日本シェアホルダーサービス株式会社
チーフコンサルタント 藤島 裕三
シニアアナリスト 水嶋 創
上場会社のコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)対応を支援するサービスを提供している日本シェアホルダーサービス(JSS)では、その重要な支援ツールとして活用するため、TOPIX100採用企業のコーポレートガバナンス報告書(以下、CG報告書)を継続的に調査・分析することにより、わが国を代表する企業群におけるCGコード対応のレベルを相対的に把握しています。
CGコードは2018年6月に改訂されており、上場会社各社は改訂CGコードに基づくCG報告書を2018年12月末までに提出しています。そこで当社では、同時点におけるTOPIX100採用企業のCG報告書のうち、CGコードの開示11原則に関する記載(コンプライおよびエクスプレインの両方)を分析しました。
1.分析の概要と結果の全体像
各社のCG報告書の記載内容の分析に際しては、各原則が文言上求める最低限の要請にとどまらず、機関投資家との建設的な対話を促進するというCGコードの趣旨を踏まえた内容になっているか、そしてグローバル機関投資家が日本企業に期待するガバナンスの水準を意識したものであるかを重視しています。具体的には主に以下の6つとなります。
・経営陣のリーダーシップ:ガバナンス全般に経営トップが主体的に関与しているか
・社外取締役の活用:経営の意思決定および監督において独立性が確保されているか
・攻めのガバナンス:適切な権限移譲により迅速・果断な経営を実現しているか
・株主重視の姿勢:株主の利益および権利を尊重しているか
・資本生産性の重視:ROE(自己資本利益率)を基軸に経営管理が行われているか
・持続可能性:ガバナンスを継続的に強化する仕組みが確立されているか
これらに加え、自社特有の特徴や課題を踏まえた独自性の高い記載となっているかどうかに注目し、各社の開示11原則(*)に係る開示を以下の7レベルに分類しています(図表1)。
・原則1‒4 政策保有株式
・原則1‒7 関連当事者間の取引
・原則2‒6 企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮
・原則3‒1 情報開示の充実
・補充原則4‒1① 経営陣に対する委任の範囲
・原則4‒9 社外取締役となる者の独立性判断基準および資質
・補充原則4‒11① 取締役会のメンバーのバランス・多様性・規模に関する考え方と取締役の選任に関する方針・手続き
・補充原則4‒11② 社外役員の兼任状況
・補充原則4‒11③ 取締役会全体の実効性についての分析・評価
・補充原則4‒14② 取締役・監査役に対するトレーニングの方針
・原則5‒1 株主との建設的な対話に関する方針
文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム
1 | グローバル水準 |
2 | 日本市場におけるCG優良企業の水準 |
3 | 日本市場において特に規模の大きい企業に求められる水準 |
4 | 日本市場において比較的規模の大きい企業に求められる水準 |
5 | 日本市場において平均的な規模の上場企業に求められる水準 |
6 | 上場企業として最低限の説明責任を果たしている |
7 | 上場企業として十分な説明責任を果たしていない(またはCGコード対応ができていない) |
下記図表2は、TOPIX100採用企業について、開示11原則(実際には細分化された24項目)それぞれの開示内容を評価したうえで(各開示項目について)上表に基づくレベルを付し、各社ごとに平均した数値の分布図になります。100社の平均値は「4.69」で、四捨五入するとレベル5「平均的な規模の上場企業に求められる水準」となり、わが国を代表する企業群であるTOPIX100としては物足りない結果となりました。TOPIX100採用企業のCG報告書であれば、少なくともレベル3「特に規模の大きい企業に求められる水準」にあることが期待されますが、このレベルに相当する企業は2社に過ぎません。むしろレベル6「上場企業として最低限の説明責任を果たしている」にとどまっている企業が9社あり、これらの企業は、CGコードの趣旨ひいては機関投資家の期待に応えているとは言い難い状況です。
なお、本調査は昨年度に続き2回目となります。今年度はCGコードの改訂および機関投資家による要求水準の高まりを反映して、評価基準を厳格化しています。その結果、TOPIX100採用企業の平均スコアは昨年度の4.46から0.23ポイント低下しています。ガバナンスの改善要請に終わりはなく、上場企業には継続的な取り組みが求められていると言えるでしょう。
2.レビューの実例(補充原則4-11①:取締役会全体の考え方)
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