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【ディスクロージャー】連結決算を早期化したい

 

決算の早期化はなぜ必要?

上場会社には、投資家に投資判断の材料を提供するため、財務情報について頻繁な情報開示(ディスクロージャー)義務が課されています。具体的には、金融商品取引法、会社法、証券取引所規則の3つの法令・規則により、それぞれ下表のような開示が求められています。

法令・規則 四半期(年度末は除く)ごと 年度ごと
書類 期限 書類 期限
金融商品取引法 四半期報告書 四半期決算期末
から45日以内
有価証券報告書 決算期末から
3か月以内
会社法 不要 計算書類 決算期末から
3か月以内
証券取引所規則 四半期決算短信 四半期決算期末
から45日以内
(四半期報告書
より前に開示
する必要)
決算短信 決算期末から
45日以内
が望ましい

金融商品取引法に基づく開示書類には上の表のような提出期限が設けられており、期限を遵守できない場合は、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金(またはこれの併科)という罰則を課されることになります。上場会社が有価証券報告書または四半期報告書の提出を遅延してしまうと、上場廃止に至る可能性もあります(東証の有価証券上場規程601条1項10号)。

なお、決算短信の場合、「45日以内が望ましい」とはされているものの「期限」とまではされておらず、あくまで「迅速な開示」が求められているに過ぎません。

また、開示が遅れた場合、特に開示書類の中でもっとも開示時期が早く、投資家やメディアの注目度も高い決算短信や四半期決算短信の開示が予定日より遅れた場合には、投資家に「何か問題が起きたのでは?」という疑念を抱かせることになりかねません。

こうした事態を避けるために必要になるのが、決算の早期化です。一時のような“短信の早期提出争い”ブームは既に終焉しているとはいえ、決算短信の開示時期が同業他社に比べて遅れがちな会社は、投資家から「決算早期化」の強いプレッシャーを受けることになります。仮に決算早期化を実現できたとしても、来年になると、投資家や経営陣は、それ以上に早い時期での開示を求めることになります。一方で、経理部門に目標管理制度を導入した場合、決算早期化がテーマになりがちです。そのような事情が決算早期化に拍車をかけることになります。

開示の遅れは、決算数値に対する会計監査人との意見の相違などが原因になることもありますが、こうした要因による開示スケジュールの遅れを吸収する日数を確保するためにも、決算早期化が必要になります。また、経営環境が目まぐるしく変化する昨今、経営陣の迅速な意思決定に欠かせないスピーディーな決算数値の確定は、経営管理の観点からも極めて重要と言えます。

IFRS導入で子会社決算の早期化が促進

上場会社の多くは連結決算を行い、開示しています。したがって、「決算早期化」という場合、通常は、親会社単体の決算早期化に加えて、子会社や関連会社も含めた連結グループにおける「連結決算の早期化」も意味していることになります。

日本の会計基準では、親会社と子会社の決算日が3か月を超えない場合には、子会社の財務諸表をそのまま(仮決算せずに)連結することができます()。

 ただし、連結決算日(=親会社の決算日。例えば3月末)と子会社の決算日(例えば12月末)の間に生じた重要な連結グループ内取引については子会社側で追加計上する等の調整が必要となります。

一方、国際会計基準(以下、「IFRS」という)では、実務上不可能な場合を除き、親会社と子会社の決算日は同日とする必要があります。ここでいう「実務上不可能」とは、「あらゆる合理的な努力をしても実現が不可能」という意味です。 そこで、IFRSに対応するため、親会社と子会社の決算日を統一する会社が増えてきています。よく見受けられるのは子会社の決算日を親会社に合わせるケースですが、逆に、親会社が子会社に決算日を合わせる事例もあります。例えばJT(日本たばこ産業株式会社)は、収益の半分を占める海外グループ会社の大部分が12月期決算であることから、親会社であるJTが3月決算から12月決算に移行しました。

実は、このような親会社と子会社の決算日を統一する流れは、子会社に決算の早期化を迫ることになります。その理由を説明しましょう。

日本の会計基準で認められている“3か月ルール”の下では、子会社の決算日から連結決算日まで時間がある分、子会社は余裕を持って決算作業を行うことができ、連結決算のスケジュールも早期化しやすいというメリットがあります()。

 ただし、これは子会社の決算日が12月末、親会社の決算日(=連結決算日)が3月末というように、子会社の決算日が先に来る場合の話であり、逆に、あまり実例はありませんが、親会社の決算日が子会社の決算日より早い場合には(例えば親会社の決算日が12月末、子会社の決算日が3月末)、子会社は12月末に仮決算を行うことが考えられます。

一方、IFRSでは決算日を統一しなければならないため、子会社は、親会社の決算スケジュールに合わせて決算を締める必要があります。したがって、もし子会社の決算作業に遅れが出れば、連結決算全体の作業も大幅に遅れてしまう可能性があります。

なお、子会社の決算日を親会社と同一日にできない場合(例えば、12月決算が強制される中国の子会社と、3月決算の日本の親会社)には、子会社は「仮決算」を行う必要があります。仮決算とは、本来の決算日とは異なる時期に決算を締めることであり、ここでは、子会社は親会社と同一の決算日(3月末)に「仮決算」を行って、実質的に親会社と決算日を合わせることになります。

連結決算早期化の進め方

連結決算の早期化は、一般的に下記のような方法により進めていくことになります。

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「現状の調査・分析」では、各子会社(場合によっては重要度の高い関連会社も含みます。以下同じ)の決算業務の現状について調査を行います。調査のタイミングとしては、決算の邪魔にならないよう経理の繁忙期を避けた時期となります。そして、その結果を分析することで、各子会社の決算早期化を妨げている要因を具体的に特定していきます(阻害要因の特定)。そのうえで、阻害要因ごとに解決策を検討・実施して、決算早期化を図ります。

以下、それぞれの内容を具体的に見ていきましょう。

決算早期化の鍵を握る「レポーティング・パッケージ」

第一段階の「各子会社の決算業務の現状についての調査・分析」でまず押えておく必要があるのが、連結決算の月次・四半期・年次における試算表確定日(主要な勘定科目別の確定日)、社内的な連結決算確定日、監査後の連結決算確定日(監査法人の承認を受けた連結決算の確定日)です。これらの日を把握することにより、現状、連結決算が暦日ベース(決算作業は休日返上で行われることも多く、休日も含めて何日の作業日数なのかを把握します)で何日かけて締められており(社内的な決算確定日-期末日)、また、監査には暦日ベースで何日かかっているのか(監査後決算確定日-社内的な決算確定日)を分析することができます。早期化の観点から理想的な日数は、・・・

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資料の入手時間を短縮する方法

阻害要因の1つに、子会社の経理担当者が自社の決算を締めるための資料(長期未回収債権の一覧表、長期滞留在庫の一覧表など)やレポーティング・パッケージを作成するための資料(金融商品の時価に関する情報、退職給付や年金資産に関する情報など)を、社内の各部署(例えば長期未回収債権の一覧表であれば営業部門、長期滞留在庫の一覧表であれば事業所や工場など)から入手するのに時間がかかってしまい、親会社からの指定期限に間に合うように子会社の決算を締められないというものがあります。その原因は、経理担当者のスキル不足・事前準備不足・要員不足、IT化が進んでいないこと、社内のデータ管理が不十分、他部門との連携不足など様々です。

こうした阻害要因を取り除くためには、まず資料入手に至るまでの業務フローを確認して、業務フローの中のどこがボトルネックとなっているのかを把握したうえで、そのボトルネックを解決していくことになります。

例えば長期未回収債権の一覧表や長期滞留在庫の一覧表といった資料は、・・・

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海外子会社の「休日」に要注意

企業活動のグローバル化に伴い、海外子会社を持つ上場企業は増加の一途をたどっています。海外子会社も国内子会社と同様に原則として連結対象になりますが、海外子会社が連結決算の遅れの原因となっていることが少なくありません。

その理由としては、まず・・・

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親会社の不明確な指示がレポーティング・パッケージ作成遅延の原因に

また、子会社でレポーティング・パッケージの作成に時間がかかりすぎ、親会社からの指定期限通りにこれを提出できないというケースがあります。

その原因としてまず考えられるのが、・・・

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入力項目の決定は“費用対効果”の発想で

また、レポーティング・パッケージの様式の分量(記載が必要となる項目)が多いために入力作業に時間がかかっている場合もあります。

対処方法としては、まず、・・・

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子会社の担当者のモチベーションアップが入力ミス防止に

これまで述べてきたような対策を実施してもなおレポーティング・パッケージの入力に時間がかかってしまう場合は、子会社におけるレポーティング・パッケージの入力担当者を増やす、システムでの対応を図る等の対応を検討することになります。

会計システムとレポーティング・パッケージのデータ連携ができていないことから、レポーティング・パッケージに入力する必要のある各項目の数字を“手入力”している場合には、会計システムとレポーティング・パッケージをつなぐ新たなシステムの構築・改修(会計システムのデータが、手入力を経ることなくレポーティング・パッケージに向け集計・出力されるようにする)が有効です。

また、よくある例として、・・・

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経理以外の部門が子会社の決算作業遅延の一因に

子会社の決算早期化というと、親会社の中では“経理マター”という認識が一般的だと思いますが、実は経理以外の部署が子会社の決算作業の遅れの一因を作っている場合もあります。

具体的には、・・・

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監査に時間がかかる場合どうするか?

ここまで、子会社の決算作業が遅れる原因とその対策について解説してきましたが、子会社の決算作業自体は予定通りに進んだものの、会計監査が終わる時期が遅れ、親会社が指定した期限通りにレポーティング・パッケージを提出できないというケースがあります。

その原因としては、まず、・・・

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「統一」と「集約」が決算を早期化

さらに踏み込んだ対応としては、親会社と子会社とで違いのある勘定科目の統一(例えば、子会社Aでは「機械及び車輛運搬具」の勘定科目を用いており、子会社Bでは「機械装置」と「車両運搬具」といった別々の勘定科目を用いている場合、親会社の「機械装置及び運搬具」に統一する)、連結グループ各社で異なる会計システム・固定資産管理システム等を同一のものに統一することによる連結グループ各社の業務の標準化、連結グループ各社の経理業務を受託する子会社を設立して情報の集約を図る、ホールディングカンパニーに経理機能を集中させる、といった対応が考えられます。

また、子会社の決算早期化を推進する段階では、・・・

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「決算早期化事例集」の作成を

以上、子会社の決算早期化およびそれによる連結決算の迅速化について述べてきましたが、これらはすぐに達成できるものではありません。

そこで、各子会社には、決算早期化達成に向けてのマイルストーン(第●期までにシステムの統一化を図り、その翌期には●日での公表を目指し、さらにその翌期には●日短縮するといった具合に、節目ごとに設定する具体的な目標)を設定させたうえで、各目標時期までに、各子会社において親会社への報告を遅延させている要因を取り除くよう努力することを求めることになります。そのうえで、・・・

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