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【配当】会社の成長ステージに応じて株主還元策を見直したい

 

成長企業と成熟企業では異なる株主還元策

上場会社である以上、投資家からの「株価上昇期待」にさらされるのは“宿命”と言えます。特に成長企業ではそのプレッシャーが大きく、成長企業の株式を購入する投資家の多くは、配当などの「株主還元」よりも、株価の上昇を経営陣に求めています(なお、主な株主還元には、配当のほか自社株の取得もありますが、自社株の取得については後述します)。会社が成長期にある場合には、配当よりも事業への投資に資金を使って利益を増やした方が株価の上昇につながり、結果的に投資家はより多くのリターンを得ることができるからです。

一方で、会社が一定規模に成長し、業績拡大ペースが鈍化すると、株式市場がバブル経済期のような右肩上がりの状況にでもない限り、株価上昇だけで投資家の期待に報いることは難しくなります。こうした成熟企業が株主をつなぎとめ、株価を維持していくためには、配当を手厚くしていくことが必要になります。とはいえ、会社法上、配当は「剰余金(会社の純資産(資産-負債)-資本金および資本準備金(債権者保護の観点から会社内に保全されるもの)」の範囲でしか行うことができませんし、たとえ剰余金の範囲内であったとしても、会社の財務基盤を揺るがし、新規事業やM&Aなどへの投資資金を確保できなくなるような配当は、かえって株主からの批判を招くことにもなりかねません。

では、会社の成長ステージにマッチし、かつ会社の財務状況からも無理のない配当政策とは具体的にどのようなものでしょうか。次で解説します。

ROEと配当性向のバランスを図るDOE

配当の水準を示すもっとも一般的な指標に「配当性向」があります。配当性向とは、「当期純利益」に占める配当額の割合であり、次の算式により算出されます。

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配当性向=配当総額/当期純利益
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この算式からも明らかなように、配当性向は当期純利益に左右されるため、例えば当期純利益が前期の半分になった場合、配当額を前期の半分にしても、配当性向は変わりません。しかし株主としては、いくら配当性向が維持されているとは言っても、配当額が前期の半分になれば不満を抱くはずです。

また、経営陣が配当性向の維持にとらわれすぎれば、せっかくの収益拡大チャンスにも投資を行わず、その分を配当に回すといったことが正当化されてしまうことになります。株主としても、将来の収益拡大の芽を摘んでまで配当の支払いを受けることは望まないでしょう。

このように、配当性向のみに着目した配当政策には問題が少なくありません。

これに対し、会社の収益拡大と株主還元の両方を考慮に入れた指標が「DOE(Dividend On Equity ratio=株主資本(純資産)配当率」です。DOEは、株主資本(株主からの出資金に、これまでの事業活動によって稼ぎ出した利益を加えたもの。貸借対照表の「資本の部」の合計)に対して会社がどの程度の配当を行っているかを示す指標であり、下記の算式によって求められます。

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DOE(株主資本配当率)=配当総額/期末時点の資本の部の合計
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上記算式を「当期純利益」を使って分解すると、下記のとおり、会社がこの株主資本を使ってどれだけ利益を上げているかを示す「ROE(Return On Equity(株主資本利益率)=当期純利益/株主資本」に配当性向を乗じることによってもDOEが算出できることが分かります。

dividend1666_1

上述のとおり、配当性向の維持に固執すると、必要な投資を行わなくなるという問題が生じますが、このDOEを意識することにより、利益率の指標であるROEと株主還元の指標である配当性向のバランスを図ることができます。例えばステージが成長期にある会社では、利益率すなわちROEが高いことから、配当性向を低くしても、高いDOEを確保することができます。そこで、配当性向よりもROEの向上に資金を振り向けるべきと言えます。一方、ステージが成熟期に入った会社では、成長が鈍化しROEが低い水準にあるケースが多く、既存事業のテコ入れや新事業への進出に乗り出さない限り、ROEのアップは期待できません。そのようなステージの会社では、配当性向を高めることでDOEをアップさせ、株主の期待に応えることが可能になります。

このようにDOEは、成長期にある会社が配当性向よりもROEの向上のための投資に資金を使い、逆に、成熟期に入った会社は配当性向を高めるという企業行動を株主に説明する際の論理的な裏付けとして使うことができます。

日本企業の配当性向が未だ低水準とされる根拠

では、株主は会社に対し、どのくらいのDOEを求めているのでしょうか。

生命保険協会の調査(平成29年度 生命保険協会調査「株式価値向上に向けた取り組みについて」)によると、平成28年度における米国企業のROEは13.5%で配当性向は40%となっており、これらを掛け合わせたDOEは5.4%ということになります。これに対して、同時期の日本企業のROEは8.0%、配当性向は28%であり、DOEは2.24%に過ぎません(ROEは24ページの図表30、配当性向は33ページの図表51参照)。米国企業と比較するとROEすなわち成長性が劣っているのみならず、株主還元としての配当性向までも低いということになります。投資家(特に外国人投資家)としては、自らが提供した資本の活用度が相対的に低く、ROEが低迷している以上、DOEが米国企業並みの水準となるよう「配当性向」を高めて欲しいと望むのは当然であり、そう考えると、日本企業の配当性向は未だ彼らが満足できる水準にはないと言えるでしょう。ちなみに、日本企業が現状のROEを前提としてDOEを米国企業並みの水準まで引き上げるためには、配当性向を70%近く(67.5%)まで向上させる必要があります。

少し古いデータとなりますが、下記のグラフは、上記生命保険協会の調査報告書の平成24年度版に掲載されていたものです。これを見ると、以前から日本企業のDOEが2%近辺で推移していたのに対して、米国企業は常に4%以上、年度によっては6%をも超えていたことが明確に分かります。

<DOEの日米比較(生命保険協会 平成24年度版調査報告書より)>

dividend1666_2

機関投資家が議決権行使する際にも、(DOEへの直接的な言及こそ見られないものの)成長性と株主還元のバランスが重視されています。例えば三井住友信託銀行は「会社の成長過程に応じた適切な利益配分」を行使基準としていますし(同社の「責任ある機関投資家としての議決権行使(国内株式)の考え方」12ページ冒頭参照)、アセットマネジメントOneは「資本生産性(すなわちROE)の水準を勘案した上で、株主への還元が低水準にある企業(具体的には、3 期連続で総還元性向が 30%未満かつ ROE8%未満(赤字企業除く)に該当する企業(財務不安定な場合を除く))の場合、剰余金処分に対し原則として反対する」としています(同社の「国内株式の議決権行使に関するガイドラインおよび議案判断基準」9ページ参照)。

総還元性向 : 企業が利益をどの程度株主に還元しているかを示す指標。「総配分性向」「株主還元性向」とも言われる。「(配当金+自社株買いの金額)÷当期純利益」によって計算される。ちなみに、「配当性向」は当期純利益に占める「配当金」のみの割合を示す。自社株買いも株主還元の1つであるため、最近は配当性向とともに、総還元性向を開示する企業が多い。総還元性向については下記「配当性向から「総還元性向」へ」も参照。

なお、議決権行使助言コンサルティング最大手のISSは、下記のとおり、配当性向が「15~100%」の場合、通常は剰余金処分議案に賛成を推奨するとしています。一方、十分な説明がなく配当性向が継続的に低い場合や、逆に配当性向が高すぎて(100%超)財務の健全性に悪影響を与え得る場合には、剰余金処分議案への反対を推奨する可能性を示唆しています。

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<ISSの議決権行使助言基準>
下記のいずれかに該当する場合を除き、原則として賛成を推奨する。
 ・ 十分な説明がなく、配当性向が継続的に低い場合
 ・ 配当性向があまりに高く、財務の健全性に悪影響を与えうる場合
(解説)
配当性向が15%から100%の場合、通常は賛成を推奨する。配当性向がその範囲にない場合、個別判断を行う。特に配当性向が100%を超える場合は財務の健全性への影響を考慮し、議案の内容を精査する。
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