複数の機関投資家が連携して、トータルの株式保有割合を背景に、共同で企業との対話に臨むこと。共同エンゲージメントとも言われ、英国で広まった。
英国で集団的エンゲージメントが普及した理由はいくつかある。まずは法規制上の懸念がなかったことだ。
仮に日本で集団的エンゲージメントを行おうとすれば、金融商品取引法上の大量保有報告制度に基づき、「共同して株主としての議決権その他の権利を行使することに合意している者」として各投資家の保有割合を合算し、大量保有報告を行わなければならなくなる可能性がある。また、同じく金融商品取引法上の公開買付制度では、会社支配権に影響を与えるような取引の公平性・透明性を確保する観点から、主に市場外で株券等の大量買付けをしようとする者に対し、当該買付けについてあらかじめ情報開示を行うともに、すべての株主に公平に売却機会を付与すること(公開買付け)を義務付けているが、「大量の買付け」に該当するかどうかの判定は、「共同して株主としての議決権その他の権利を行使することに合意している者」の保有割合を合算して行わなければならない。金融庁は、集団的エンゲージメントが「話し合い」にとどまる限り、「共同して株主としての議決権その他の権利を行使することに合意している者」には該当しないものの、共同で議決権を行使すること合意した場合には、その時点で該当するとの見解を示している。
一方、英国では、機関投資家による集団的エンゲージメントは、大量保有報告や公開買付けに関する法規制の対象外とされている。このことが、英国における集団的エンゲージメントを後押ししたのは間違いない。
また、英国では、上場会社株式の実に3分の1程度を国内の主要機関投資家が運用するという時代が1980年代、90年代を通じて続いたため、集団的エンゲージメントがやりやすかったという事情もある。さらに、国内の主要機関投資家同士が均質的でつながりも強かったことも、集団的エンゲージメントを容易にした。
ただ、近年の英国では、国内機関投資家の株式保有割合は4分の1程度に低下するとともに、外国人投資家やヘッジファンドの台頭により、機関投資家間の均質性、一体感も薄れており、集団的エンゲージメントは難しくなっている。こうした中、2012年に策定された英国のスチュワードシップ・コードの原則5では「機関投資家は、適切な場合には、他の投資家と協調して行動すべきである」としているほか(日本版スチュワードシップ・コードには同様の原則は盛り込まれず)、英国株式市場の構造的問題や上場企業行動、コーポレートガバナンスについて調査・分析を行ったレポート「ケイレビュー(日本の伊藤レポートに相当)」では、投資家間の意見交換などを後押しする「投資家フォーラム」の立ち上げを推奨するなど、英国は経営者に対する牽制効果の高い集団的エンゲージメントを再び活発化させることを志向している。
この「投資家フォーラム」は、日本でも設立準備が進められているのは周知のとおり(2014年12月10日のニュース「機関投資家が企業に投げかけたい質問の一覧が明らかに」、2015年1月6日のニュース「変革著しい三菱重工と富士重工が“模擬エンゲージメント”で投資家と対話」参照)。そこで気になるのが、日本も英国のように集団的エンゲージメントを志向し、またこれが普及してくのかどうかということだ。結論から言うと、・・・
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