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【機関投資家対応】買収防衛策の導入(継続)議案に、より多くの賛成票を得たい

 

「濫用的な買収行為」でなければ買収の成否は資本市場に委ねられる

敵対的な買収行為の成立を阻止するための防衛策、いわゆる「買収防衛策」は、敵対的買収が活発な米国で、1980年代以降に様々なものが開発されました。代表的な買収防衛策としては下表のようなものがあります。

買収防衛策
の名称
内 容
ゴールデン・
パラシュート
敵対的買収者により解任されたり、退任に追い込まれたりした経営陣に対し、巨額の割増退職金を支払う手法。割増退職金の支払いにより、被買収企業に巨額の損失を計上することで、敵対的買収者の買収意欲を削ぐことを狙いとする。
スタッガード
・ボード
(期差任期制度)
取締役を複数のグループに分け、各グループごとに取締役の改選時期をずらす手法。改選時期をずらせば、敵対的買収を受けても、一度に全取締役を交替させられなくなる。敵対的買収者に直ちに経営権を握らせないようにすることを狙いとする。スタッガード(staggered)とは「食い違い状態」を意味する。
ライツプラン
(ポイズンピル
=毒薬条項)
「敵対的買収者が被買収企業の株式(議決権)の一定割合を取得した場合には、既存の株主は時価より安い価格で新株を購入できる」という権利をあらかじめ既存の株主に与えておく手法。この手法に基づき新株が発行されれば、敵対的買収者の持株比率は低下するとともに、(株式数が増えることで)1株当たりの株価も安くなる。この結果、株式数の変わらない敵対的買収者は大きな損失を被ることになる。

これらの買収防衛策のうち、最も活用されているのが「ライツプラン」です。ライツプランという名称は、新株を購入する「権利(ライツ)」から来ています。また、毒薬が回って体が弱るようなイメージがあることから、「ポイズンピル(毒薬条項)」とも呼ばれます。

従来、日本企業における買収防衛策としては、金融機関による株式保有や取引先との株式持合いによって敵対的買収者に重要な議決権比率を握らせないという“安定株主工作”が行われてきました。

しかし、株式の持合い解消が進展するのとともに近年普及したのが、「事前警告型ライツプラン」と呼ばれる買収防衛策です。

事前警告型ライツプランの基本的な流れは、(1)一定割合以上の株式取得を狙う敵対的な買収者に対し、事前に設定した「猶予期間」中に、買収者自身や買収提案の内容など詳細な情報の提供を要求する、(2)社外役員や有識者などから構成される独立委員会が買収提案を精査する、(3)独立委員会の勧告を踏まえて、取締役会が賛成/反対の対応を決定する―――となっています。

このプロセスに則って、(1)において情報に不備・不足がある場合(すなわち、独立委員会が買収提案を精査できない状態)や、(2)において買収提案が不適当()と判断された場合、さらには、(1)(2)の手続を無視して買収行為(株式公開買付けの開始、一定割合を超えた市場買付け、など)が断行された場合は、買収提案を「濫用的な買収行為」と認め、(3)により、取締役会は買収提案への「反対意見」を提示し、必要に応じて対抗措置(新株予約権の発行など)を決議することになります。

 例えば、株式の買付価格が低い、従業員などの利害関係者が不利益を被る(例えば、従業員が不当に大量解雇される、取引先が悪条件を無理に飲まされる、など)場合が考えられます。

逆に、敵対的買収者が十分な情報を提供し(上記(1))、また、独立委員会が「濫用的な買収行為」でないと判断すれば(上記(2))、買収者は TOB (公開買付)を開始し、買収の成否は資本市場に委ねられることになります。

コーポレートガバナンスの観点からは“危うい”事前警告型ライツプラン

ただし、事前警告型ライツプランでは、2つの局面で、現経営陣と株主の利益相反が生じる恐れがあります。1つは上記(1)で「敵対的買収者からの情報提供が不十分」と判断する局面であり、もう1つは上記(2)で「濫用的な買収行為」と認定する局面です。

現経営陣にとっては脅威となる買収提案であったとしても、株主の視点で見ると、それが企業価値を高める内容(高いシナジー効果が見込める、エクセレントカンパニーが提案者であるなど)で、かつ、株式の買付価格も十分なプレミアムが付いた適正価格を上回る金額であるかも知れません。一方、現経営陣にとっては、買収者が取締役として会社に乗り込んでくれば、自らのポストが危うくなる可能性があります。このため、たとえ上記(1)で買収者から十分な情報の提供を受け、(2)で独立委員会が正当な提案だと判断したとしても、(3)が取締役会の多数決に依拠する以上、現経営陣が“保身”を図るために事前警告型ライツプランを発動してしまうことも考えられます。

このようにコーポレートガバナンスが欠如した状況では、敵対的買収者が新株予約権の発行差止めを求めて司法に訴えた場合、これが認められる可能性は小さくありません。せっかく買収防衛策を導入(継続)しても、新株予約権の発行差止めのリスクがあるという「法的安定性」を欠いた状態では、そもそも買収防衛策として機能しない恐れがあります。

「反対多数」でも買収防衛策の導入は可能?

この「法的安定性」を確保するための手法が、買収防衛策の導入(あるいは継続。以下同じ)時に、「株主総会」で支持を得ることです。

もっとも、買収防衛策の導入議案は、会社法上、株主総会の決議事項として規定されているわけではなく、あくまで「宣言的決議」として株主の意思を確認する意義しか認められていません。したがって、極論すれば、買収防衛策の導入議案に対する決議が反対多数になったとしても、最終的には会社側が導入するかどうかを判断すればよいということになります。

しかし、・・・

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機関投資家が買収防衛策に反対する理由

資本市場でも、事前警告型ライツプランを問題視する声は少なくありません。その最大の要因は、多くの日本企業では、上記(3)のプロセス(独立委員会の勧告を踏まえて取締役会が賛成/反対の対応を決定する)を最終的に決定する機関である取締役会の大部分を「社内取締役」が占めていることにあります。多くの機関投資家が事前警告型ライツプランの導入議案に反対するのも、取締役会の大部分を占める社内取締役が自らの保身のために同プランを発動する懸念が排除できないからです。

これに対し、米国企業の取締役会は大部分が社外取締役で構成されているので、経営陣が保身を図ることで買収提案が十分に検討されないリスクは、少なくとも外形的には相当に低減されています。そのため、買収防衛策を導入することについて株主から信頼を得やすいと言えます。

こうした背景の下、米国企業では、買収者が現れていない“平時”に株主総会の議案として買収防衛策が諮られることはなく、・・・

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議決権行使助言最大手・ISSの基準

買収防衛策に対する機関投資家の賛否に大きな影響力を持つのが、議決権行使助言サービスの世界最大手であるISS(インスティテューショナル・シェアホールダーズ・サービシーズ)です。

ISSは、日本企業が買収防衛策の導入(継続)を諮る株主総会議案について、以下の基準を設けて・・・

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史上初の否決事例は2014年株主総会で発生

2014年の株主総会シーズンでは、史上初とみられる買収防衛策の否決事例は2014年の株主総会シーズン、ゲームソフト大手のカプコンで発生しました。同社の2014年3月期末時点の外国人株主比率は37%、自己株式を除いた議決権ベースでは44%に達する中、同社の買収防衛策の継続議案は賛成率47%で否決されています(詳細は2014年07月28日のニュース「6月株主総会総括 買収防衛策の導入議案で初の否決、監査役への退職慰労金は過半数割れ寸前に」参照)。

同社の買収防衛策は典型的な事前警告型ライツプランで、少なくとも上述したISS助言基準の第一段階(形式審査)はクリアしていたとみられます。しかし、・・・

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賛成票を得られる買収防衛策とは?

買収防衛策を法的安定性の高いものとするには、株主総会における宣言的決議で賛成多数を得る(可決される)のみならず、できるだけ多くの賛成票を獲得することによって、少なくとも導入時の株主からは幅広く賛同を得ていること、すなわち「株主利益」に合致していることについて、司法に対して説得力がなければなりません。

では、高い賛成率で可決された買収防衛策の導入(継続)議案とはどのようなものでしょうか。実例で見てみましょう。・・・

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