コーポレートガバナンスを評価するのは誰か
コーポレートガバナンス・コードの実施などを受け、コーポレートガバナンスに対する投資家の関心が益々高まる中、多くの企業は自社のコーポレートガバナンスに対する評価を上げたいと考えているはずです。
それを実現するための前提として、まず、コーポレートガバナンスとは具体的に「誰」を見て構築していくべきかを確認しておきましょう。
コーポレートガバナンスの定義には様々なものがありますが、本稿では上場会社を前提に、「“株主にとっての利益”を追求するように経営を規律付ける仕組み」とします。ここでいう「株主」とは、創業家や親会社など特定の大株主ではなく、「投資収益の獲得」を目的として株式を購入・売却する「純投資家」を指します。したがって、メインバンクなど金融機関や取引先など、ビジネス上の関係強化を意図して株式を保有(株式持合い。いわゆる“片持ち”も含む)する株主も除外します。
「純投資家」の条件にもっとも当てはまるのが、投資収益の獲得を目的とする資金を集め“プロ”として資産運用を受託する、投資信託や投資顧問などの「機関投資家」です。もっとも、機関投資家には、投資信託や投資顧問に運用を委託する公的年金や年金基金など「アセットオーナー」や、株式を大量に保有する生・損保も含まれます。アセットオーナーは運用改善の観点から株主利益を重視するコーポレートガバナンスに注目しており、投資信託や投資顧問などの「アセットマネージャー」はアセットオーナーから運用を受託できるよう、コーポレートガバナンスの観点から投資先である上場会社を評価することが求められます。生・損保による株式保有は契約者獲得などビジネス上の意味合いも小さくありませんが、スチュワードシップ・コードの受け入れにより無条件に会社提案の株主総会議案に賛成するわけにはいかなくなっているうえ、近年の運用難などから、次第にコーポレートガバナンスを重視するようになってきています。
なお、もう1つの大きな株式購入層である個人投資家については、少なくとも現状ではコーポレートガバナンスを評価する主体として取り上げる意味は大きくないと考えられます。デイトレーダーは超短期的な価格変動にしか着目しておらず、コーポレートガバナンスはおろか企業そのものに対して関心薄です。また、比較的長期で株式を保有する個人投資家の中には、そもそも投資先の企業を自分が「好きかどうか」で選別していたり(ファン株主)、安定的な配当や株主優待を重視していたりすることも多いため、利益最大化に向けて経営陣が邁進しているか否かをチェックし、時には不信任の声を上げるという“コーポレートガバナンスの価値観”には馴染みにくいと言えそうです。
機関投資家の関心が高い株主総会議案は?
上場会社のコーポレートガバナンスが評価を受ける機会が、毎年の定時株主総会に上程される議案に対し株主が議決権を行使する場面です。
株主総会に上程される議案は、「剰余金処分」や「取締役選任」など株主利益に直結するコーポレートガバナンスにおける“最重要事項”であり、株主の中でも特に機関投資家は大きな関心を寄せています。例えば剰余金処分案に対しては、企業の利益水準や資産状況から見て適切かつ十分な金額の配当であるか否かを、配当性向などの指標を通じてチェックします(望ましい配当性向については、「会社の成長ステージに応じて株主還元策を見直したい」参照)。また、経営トップなどの取締役の選任議案では、利益やROEの水準を評価したり、不祥事があればその重大性を判断したりして、時には「不信任」の票を投じます。
特に近年において、機関投資家が議決権行使の方針を決定する際に注目しているのが、・・・
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- グローバルな機関投資家の期待水準
- コーポレートガバナンス・コードへの対応ぶりも評価の対象に
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