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【特集】MD&Aにおける「資本の財源及び資金の流動性」の開示事例

広野総合会計事務所 代表
公認会計士 広野 清志

1.改正の内容と趣旨

① 改正の内容

周知のとおり、2018年1月に施行された「企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」(以下、開示府令)により、有価証券報告書における MD&A(Management’s Discussion and Analysis of Financial Condition and Results of Operations)の開示の充実が図られています。具体的には 2018年3月決算より従来の【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】に代わり、新たに【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】の開示が求められることとなったところです。項目名だけ見ると、従来の有価証券報告書の【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】の冒頭に「経営者による」という文言が追加されただけのように見えますが、その記載内容は従来とは大きく異なっています。

MD&A : 「経営陣による財政状態および経営成績の検討と分析」と訳される。日本の新しい有価証券報告書では【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】欄に記載する。

まず、従来は【業績等の概要】【生産、受注及び販売の状況】【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】として別々に開示されていた情報を一つに統合して記載することとされました。その上で、経営成績等の状況を分析・検討した結果の記載を充実させる観点から、「事業全体」及び「セグメント別」の経営成績等に重要な影響を与えた要因等について、“経営者の視点”による認識と分析などの開示が求められています(MD&Aに関する記載事項の改正の詳細や「経営者の視点」の意味するところは、2018年4月23日のニュース『具体例で見る「MD&Aに書くべきこと」』を参照)。

また、従来は“例示扱い”だった「資本の財源及び資金の流動性」が、本改正により、“要記載事項”に格上げされました。「資本の財源及び資金の流動性」に関する改正前後の開示府令は下表のとおりです。

【「資本の財源及び資金の流動性」に関する内閣府令の改正箇所】※赤字部分が改正箇所
改正後 改正前
経営成績等の状況に関して、事業全体及びセグメント情報に記載された区分ごとに、経営者の視点による認識及び分析・検討内容(例えば、経営成績に重要な影響を与える要因についての分析)を記載すること。また、資本の財源及び資金の流動性に係る情報についても記載すること。なお、経営方針・経営戦略等又は経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等がある場合には、当該経営方針・経営戦略等又は当該指標等に照らして、経営者が経営成績等をどのように分析・検討しているかを記載するなど、具体的に、かつ、分かりやすく記載すること。 届出書に記載した事業の状況、経理の状況等に関して投資者が適正な判断を行うことができるよう、提出会社の代表者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する分析・検討内容(例えば、経営成績に重要な影響を与える要因についての分析、資本の財源及び資金の流動性に係る情報)を具体的に、かつ、分かりやすく記載すること。

② 改正の趣旨

従来、キャッシュ・フローの状況に関する分析・検討内容については、単にキャッシュ・フロー計算書を要約して文章化する企業がほとんどで、投資家からは「キャッシュ・フロー計算書を要約して文章にしたところで情報としての価値はない」といった厳しい意見も聞かれたところです。こうした意見を踏まえ規制当局である金融庁は、「資本の財源及び資金の流動性に係る情報」の記載に際しては「単にキャッシュ・フロー計算書の要約を文章化するのではなく、経営内容に即した具体的な記載が要求されている」との考え方を示しています。

【パブリックコメントに対する金融庁の考え方】
「資本の財源及び資金の流動性に係る情報」の開示は、投資者が投資判断を行う上で重要な情報であることから、これまでも、分析・検討内容の例として示しておりましたが、現在の開示の状況については、単にキャッシュ・フロー計算書の要約を文章化したものの記載がなされるにとどまり、本来求められる開示が行われていない例が多いとの指摘があります。このため、「MD&A」で本来求められる開示内容をより充実させる観点から、「資本の財源及び資金の流動性に係る情報」について、記載を求めることとしたものです。
改正の趣旨を踏まえ、記載に当たっては、単にキャッシュ・フロー計算書の要約を文章化したものを記載するだけではなく、企業の経営内容に即して、例えば、重要な資本的支出の予定及びその資金の調達源は何であるかなどについて、具体的に記載することが期待されます。

もっとも、いざ「資本の財源及び資金の流動性に係る情報」を実際に書く段になると、「何を」「どのように」書けば金融庁が求める“具体的な記載”になるのか悩む向きも少なくないのではないでしょうか。そこで本稿では、「資本の財源及び資金の流動性に係る情報」について“具体的な記載”を行っていると考えられる上場企業の開示実例を紹介します。自社の開示内容と比較することで、改善すべき点や追加記載すべき点などが見つかることでしょう(「資本の財源及び資金の流動性に係る情報」の記載内容については、2018年2月5日のニュース『改正後の「資本の財源及び資金の流動性」には何を書く?』、2018年8月24日のニュース『MD&A「資本の財源および資金の流動性」開示のベストプラクティス』も参照)。

2.具体的な開示内容

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