関連当事者注記の漏れが重大なコンプライアンス違反を招く可能性も
取締役や主要株主、親会社など会社と関係の深い個人や法人(これらの者をまとめて「関連当事者」といいます。詳細な範囲は後述)と会社との間で行われる取引は、必ずしも対等な関係のもとで行われるとは限りません。関連当事者は会社への影響力が強いだけに、会社の利益を損なう取引や、場合によっては会社に損失をもたらす取引が行われることもあり得ます。例えば、社有車を相場よりもはるかに安い価格で代表取締役に売却するようなケースや、主要株主の有する土地を相場より割高の賃料で会社が賃借するようなケースです。この場合、会社の取引相手である関連当事者が不当に利益を得ることになる一方、会社は財政状態や経営成績に悪影響を受けることになります。このような会社と関連当事者の直接の取引の他にも、例えば、親会社のように、関連当事者の存在自体が、会社の財政状態や経営成績に何らかの影響を及ぼすこともあります。
そこで金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示では、「会社と関連当事者との取引」や「関連当事者の存在」が会社の財政状態や経営成績に与えている影響を株主や投資家などのステークホルダーが把握できるように、財務諸表に「関連当事者取引の注記」および「関連当事者の存在の注記」(以下、まとめて「関連当事者注記」)を記載することが求められています。また、同様に会社法に基づく計算書類でも、関連当事者取引の注記の記載が求められています。
法令が関連当事者注記を求めることにより、株主や投資家などへの情報開示が促されるだけでなく、開示されることを避けるため関連当事者取引自体を抑制しようというインセンティブが働き、会社経営を適正化する効果も期待されます。逆に言うと、必要な関連当事者注記が漏れているということは、単なる開示ルール違反にとどまらず、“不適切な取引”が正されることなく温存され続けてしまうリスクがあることを意味しており、その結果、重大なコンプライアンス違反を招く恐れがあります。それだけに、開示が必要となる関連当事者取引や関連当事者の存在を漏れなく注記できるように社内の体制を整備・運用することは、役員にとって真剣に取り組まなければならないミッションと言えます。
- 関連当事者取引注記が必要になる取引とは?
- 親会社による債務保証も関連当事者取引として開示対象に
- 関連当事者注記、有報と計算書類でどう違う?
- 「関連当事者取引=利益相反取引」とは限らない
- 関連当事者の“存在”に関する開示とは?
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