資産負債法とは、税効果会計基準において採用されている繰延税金資産・負債の計上方法のこと。詳しくは後述するが、マスコミ報道等で税効果会計を説明する際には「繰延法」により説明されていることが多いので要注意だ。
資産負債法そのものの解説に入る前に、そもそも税効果会計とはどのような仕組みなのかをおさらいしておこう。
税効果会計がないとどうなる?
まず、税効果会計がないとどうなるかを考えてみたい。簡単な数字を使って説明しよう。
例えば、建物(簿価200)について減損損失を100計上した結果、建物の簿価が100になったとする。また、減損損失を計上するまでは会計上の税引前利益は200であったものの減損損失計上により会計上の税引前利益が100になったとしよう。税金計算のルールでは、「会計上の費用」が必ずしも「税務上の損金」として認められるとは限らない。減損損失もその1つ。すなわち、会計上減損損失を計上しても、税務上は損金として認められないことになる。
減損損失 : 固定資産の時価や収益性が著しく低下している場合に、固定資産の簿価を時価まで減額する処理のこと。
そこで、税金を計算する上では、減損損失を“計上しなかった”ことにしなければならない。具体的には、会計上の税引前利益100に減損損失100を足してあげることで、所得(会計上の利益に相当)が200(=100+100)と計算される。実効税率を40%とすると、法人税等の額は80(=200×40%)となる。その結果、税効果会計を採用していない場合、損益計算書(P/L)は図1のように表示される(なお、法人税等は税金に関する費用なので、税金費用ともいわれる)。
実効税率 : 法人税、住民税、事業税(所得に比例する分)の税率をあわせた税率のこと。計算上の実質的な税負担率である。
法人税等 : 法人税、法人住民税、法人事業税(所得に比例する分)
税引前利益は100あったにもかかわらず、法人税等という税金費用が80計上された結果、株主に配当可能な当期の利益は20になってしまったことになる。事情を知らずに会社の損益計算書を見た株主や投資家は、「実効税率は40%なのに、なぜ80も税金を負担しているのだろう?」と首をかしげるであろう。また、「税引後利益」は経営の成果の重要な尺度の1つであり、経営者としては、本来の実効税率の倍に相当する税金の負担率によって算出された税引後利益をもって「今期の成果」とされるのは、株主の手前、不本意であろう。
税効果会計導入で税引前と税引後の利益の関係が明白に
そこで、税効果会計が登場することになる。税効果会計は、税引前利益と税引後利益の関係を分かりやすくするための仕組みである。上の事例に税効果会計を用いると、図2のように、税引前利益と税引後利益が“整合”した分かりやすい損益計算書(P/L)となる。
図1と比べると、税金費用は税引前利益に実効税率40%を乗じたものとなっており、税引前利益と税引後利益の関係も「実効税率分の税金の負担」として説明が可能だ。その裏では、税金費用が80から40に調整されている。
このように、税効果会計とは、会計上の利益を算定するルールと法人税などの税金を計算するルールとの違いに起因して、損益計算書(P/L)の「税引前利益」と、税金控除後の「税引後利益」の関係が分かりづらくなってしまうことを避けるための工夫と言える。
また、税効果会計には、損失計上が税務上損金となる段階ではなくても、会計上の損失計上を促しやすくする効果もある。なぜなら、上記の例で減損損失を計上しなければ、税引前利益は200であった。これに実効税率40%を乗じた80を控除すると、税引後利益は120になる。
ここで監査法人が「減損損失を計上しなければ適正意見は表明できない」と主張してきた場合、税効果会計がなければ税引後利益は20となる(図1)ところ、税効果会計適用により税引後利益は60確保できるわけだ(図2)。減損損失を計上しない方が税引後利益は多いものの、減損損失100の分だけ税引後利益が減るわけではない(実際に減った額は60(=120-60)にとどまった)。このように、税効果会計には、損失計上の緩和効果があることから、税効果会計の導入時に金融機関は早期適用して一斉に不良債権償却を実施したという経緯がある。
税金費用の調整にはルールが必要
もっとも、税金費用の調整に関するルールが何もなければ、粉飾の余地も出てくる。そのルールが、資産負債法である。資産負債法とは、文字通り、会計上の資産・負債の額と、税務上の資産・負債の額のズレに着目する手法。具体的には、
(1)会計上の資産・負債の額と、税務上の資産・負債の額にズレがあること
(2)そのズレが
・将来に損金になることが予定されているズレ
・将来に益金になることが予定されているズレ
という「将来において解消するズレ(これを一時差異と言う)」であること
の2つの要件を満たせば、そのズレに対応する将来の税額(解消時に税金を減額または増額させる税額。一時差異に、差異解消時の実効税率を乗じて算出)を、ズレが解消する時点まで繰り越すことになる。
税務上の資産・負債の額 : 会計上の資産・負債の額に、税務上の加算・減算を行った額。
資産負債法の考え方を、上記事例の数字を使って説明しよう。・・・
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