将来予測情報は業績予想だけに限られない!?
証券取引所に上場している会社は、投資家の投資判断に資するために過去の財政状態や経営成績などの情報を投資家に開示することが必要になります。もっとも、投資家としては「過去の実績」だけでなく、「今後この会社がどのように成長していくのだろうか」という将来の動向も気になるところです。実際のところ、株価には過去の業績に加えて将来の利益動向の見込みも織り込まれています。もちろん上場会社が自社の将来を正確に予知できる訳はないのですが、少なくとも投資家よりは将来見通しの根拠となる情報を多く保有しています。そこで、証券取引所の要請に基づき、ほとんどの上場会社が、「決算短信(サマリー情報)」の「次期の業績予想」および「配当の状況」にて将来予測情報を開示しています(*)。東京証券取引所が平成27年6月15日に公表した「平成27年3月期決算短信発表状況等の集計結果について」によると、「次期の業績予想」の開示がある上場会社は東京証券取引所の全上場会社のうち96.7%、予想値が算出可能となった時点で開示する旨を記載している上場会社は1.2%、予算の算出が困難である旨のみの記載をしている上場会社は1.7%となっています。このことから、多くの上場会社が投資家の投資意思決定に資する情報として業績予想を重視していることが伺えます。
2011年7月29日に公表された「上場会社における業績予想開示の在り方に関する研究会報告書」(公益財団法人日本証券経済研究所)を受け、各証券取引所では上場会社に対して、将来予測情報の開示を従来決算短信で開示されてきた「次期の業績予想」(売上高、営業利益、経常利益、当期純利益、1株当たり当期純利益、1株当たり配当金の予想)の形式に限定することなく、それぞれの実情に応じて積極的な開示に取り組むことを要請しています。例えば、ROEやROAなどの主要な経営指標の見込みや、設備投資額や研究開発費など将来の経営成績に影響を与える負担額の見込みといった将来の見通しに係る情報の開示が考えられます。
将来予測情報の開示方法に複数の選択肢
「決算短信(サマリー情報)」の「次期の業績予想」は、自社の実情に照らして、次のいずれかを選択できます。
・「次期の業績予想」を「表形式」で開示する
・「次期の業績予想」を「自由記載形式」の様式で開示する
・「次期の業績予想」自体を行わない
「次期の業績予想」を「表形式」で開示する方法とは、通常は次期の第2四半期(累計)および通期(*1)における「売上高」「営業利益」「経常利益」「親会社株主に帰属する当期純利益」「1株当たり当期純利益」の予想値を表組みにより公表する開示スタイルのことです。この点、「表形式」の開示様式は固定されているわけではなく、例えば、外部環境等の変動が大きく年次の見通しが困難な場合や、全部または一部の項目について合理的な予想を算出していない場合など、個別の実情に応じて、開示対象項目、開示形式(*2)または開示対象期間の追加、変更といったカスタマイズを行うことができます。
親会社株主に帰属する当期純利益 : 連結財務諸表の最終利益。「当期純利益」から「非支配株主に帰属する当期純利益」(連結子会社の利益や損失のうち親会社株主以外の株主に帰属する分)を控除して算定する。
*2 特定値による開示が多く見受けられますが、上限および下限を示したレンジの形式でも構いません。もっとも、レンジ形式の開示をしている上場会社は、ごくわずかに留まります(後述の「開示対象期間とタイミングは?」を参照)。
また、「自由記載形式」の様式の場合、例えば、決算内容の開示または四半期決算内容の開示に際して、「決算短信」等の添付資料、決算補足説明資料または決算説明会資料において、将来の予測情報の開示を行っている場合には、その概要(例えば、前年度比の出荷成長率、減価償却費、販売費及び一般管理費、設備投資額など)を記載することが考えられます。なお、将来の業績を予想するのに有用と思われる情報として、定性的な記述を行うことも認められています。例えば、投資事業を行っている場合、複数の投資先がIPOを予定している旨、株式市況やIPO動向に影響を受けるため業績を見通すことが困難な旨を記載することが考えられます。
一方、「「次期の業績予想」自体を行わない」ことも認められています(*)。その際、業績予想を公表しない理由の記載は求められていません。また、業績予想を開示しないことについて証券取引所の承認や事前相談も必須とはされていません。
- 開示対象期間とタイミングは?
- 信頼性のある将来予測情報の算出のために必要な内部統制とは?
- 業績予想と経営目標の違い
- 業績予想の伝達がインサイダー情報とならないための方策とは?
- 数字の“独り歩き”を防ぐには?
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