印刷する 印刷する

【経理・財務】現金・預金の管理を適正に行いたい

 

ファームバンキングでは不正が巧妙かつ高額に

多額の現金・預金を取り扱う経理部や財務部では、業務上横領や簿外資産などの不正が発生するリスクが他の部署より高いのが通常です(業務上横領については「従業員が会社の金を着服していた」を参照してください)。これらの不正が発生した場合、会社が受けるダメージは実損失にとどまりません。社内外で最も高い信用を受けるべき経理部や財務部での不正発生は、社内に強い動揺や不信感を巻き起こすことになるうえ、社外(取引先、株主、投資家、一般消費者など)からは「内部統制、コンプライアンス体制が欠如した会社」とのレッテルを貼られることにもなりかねません。

したがって、会社にとって、「不正を防ぐ」という観点からの現金・預金管理は非常に重要と言えます。

経理部で発生する現金・預金を巡る不正には、以下の特徴があります。
・担当者が限られているため、巧妙な不正・隠ぺいが行われ、長期間発覚しないことが多い。
・一回当たりの不正金額は小さくても、長期間発覚しないため、結果的に多額の損失になってしまう可能性がある。

特に預金の場合、ファームバンキング、インターネットバンキングといったITの利用により、通帳と印章を用いた旧来型の不正に比べると、例えば、会社にいながら自分の口座に預金を振り込むなど不正の方法がより巧妙になるだけでなく、一度きりの不正であっても被害金額が多額にのぼる可能性があります。

ファームバンキング : 銀行などの金融機関とその顧客である企業のコンピュ-タシステムとを「専用回線」等で直接接続することで、企業が金融機関のサービスを利用できるサービス。専用回線を設ける点が「インターネット」を経由するインターネットバンキングとは異なる。

一方、現金の場合は、小口現金の使い込みなどの単純なケースが想定されます(使い込みについては「従業員が会社の金を着服していた」を参照してください)。

また、近年、日本企業の海外進出が増加していますが、親会社の監視の目が十分に届かない海外子会社や支店での現金・預金に関する不正は発見されにくいケースが多いため、注意が必要です(海外子会社へのコントロールについては、「海外子会社へのコントロールを強めたい」を参照してください)。

現金・預金管理の基本中の基本とは?

現金・預金を巡る不正は、1人の者により行われるケースがほとんどです。そこで、取締役としては、現金・預金管理は、担当者を1人に限定せず、必ず「担当者」と「承認者」をわけて、「担当者」が不正をしづらい体制にすべきです。さらに「出納担当者」と「記帳担当者」をわけて、「出納担当者」の不正時には現金・預金の実際在高と会計残高の不一致が生じるような体制とすべきです。こういった職務分掌に加えて、「事前」の予防策(内部統制)を整備し、適切に運用していくことが必要となります。

では、具体的にどのような予防策を実施すればよいでしょうか? 以下、様々な会社で発生し得る不正の具体例を挙げながら、その原因や予防策を見ていきます。

預金を巡る不正事例に学ぶ予防策

1 ファームバンキングのパスワード管理
(事例)
A社の経理部ではファームバンキングを導入しており、社内のパソコンにて専用回線を経由して他社へ振込み操作ができるようになっている。

ファームバンキング用のPCは2台あり、経理部長と出納担当の経理部員1名に異なるユーザーID、パスワードが与えられていた。そのうえで、経理部員が振込情報を入力し、経理部長が承認するルールを設けていた。もっとも、業務の煩雑さを回避するため、ファームバンキングへのアクセスの際のユーザーIDとパスワードはお互いが知っており、代行する場合もあるのが実態であった。場合によっては、経理部員が振込情報を作成し、経理部長のユーザーIDとパスワードを用いて自ら承認するケースもあった。また、経理部長による定期的な預金残高のチェックも行われていなかった。

経理部員は、会社の銀行口座から自由に預金を引き出せる状態にあるなか、自分の口座に多額の預金を振込み、その後、病欠を理由に欠勤、自分の口座から預金を引き出したうえで海外に逃亡していた。

(原因)
・ファームバンキングのユーザーIDやパスワードが共有されていた。
・管理者(経理部の上長)による預金残高の定期的なチェックが行われていなかった。

(予防策)
本事例の最大の問題点は、・・・

続きをご覧になるには会員登録(※有料)が必要です。会員登録はこちら

チェックリスト チェックリストはこちら(会員限定)

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから
本ケーススタディを最後まで閲覧した方は、知識の定着度を確認するため、下の右側のボタンを押してミニテストを受けてください(ミニテストを受けない限り、本ケーススタディの閲覧履歴は記録されません)。
また、本ケーススタディを閲覧して感じたことや気付いた点(学んだ点、疑問点、自社の課題など)を、備忘録として登録しておくことができます。登録を行う場合には、下の左側の「所感登録画面へ」ボタンを押し、登録画面に進んでください。過去に登録した内容を修正する場合も、同じ操作を行ってください。

感想の登録    ミニテスト受講