株式分割が行われるのはどのような場合?
会社の成長に伴う株価の上昇は、会社にとっても株主にとっても望ましいことですが、投資家(とりわけ個人投資家)にとっては、株価の上昇に伴い投資金額が上昇することにより株式を購入しにくい(投資しづらい)状況が生じることにもなります。例えば、それまで1株1万円、売買単位100株で取引されていた株式の価格が1株10万円に上昇したとしましょう。この場合、投資家にとって最低限必要となる投資金額(投資単位当たりの金額)は100万円(1万円 × 100株)から1,000万円(10万円 × 100株)に上昇することになります。最小の売買単位が1,000万円ともなれば個人投資家は手を出しづらくなり、その結果、市場における株式の流動性が低下してしまう恐れがあります。流動性が低下すれば、ますます売買しにくい株式となり、不本意な株価下落にもつながりかねません。
そのような時に、投資金額(投資単位当たりの金額)を引き下げる目的で行われるのが「株式分割」です。株式分割とは、既に発行している株式について、その数を一定の割合で増やす(細分化する)ことです。例えば、1:10の割合で株式を分割すれば、1株が10株になります(なお、株式分割とは反対に、既に発行している株式についてその数を一定の割合で減らす(束ねる)ことを株式併合と言います)。上述の例で見ると、1株10万円に上昇した株式を1:10の割合で分割すれば、市場に流通する株式数は10倍に増えるとともに、(理論的には)株価は10分の1(1株1万円)となり、100株を投資するために必要となる投資金額は1,000万円(10万円 × 100株)から100万円(1万円 × 100株)に下がることになります。このように、株式分割による発行済株式数の増加と投資金額の引下げによって、株式の流動性が向上し、その結果、市場で株式を売買しやすくなるといった効果が期待されるというわけです。
また、上場廃止基準への抵触を避けるため、株式分割を行う場合もあります。証券取引所のルールでは、株主数が一定数以下になった場合、上場廃止基準に抵触し、さらに猶予期間を経ても一定数を超えなければ、上場廃止になってしまいます(東証第一部・第二部の場合、400人未満。猶予期間は1年)。そこで、株式の流動性向上による株主数の増加を期待して、株式分割を行う会社も見受けられます。
なお、全国の証券取引所では「売買単位の集約に向けた行動計画」(2007年11月公表)に基づき、国内上場会社の株式の売買単位を100株に集約することを目指しており、この証券取引所の方針に従って自社の株式の売買単位を100株に調整するための手段として株式分割が行われるケースも見られます。
株式分割によって企業価値は増加するか?
株式分割が行われた場合、特にこれまで株価が高くて個人投資家が手を出しづらかった人気銘柄では、売買単位当たりの株価の低下によって「買い」が集まり、株式分割後の時価総額が上昇するケースも少なくありません。
もっとも、だからと言って株式分割そのものに企業価値を増やす効果はありません。株式は株主としての地位を「割合的単位」に細分化したものに過ぎませんので、たとえ株式の数が10倍になったとしても、その単位が10倍に細分化されるだけであり、株式分割前後で企業価値は変動しません。例えて言えば、1万円札を1000円札10枚に分けても、総額1万円という価値自体には変化がないのと同じことです。
企業価値が変わらないわけですから、会社の財務諸表に影響を与えることもありません。また、発行済株式の数が細分化されるだけですので、株式分割によって会社の資本金が増加することもありません。
一方、株主側から見ても、株式分割はすべての株主の持株数を一定の割合で均等に増加させるものですので、株式分割の前後で株主の持株比率に変更はありません。また、株式分割によって1株当たりの価値は下がりますが、それを補うだけ株式数も増えますので、株主の有する経済的価値も株式分割によって変わりはありません。
株式分割を行うための手続き
このように株式分割をしても、会社財産や株主の地位・経済的利益に変動がありません。一方で、会社側には株式分割を機動的に実施したいというニーズがあります。そのため、株式分割の実施にあたり株主総会の決議は求められていません(取締役会設置会社を前提)。「分割の割合」および「効力発生日」を「取締役会の決議」で定めることで、株式分割を行えます(会社法183条2項)。
取締役会の決議から実際に株式分割を行う日(効力発生日)までは3週間程度かかるのが一般的ですので、その間、当然株主の入れ変わりがあります。そこで、・・・
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