掛金の補填に使用されていたりというように組織が関与するケースの場合、調査に際して社内の圧力を排除するよう、調査担当者の人選は慎重に行う必要があります。また、場合によっては着服した金が反社会的勢力への資金提供につながるケースも考え得るため、慎重に実態を調査する必要があります。

現金横領の主な手口

横領の対象の代表格といえば、現金です。現金を横領する手口としては、次のようなものが考えられます。

1 レジ担当者や売掛金を現金で回収した営業担当者が入金の事実を記帳せずに横領する。
2 レジ担当者や売掛金を現金で回収した営業担当者が返品や値引きを仮装して横領する。
3 レジ担当者や現金保管担当者が、記帳後の現金・預金を横領する。

このうち、1についてはレジを通さなかったり売掛金の回収を会計的に認識しなかったりすることにより入金の事実が記録されないことから、発覚が遅れやすいといえます。掛売上の場合、滞留売掛金の調査で判明する可能性もありますが、現金売上の場合は在庫のロスとして処理される可能性があります。1を防ぐにはビデオカメラによる録画や領収書発行手続の管理徹底が有効と言えます。

2については、返品に関しては在庫の動き(返品の入庫処理)と仕訳が必ず連動するような仕組みとする(在庫担当者が起票を行ったり在庫システムと連動させる等)ことや、値引きに関しては上司の承認を必要とするといった内部統制で、ある程度は防ぐことができます。1と同様、領収書発行手続の管理徹底も有効と言えます。

また、3については別な担当者や上司による定期的・臨時的な現金実査(現金在高をカウントし、帳簿と照合すること)で、ある程度は防ぐことが可能です。

なお、横領の対象は現金だけとは限りません。預金、手形・小切手、製商品、備品等多岐に渡ります。もっとも、現金の管理方法を応用することで、横領を未然に防止することが可能となります。

業務上横領と窃盗の違いは?

自分の会社の金といえども、所詮は「他人の金」です。「他人の金」である会社の金を着服(金品などを密かに盗んで自分のものにする行為)すれば刑法の定める犯罪行為、すなわち、一般的には「業務上横領罪(刑法253条)」、場合によっては「窃盗罪(刑法235条)」が成立する可能性があります。

いつ自社でこうした犯罪行為が発生するか分からない中、役員としては、どのような場合にどのような犯罪が成立するのか、一通り知っておきたいところです。

社内で発生する頻度が高いのが「業務上横領」です。ここでいう「業務」とは、人がその「社会生活上の地位」に基づき“反復継続”して行う事務のことをいいますので、例えば会社の経理部門の仕事のように雇用契約に基づいて一定の金銭を保管することは「業務」に該当します。したがって、経理部員が会社の金銭を着服すれば、業務上横領が成立する可能性があります。また、会社の取引先を回って売掛金を集金する業務に従事していた従業員が、集金した金銭を会社に提出せずに着服した場合には、その従業員は集金した金銭を業務上「占有(事実上の支配)」している状況にあったと認められ、やはり業務上横領罪が成立する可能性があります。

なお、業務上横領の対象は必ずしも金銭とは限りません。例えば、会社の備品を自宅に持ち帰っても、業務上横領罪は成立します。

「窃盗」は業務上横領よりも発生頻度は低いとはいえ、やはり社内で起こり得る犯罪です。「横領」と「窃盗」の違いですが、上述のとおり横領が「自分」が占有していたものを着服する行為であるのに対し、窃盗とは「他人」が占有していたものを着服する行為のことをいいます。業務上横領罪と窃盗罪が重複して成立することはありません。あくまで、着服した金銭を占有していたのが「会社」か「従業員自身」かによって、窃盗罪か業務上横領罪のいずれかが成立することになります。すなわち、会社が占有していたものを着服したのであれば窃盗罪の成否が問題となり、一方、従業員自身が占有していたものを着服したのであれば業務上横領罪の成否が問題となるわけです。過去の裁判例では、配達中の「現金在中」の普通郵便物は郵便集配人が占有しているものとされ、これを着服した郵便集配人に「業務上横領罪」が成立するとされた一方、工場内の物件は工場の守衛が占有しているものではない(=会社が占有しているものである)とされ、これを着服した守衛には「窃盗罪」が成立するとされています。

「社内調査」では済まないケースも

では、従業員による着服の疑惑が生じた場合、会社はどのように対応すべきでしょうか。まず、着服の証拠となる書類等が隠されたり、捨てられたり、改ざんされたりすることを防止するため、関連する書類等を早期に確保する必要があります。また、着服が疑われる従業員が使用していたメールのデータを、削除される前に保全することも重要です。その際には、コンピュータ・フォレンジック(コンピュータ本体に記録されたデータを収集・分析する技術)の専門家を活用することが有益です。

こうした「証拠保全」を行ったうえで、次に事実関係を調査し、従業員や関係者に対してどのような責任追及や処分を行うべきかを検討することになります。

事実関係の調査については、会社の規模や着服の疑惑の程度、着服金額の多寡に応じ、法務部門や内部監査部門等により構成された調査チーム(社内調査委員会)が中心になって進めていきます。

着服の内容や影響度が小さければ、・・・

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「告訴しない」という選択をした場合の留意点は?

調査によって事実関係を検証したら、会社は、その従業員に対して損害賠償責任(民法709条)を追及するか否かを検討することになります。

具体的には、・・・

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発覚後の会社の対応が不十分なら、善管注意義務違反も

調査の結果、「管理体制の不備」にも着服を許した原因の一端があるということになれば、管理職や役員も降格や減俸等の責任を負う可能性が生じます。

まず、着服した従業員の上司については、・・・

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どの段階で適時開示すべき?

上場会社において避けて通れないのは、適時開示の必要性を検討することです。調査の初期段階で「重要性の高い事案」であることが判明すれば、証券取引所と相談の上、着服に関しての適時開示を行う必要が生じます。ここでいう「重要性」については、金額基準等が定められているわけではありませんので、まずは証券取引所と相談することになります。もちろん、個人による不正で金額も少額というようなケースまですべて証券取引所に相談しなければならないわけではありません。一方、・・・

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有価証券報告書や内部統制報告書を訂正すべきか

会社に生じた損害の内容・金額は個別のケースによって様々ですが、着服された金銭が会社の財産から奪われていたということだけでなく、適正な会計処理が妨げられていた点も考慮する必要があります。前述の現金横領の主な手口の「1」のケースでは、売上の入金の事実を記帳せずに横領していることから、本来、自社の売上代金を現金で回収した処理をすべきところを、この処理が漏れていることになり、売上の未計上、あるいは売掛金の回収処理漏れとなります。また、「2」のケースでは、・・・

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個人の不正を防止する方法

取締役・監査役としては、従業員が会社の金銭を着服しないようにするためにはどのような体制を作るべきかを常に意識し、体制の整備・運用に努めるとともに、万が一、会社の金銭が着服されてしまった場合には、どのような対応をとるべきかをあらかじめ理解し、そのような事態に備えておくべきといえます。

そのためにはまず、・・・

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組織的な不正を防止する方法

組織的な会社資金の着服の有効な防止策が「モニタリング」です。モニタリングとは、内部監査室、監査役などによって、定期的または臨時的に行われる業務処理統制(業務プロセス(取引の開始、承認、記録、処理、報告など)において起こり得る不正や誤謬を防ぐために行われるチェック)を言います。つまり、・・・

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不正を許さない企業風土の醸成を

直接的な防止機能ではありませんが、究極的には「不正を許さない企業風土」の醸成が非常に重要となります。
・・・

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