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【特集】〜株主からステークホルダー全体へ〜
世界中で台頭するコーポレートガバナンスの新たな考え方

野村総合研究所
上級研究員
三井千絵

 

はじめに

現在、金融庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」では、東証の市場改革により創設されるプライム市場上場企業向けにコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の改訂議論を進めており、既に昨年末には「取締役会の機能発揮」や「多様性の確保」に関する改訂の概要が明らかにされている。これらのテーマは従来から何年も議論されてきたが、今回は独立取締役の構成割合の引上げや多様性の確保に向けた数値目標およびその達成状況の開示などが求められる方向となっている(「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」意見書(5)参照)。

アジア諸国に比べ日本におけるCGコードの導入は遅く、金融庁等は主に英国のCGコードを手本に、日本企業のコーポレートガバナンスをグローバル基準に近づけるための取り組みを進めて来た。しかし昨今、その英国のほか、EU、さらには米国でも、一見これまでの議論を逆行させるような新たな考え方が出てきている。端的に言えば、それは「株主以外のステークホルダーのことも考えるべき」というものだ。

本稿では、この新たな考え方について、英国を中心とした海外の動向を紹介しながら、日本におけるコーポレートガバナンスのあり方を考えてみたい。

世界各国で「ステークホルダーの考慮」が論点化

これまで、コーポレートガバナンスに関する議論とは株主の利益を考えることであった。これに対し「株主以外のステークホルダーのことも考えるべき」という考え方は、英国では2018年のCGコード改定()で、米国では企業によって構成されるNPO「ビジネス・ラウンドテーブル」が2018年に公表した声明文で示され、また、2020年、2021年のダボス会議でも「ステークホルダー資本主義」として採り上げられている。さらにEUでも、「Sustainable Corporate Governance」という新たな取り組みが始まっており、その中では、「(株主以外の)ステークホルダーの考慮」もテーマの一つとして議論されている。

ダボス会議 : 1971年に発足した非営利財団「世界経済フォーラム」(本部:スイス・ジュネーブ)が毎年1月に開催する年次総会のこと。スイスの有名な保養地であるダボスで開催されることから「ダボス会議」との名前が付いた。ダボス会議には、日本の首相を含む各国を代表する政治家や実業家が一堂に会し、世界経済や環境問題など幅広いテーマについて議論するだけに、同会議における決定・公表事項は世界に強い影響力を持つ。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

 日本のCGコードについては、金融庁や東証では「改訂」という表現が使用されているが、英国CGコードについては、2018年は新たな議論に基づく内容の見直しが行われたたため、筆者はあえて「改定」という表現を使用している。

このように、世界各国でコーポレートガバナンスの新しい論点が出てきたということは、企業価値に対する考え方の変化の中で、「コーポレートガバナンスとは何を求めるものなのか」が改めて見直され始めているとも言える。

経営者に実際の行動を促す「開示」の力

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