今年(2014年)の株主総会でパナソニックが「脱日本依存」を打ち出すなど、日本企業の海外進出は加速する一方だが、企業が海外に投資する際に考慮しなければならないのが、カントリーリスク*だ。例えば、X国で投資活動を行っているY国のA社とX国政府との間で利害の不一致が発生し、紛争に発展するようなことが起こり得る。この場合、X国の司法手続きに中立性があればX国で裁判をすればよいが、特に新興国では、この中立性に懸念があるケースが少なくない。そこで活用されているのが「ISDS(Investor-to-State Dispute Settlement=国家と投資家の間の紛争解決)」という国際仲裁による投資紛争解決の仕組みだ。上記例で言うと、A社はX国ではなく「Y国」において国際仲裁による中立的な解決ができるよう、X国とY国の間でISDSを締結することになる。
* 投資や貿易を行う国の政治・経済情勢や新たな取引規制などにより受けるビジネス上のリスクのこと。一般に、カントリーリスクは先進国より発展途上国の方が高い。
ISDSは、投資協定*1に「ISDS条項」を盛り込むことで適用が可能であり、投資を呼び込みたい新興国(上記の例ではX国)と自国企業の海外投資リスクを軽減したい先進国(同Y国)の間の投資協定やEPA*2(Economic Partnership Agreement、経済連携協定)の多くに盛り込まれている。日本政府も、海外進出する日本企業の保護の観点から、既に締結している25本のEPAや投資協定のうち実に24本について、ISDS条項を盛り込んでいる。
*1 企業が海外に会社や工場を設立したり、海外企業を買収する際の条件やルールを二国間(投資する側、される側の国)であらかじめ決めておくこと。
*2 関税撤廃などを定めた自由貿易協定(FTA=Free Trade Agreement)をベースに、投資規制の撤廃、知的財産制度など経済制度の調和、各種の経済分野での協力などを追加した条約。
日本企業の投資先としては現状、新興国が中心となっているため、ISDSはほぼ新興国との間のみで締結されている。もちろん、市場として魅力のある先進国への投資も検討されるべきであるが、実は先進国の中にはISDSの締結を認めないところもあるので注意する必要がある。
例えば・・・
このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。