SBI大学院大学 准教授
日本投資環境研究所 主任研究員
上田亮子
第1章 はじめに
2020年に始まった新型コロナウイス感染症の世界的なパンデミックにより社会経済構造が変わるなかで、コーポレート・ガバナンスの在り方も変容している。企業経営は、急激な環境変化にも耐性のある柔軟で中長期的に持続可能な企業価値の向上につながるべきものであることが再認識された。しかし、そのために取締役会の監督と執行機能を強化し、株主とともにステークホルダーにも配慮できる経営を行うというコーポレート・ガバナンスの本質は変わらない。
現在、金融庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下、フォローアップ会議)では、2022年4月に実施される東京証券取引所の市場区分の見直しを踏まえ、市場の特質に合わせたコーポレートガバナンス・コードの改訂議論が進められている。本稿では、コーポレートガバナンス・コード改訂議論の柱の一つである取締役会の機能発揮について考察したい。
第2章 東京証券取引所の市場区分の見直し
1.市場区分の見直し
東京証券取引所の市場区分は、上場会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を支え、国内外の多様な投資家から高い支持を得られる魅力的な株式市場を提供する観点から見直しが行われている。2022年4月4日に新市場区分への移行を完了する予定である。
具体的には、現在の東京証券取引所の市場第一部・市場第二部・マザーズ・ジャスダック(スタンダード・グロース)という市場区分が、プライム市場・スタンダード市場・グロース市場の3つの区分に再編される。これに合わせて、新市場の目的やコンセプト、対象等を踏まえ、コーポレートガバナンス・コードについても見直しを行うこととされた。
時期 | 見直し事項 | 概要 |
2020年3月 | 制度要綱の公表(現行制度の一部改正) および意見募集手続きの実施 | ・新規上場・市場変更基準等の改正 |
2020年7月 | 現行制度の改正 | ・本改正後に上場申請する新規上場会社は、新市場区分の上場基準に近い枠組みで上場 |
2020年12月 | 制度要綱の公表(新市場区分の制度)および意見募集手続の実施 | ・新市場区分の上場基準の詳細 ・既上場会社の移行プロセスの詳細 |
2021年春 | コーポレートガバナンス・コードの改訂 | ・プライム市場上場会社を念頭に、より高い水準のガバナンスが求められる想定 ・フォローアップ会議での議論を踏まえて改訂 |
2021年6月 | 移行基準日 | ・6月末日を基準日として、新市場区分の上場維持基準に適合しているか否かを確認(7月末を目途に東証から通知) |
2021年9月~12月 | 上場会社による市場選択手続 | ・新市場区分の上場基準と改訂コーポレートガバナンス・コードを踏まえた選択 ・新市場区分の上場維持基準の適合に向けた計画書の内容を開示(公衆縦覧) |
2022年4月4日 | 一斉移行日 | ・新市場区分への移行完了 |
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