自らの利益のための労務の実施を他の行為主体に委任する場合、依頼人を「プリンシパル」、代理人を「エージェント」と呼ぶ。ところが、プリンシパルの利益のために動くことを委任されているはずのエージェントが、プリンシパルの利益に反して“エージェント自身の利益”を優先した行動をとってしまうことを、プリンシパル・エージェント問題という。
コーポレートガバナンスの分野では、株主と経営者がプリンシパル(=株主)とエージェント(=経営者)の関係にある。株式会社においては所有と経営が分離しており、株主は直接経営を行わず、経営者に経営を「委任」している。このようなプリンシパルとエージェントの関係においては、両者の利害が必ずしも一致せず(利害の不一致)、また、両者の持っている情報が同じではないこと(情報の非対称性)から、経営者が株主の利益を無視して自己の利益を追求するというモラルハザードが発生する可能性がある。
例えば、社長が経営者としての名声を追い求めて企業規模の拡大を志向し、過剰に従業員を雇用したり、部下にポストを与えるために非効率な事業に投資したりする可能性がある。このようなプリンシパル・エージェント問題を回避し、プリンシパルである株主の利益が守られるよう、エージェントである経営者を監視しつつ規律付けるための仕組みとして、コーポレートガバナンスが必要になるわけだ。
プリンシパル・エージェント問題は、経営者と株主との間だけでなく、(経営者と)債権者、従業員、顧客のほか、取引業者等の業務の委託関係がある様々なステークホルダーとの間にも発生する可能性がある。
コーポレートガバナンスや資産運用の世界では、プリンシパル・エージェント問題が起きないよう、エージェントにどのようなインセンティブを与えればよいかについて、報酬を中心に研究されてきた。もっとも、株主と経営者のプリンシパル・エージェント問題の内容は欧米と日本では異なる。
欧米では、・・・
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