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【ディスクロージャー】連結子会社の範囲を見直したい

 

業績の悪い子会社を連結決算から除外できる?

連結財務諸表は親会社の財務諸表と子会社の財務諸表を“連結”することで作成されます。子会社は業績の良し悪しにかかわらず連結するのが原則ですが、業績が芳しくない子会社を連結すると連結グループとしての業績は悪化してしまいます。連結グループの業績アップに腐心する経営者としては、「グループの足を引っ張るような子会社の決算は連結決算に反映させたくない」といった考えがよぎることもあるでしょう。

子会社を連結決算の範囲から除くことを「連結外し」といいます。「連結外し」により、連結の範囲を恣意的に操作して粉飾決算を行うと、連結グループの財政状態や損益状況が歪められ、誤った財務報告を投資家に対して行うことになってしまいます。それを防ぐために、「連結外し」は原則として禁止されています(例外については「連結の範囲に含めてはいけない「例外」と含めなくてもいい「例外」」を参照してください)。それにもかかわらず、過去には米国におけるエンロンや、我が国におけるライブドア、日興コーディアルグループ等において、SPCを用いて、自社グループの連結決算が有利になるような恣意的な「連結外し」による粉飾事件が発覚しました。そのため、「連結外し」に対する会計監査の目は非常に厳しいものとなっています。役員としては、「連結外し」により、会計監査で不適正意見の表明または意見差控になり、ひいては上場廃止に至るリスクがあることを胸に刻んでおきましょう。

SPC : Special Purpose Companyの略。特別目的会社。資金調達を行い、債権や固定資産の流動化や証券化を実現するなど特別な目的のために設立された会社を指す。

「子会社」と「関連会社」の違いはどこにある?

連結決算を理解するためには、まず子会社と関連会社の違いについて理解しておく必要があります。子会社とは、「財務および営業または事業の方針を決定する機関(株主総会、取締役会等)を、他の会社によって支配されている会社」を言います。一方、関連会社とは、「自社との関係で、人事、技術、取引、資本等によって、支配とはいわないまでも、意思決定に重大な影響力をもつことができる会社」を言います。ちなみに、関係会社という概念もあるので注意が必要です。関係会社とは、簡単に言ってしまうと、企業グループを構成する会社のうち自社以外の会社のことです。親会社(自社が他の会社の子会社の場合、当該他の会社)、子会社、関連会社、その他の関係会社(自社が他の会社の関連会社の場合、当該他の会社)が該当します。

冒頭で述べたように、連結財務諸表は親会社の財務諸表と子会社の財務諸表を“連結”して作成します。一方、関連会社は「子会社」ではありませんので、当該関連会社の財務諸表そのものがその関連会社に投資している会社(以下、投資会社)に連結されることはありません。しかし、関連会社の最終利益(損失)に投資会社の持分割合を乗じた分は、当該投資会社を親会社としたグループに帰属すべき利益(損失)と考えることができますので、これを連結決算で取り込むことになります。このように関連会社の最終利益(損失)を投資会社グループの連結決算に取り込む手法を「持分法」といいます。持分法は、最終利益(損失)のみを取り込むため、「一行連結」と呼ばれたりもします。

なお、持分法は関連会社に適用されることが一般的ですが、子会社であっても、金額的にも質的にも重要性がないため例外的に連結しないことが認められる子会社(非連結子会社)にも持分法が適用されます(非連結子会社および持分法の例外については後述します)。

したがって、親会社は連結財務諸表を作成する前提として、連結の範囲と持分法の適用範囲、すなわち自社グループの会社のうち、どの会社が「連結子会社」で、どの会社が「関連会社」で、どの会社が「非連結子会社」なのかを明確にしておく必要があります。そのため、毎期、連結の範囲と持分法の適用範囲を検討・確認することは非常に重要な作業と言えます。特に、新たに子会社や関連会社が増えた、もしくは子会社や関連会社の増資や売却等持分の変動があったり、役員の変更があったりして、親会社から見て子会社や関連会社の支配のあり方や影響力(支配力基準や影響力基準については後述します)に変動があった場合、連結決算において連結の範囲または持分法の適用範囲に含めるタイミングや除外するタイミングについて、十分に検討を行うことが必要になります。

SPCや組合を使った“連結外し”は事実上不可能

冒頭で述べたとおり、親会社は、原則としてすべての子会社を連結の範囲に含めなければなりません(連結財務諸表に関する会計基準第13項)。会社の形式をとるSPCのほか、民法上の組合や投資事業有限責任組合(LPS)等の組合についても、一定の要件を満たした場合には子会社と同様に連結決算に組み入れる必要があります。ここで言う「一定の要件」とは、財務および営業または事業の方針を決定する機関(株主総会、取締役会等)を支配していることです。この要件にしたがって連結の範囲に含めるかどうかを判断することを「支配力基準」と言います。組合の場合、株式会社における株主の議決権行使と異なり、各組合員が定期的に当該方針決定に関わっているかどうかを判別できないことが多いため、当該方針を決定できないことが明らかであると認められる場合(例えば、他の会社が組合を支配している場合や業務執行者が単に組合員によって決定された事業の方針を行っているに過ぎない場合)を除き、組合も連結の範囲に含めなければなりません。このように、支配力基準は厳格に適用されるので、SPCや組合を使った“連結外し”は基本的にはできないと考えてください。

また、関連会社かどうかの判定にあたっては、他の会社等(会社に準ずる事業体を含む)の財務・営業の方針決定に対して重要な影響力を与えることができるかどうかということが重要になります(影響力基準)。

子会社と関連会社の判定基準の違いをまとめたのが、次の表です。

子会社と関連会社の判定基準の違い
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そして、それぞれの基準による具体的な判定方法は下記のとおりです(ここでは判定対象となる会社を「その会社」とします)。

<支配力基準>
(1)その会社の議決権の過半数を自己の計算において所有している場合
(2)その会社の議決権の40%以上、50%以下を自己の計算において所有し、かつ下記のいずれかに該当する場合
ア 「緊密な関係にある者が所有する議決権」とあわせて過半数を所有
イ 自社が影響を与えることができる人で、その階差の取締役会の構成員の過半数を占めている
ウ 自社とその会社との間で重要な財務および営業または事業の方針を決定する契約が交わされている
エ 自社や自社と緊密な関係にある者がその会社に融資(債務保証を含む)を行っている場合、その融資がその会社の資金調達額の総額の過半に達している
オ 上記のアからエ以外で、その会社の意思決定機関の支配が推測される事実があること
(3)「自社が有する議決権」と「緊密な関係にある者が有する議決権」を合わせると、その会社の議決権の過半数を所有し、かつ、上記のイ~オのいずれかに該当する場合

自己の計算 : 自社が資金を出したということ。名義は問わない。よって、名義は自社以外の他社(他人)であるものの、資金を出したのが自社であれば、それも含める。

緊密な関係にある者 : 自社と出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係があるため、議決権の行使の際に自社と同じ内容の議決権を行使すると認められる会社や人を指す。

<影響力基準>
(1)その会社の議決権の20%以上を自己の計算において所有している場合(
(2)その会社の議決権の15%以上、20%未満を自己の計算において所有し、かつ、下記のいずれかに該当する場合(
ア 自社が影響を与えることができる人が、代表取締役、取締役等に就任
イ その会社に重要な融資を実施
ウ その会社に重要な技術を提供
エ 重要な販売、仕入その他の営業上または事実上の取引があること
オ その他重要な影響を与えうることが推測される事実があること
(3)「自社が有する議決権」と「自己と緊密な関係にある者が有する議決権」と「自己の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者が有する議決権」を合わせると、その会社の議決権の20%以上を所有し、かつ、上記ア~オに該当する場合(

 子会社を除きます。

連結すべきかどうかは「株式の保有比率」だけで決まると誤解している方が多いのですが、上記の判定方法を見れば分かるように、実際には「株式の保有比率」ではなく「議決権の比率」です。自己株式には議決権はないので、その会社が自己株式を保有していれば、自己株式を除外して議決権比率を判定します。

また、連結すべきかどうかは「議決権の比率」だけで決まるものではなく、「議決権の比率」にその他の要因も加味して決まることになります。すなわち、子会社の場合、議決権の比率に加えて、他の会社等(社団法人や投資事業有限責任組合など会社に準ずる事業体を含む。以下同じ)の意思決定機関(取締役会、社員会など)を支配しているかという観点からも、子会社かどうかの判定が行われます。例えば、他の会社の議決権所有割合が40%であったとしても、取締役会の過半数が自社から出向している従業員で占められている場合、他の会社は子会社と判定されます。

関連会社も同様です。例えば、他の会社の議決権を15%所有しており、他の会社にとって、販売取引等自社との取引割合が相当程度ある場合は、関連会社と判定されます。

なお、更生会社、破産会社その他これらに準ずる企業であって、かつ、有効な支配従属関係が存在しないと認められる企業は、そもそも子会社には該当しないものとして取り扱います(連結会計基準7項)。なぜなら、更生会社や破産会社の場合、管財人が会社の業務および財産を管理することになるので、たとえ議決権基準で100分の50を超えていても、有効な支配従属関係が存在しない()からです。なお、「その他これらに準ずる企業」とは、休眠会社等を指します。

 あえて言えば、管財人の支配従属下にあります。

一方、例えば清算中の株式会社のように、継続企業とは認められない企業であっても、特別清算ではなく親会社の役員が清算人を兼ねているようなケースでは、意思決定機関を支配していると言え、子会社に該当することになります。よって、原則として連結の範囲に含められることになります()。

 下記の「連結の範囲に含めてはいけない「例外」と含めなくてもいい「例外」」の例外条項に該当して非連結子会社になる可能性はあります。
連結の範囲に含めてはいけない「例外」と含めなくてもいい「例外」

連結決算上、あくまですべての子会社を連結することが原則です。ただし、以下の場合には、例外的に子会社を連結の範囲に含めないものとされています。・・・

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持分法の範囲に含めてはいけない「例外」と含めなくてもいい「例外」

関連会社に該当することになれば、持分法が適用されるのが原則です。また、「連結の範囲」から除かれた非連結子会社にも持分法が適用されるのが原則です。ただし、次の1または2に該当する場合には、関連会社や非連結子会社であったとしても、・・・

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SPCへの不動産流動化でも子会社判定が“胆”

ここで、親会社が不動産を売却したケースを考えてみましょう。売却価額が簿価を上回れば、親会社の単体決算では売却益が計上されます。さて、単体決算と同様、連結決算でも売却益を計上しようとすると、売却先が連結子会社に該当しないことが必須となります。なぜなら、もし売却先が連結子会社に該当してしまえば、親会社が連結子会社へ不動産を売却したことになり、連結財務諸表ではグループ内取引に該当してしまい、この取引における利益は、連結決算上、連結グループ全体としては実現していない利益(未実現利益)として控除しなければならないからです。

 
図1
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上のケースは親会社の単体決算において売却益の計上が認められるケースですが、親会社の単体決算で売却益計上が認められないケースもあります。それは、不動産の流動化を目的として・・・

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グループ会社株式の真の所有者は?

もう一点、子会社の判定にあたって留意しなければならないのが「名義株」です。「名義株」とは、株主名簿上の名義と実質的な株式所有者の名義が一致していない株式のことをいいます。

「名義株」で問題となったものとして、S社の有価証券報告書の事例があります。これは・・・

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連結子会社の数や非連結子会社の数を有価証券報告書で開示

連結子会社の数が増減した場合には、有価証券報告書の第5【経理の状況】において、連結子会社の数、連結子会社の増減の内容等の注記が・・・

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